第8話 闇属性

 名前:ティリア

 種族:人族

 性別:女

 年齢:14歳

 レベル:3

 戦闘力:320

 魔力:1,200

 スキル:家事 Lv.2、生活魔法 Lv.2

 装備:ショートソード二本、革の鎧



 これがティリアのステータス。


 スキルの詳細はというと。


 家事:料理、洗濯、掃除、家計管理、整理整頓の能力にプラス補正などの効果。


 生活魔法:家事に利用する水を生成したり、体を清潔にする特殊な火を起こしたりできる。



(こいつ、絶対冒険者やらせちゃダメな奴だろ)



 火猿はそう思ったし、本人もそう思っているらしい。


 ただ、ティリアは元々領主の家でメイドをしていたのだが、先輩のミスの責任をなすりつけられ、仕事をクビになったらしい。


 メイドとして不適切な人材であるという烙印らくいんも押されてしまい、メイドとして再就職はできない。他にできる仕事もない。結果、仕方なく、経歴を問わない冒険者になった。


 

「……境遇には同情するが、お前はさっさと別の町に行ってメイドに転職しろ」



 森を歩きながら、火猿はティリアに言った。



「……護衛を雇うお金なんてありません。一人で町を離れるのも自殺行為です」


「救えない奴だ」


「知ってますよ! もうわたしの人生どん詰まりです! でも、でも、まだ死にたくないんです! 十四歳で死ぬなんて嫌です!」


「親は?」


「……もういません。死にました。兄弟姉妹は一応いますけど、皆それぞれの生活に必死です。他に頼れる親戚もいません」


「お前、町に帰ってもどうせ野垂れ死ぬしかなかったんだな」


「……冒険者は色々な雑用依頼も請け負えます。そういうのをこなして生きていくことも、できなくはないです……」


「生きてるんだか死んでるんだかわからん生活だ」



 ティリアがきゅっと唇を引き結ぶ。そんな生活に未来はないと、本人が一番よくわかっているのだろう。



「まぁいい。当面は俺の荷物持ちでもやってろ。飯も作れ。俺のために働くなら、レベル上げに多少付き合ってやらんでもない」


「本当……ですか?」


「ああ、本当だ」


「あなた、本当に魔族ですか? 魔族は狡猾で残忍で……見つけたらすぐに討伐すべきだって教わりましたけど……」


「そんな風に言われてるのか。困った話だな……。黒剣を避けたとしても、この先どこ行ったって追われる立場ってことじゃないか」


「おそらく、そうだと思います」


「ちっ。どっかに魔族と人間が共生してる町はないのか?」


「聞いたことありません」


「……仕方ない。向かってくる奴は殺す。それだけだ」



 話をしながら歩いていると、成長したゴブリンのような魔物に遭遇。おそらくはホブゴブリンで、三匹いる。



「ひっ、ま、魔物ですっ」


「ああ、そうだな。あれくらい俺は一人で何度も倒してる。ちょっと待ってろ」



 火猿は二本の剣を抜きつつ、ホブゴブリンに向かって駆ける。


 ホブゴブリンのうち二匹は瞬殺。最後の一匹は、両腕と両足を切り落とすだけにする。



「おい、ティリア。こいつを殺せ」


「わ、わたしがですか!?」


「レベルを上げたいんだろ? レベルの仕組みはよく知らんが、魔物を殺した数に影響するはず」


「それは……そうですけど……」



 ティリアは、手足のない体でじたばたともがくホブゴブリンを悲痛な面もちで見つめる。



「っていうか、魔物を殺したことはないのか?」


「……ありますよ。それくらい。ゴブリンを二匹……」


「じゃあ、こいつも殺せるな?」


「……はい」



 ティリアは、武器として槍を選び、両手に持つ。それ以外の荷物は一旦置いた。


 ティリアがおそるおそるホブゴブリンに近づく。ホブゴブリンは絶望の表情を見せる。


 ティリアは目を伏せながら、槍を構える。



「ごめんなさい」



 ザク。ゴブリンの頭を突き刺す。


 ティリアの戦闘力が低いせいか、傷は浅い。


 ティリアが笑った。



「ごめんなさい」



 ザク。



「ごめんなさい」



 ザク。



「ごめんなさい」



 ザク。



「ごめんなさい」



 ザク。



「ごめんなさい」



 ザク。



「ごめんなさい」



 ザク。



「ごめんなさい」



 ザク。



「ごめんなさい」



 ザク。



「ごめんなさい」



 ザク。



 十回も刺す頃には、ホブゴブリンは絶命していた。


 わずかに返り血を浴びたティリアの表情は、何かのホラー映画に登場しそうな暗いものだった。



「……お、終わりました」


「……ああ、そうだな。レベルは上がったか?」


「……上がってません。あ、でも、変な称号が加わってます……」


「称号?」


「えっと……闇属性、です」


「……それ、魔法じゃなくて称号なのか?」


「はい。効果は……殺すと決めた相手に対して、戦闘力が増すらしいです……」


「へぇ……それはそれは……」



(効果としては良いが、使い続けると精神を壊しそうな予感が……。どうなろうと俺の知ったこっちゃないという話でもあるが……)



「あ、汚しちゃったもの、綺麗にしますね?」



 ティリアは生活魔法を使い、血に汚れた槍と、自身の服なども綺麗にした。


 戦闘には使えないが、生活する上ではとても便利だ。



「……進もう。黒剣の連中が来ないうちに」


「はい」



 ティリアが再び荷物持ちとなり、火猿に付き従う。



(こいつ、強くはないが……何かそれとは違った方向性で役に立つことがあるかもな……)



 ティリアがただの純情乙女ではないことを察しつつ、火猿は先を急いだ。

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