初めてのインストラクター

市姫さんとジムに行くことに。

別にそれは良いんだけど、一つだけ問題がある。

それはジム内では俺の彼女=梨衣花ちゃんということになってしまっているのだ。

ただでさえロリコン野郎あつかいされているのに、二股野郎属性まで増えるのは困る。


しかも市姫さんとの約束で、他人の目があるときは偽装であることを話すことは許されないので、弁明もできない。


そこで、普段は行かない早い時間のクラスに行くことにした。

フィットネスクラスといって、スパーリングなしのライト層向けクラスだ。

ここなら普段会う人たちはいない。


というわけで、友人が体験で参加したいらしいのでフィットネスクラスに一緒に行きますとオーナーに伝えると、じゃあインストラクター代行よろしく、と言われた。

新婚の嫁さんとデートに行きたいらしい。

適当すぎない?

まあバイト代貰えるらしいから良いけど。


そんなこんなで当日。

駅で市姫さんと待ち合わせ。

ジムに更衣室とシャワーは無いと伝えたので(その代わり空調は効いてる)運動できる格好で来るはずだ。

ストレートロングヘアの制服姿しか見たことないので少し楽しみ。

なんだかんだいって美人だしね。


そして到着した市姫さん。

ショートパンツにレギンス。

薄手の長袖ジャージというおしゃれさんスタイルだった。

髪もポニーテールでまとめている。

めっちゃ似合ってる。


「お待たせ」


「おお、それ似合ってるなあ。

かっこいいわ」


「かっこいい?

かわいいではなくて?」


「歳上の美人女優みたいで、軽々しくかわいいとか言えないくらい似合ってる」


なんで俺はこんな恥ずかしい台詞も照れもせずに言えるんだ。

市姫さんだからかな?口喧嘩みたいなテンションで言ってしまった。

まあ、そう思っちゃったしな。


「あ、そう。

そういうことなら許しましょう」 


市姫さんも照れることなく受け止めてるし。

彼女は自己評価がとても高い。

そのくせ家バレ上等で目の前の高校に進学しちゃう迂闊さがあるというね。

そういうとこはかわいいと思う。

怒るから言わんが。


市姫さんと一緒に歩いてジムに向かう。

梨衣花ちゃんは一緒に歩く時、俺の服を掴みたがるが市姫さんはそんなことはなく、スタスタと歩く。

合わせてゆっくり歩く必要がないくらい歩くのが早い。

せっかちな人なんだろうな。

思えば俺は彼女のことを勉強ができて美人で論理的で面白い性格をしているということしか知らない。


うん?

十分か?

偽装彼氏だしな。


予定より少し早くジムに到着した。

前のクラスは無いので俺がポストから鍵を出して開ける。


「不用心ね」


「まあ金目のものはないしね」


という会話の後ジムへ入る。

中はクソ暑いのでエアコンを入れる。

涼しくなってきた頃に他の練習する人たちも到着した。

主婦の方2人とおじさんと大学生の男性。

ちょうど偶数だ。

助かる。


俺はトレーナー代行として挨拶してから、オーナーから聞いていた練習メニューを伝える。

まずはストレッチ。

そのあとミット打ち。

グローブとミットをそれぞれ付けて打つ。

他の人は交互にやってもらうが、俺は市姫さんに教えるためにミットを持って受けるだけ。


市姫さんに教えながら他の人のフォームを確認。

ジャブは問題ないけど他の打撃に体重が乗ってない。あれじゃあ手打ちだ。

まあでもフィットネス目的だしいいか。

運動にはなるし。


ちなみに市姫さんの運動神経は笑っちゃうくらい悪かった。

特に蹴りが絶望的だ。

人形みたいにへんてこなフォームになる。

女優になれる顔面をお持ちだが、アクションシーンは無理だな。


「動きがかわいいねっ!」


「死になさい」


「そこはだめ!」


躊躇なく金的狙ってくる。

残虐ファイトならやれるかもしえん。


フィットネスクラスなので楽しく運動というのが大事。

飽きないようにジャブストレートフックアッパーキックを織り交ぜながらミット打ちを指導する。

大学生の男性だけは頑張れば強くなりそうだと思ったのでちゃんと教える。


市姫さんに休憩してもらって(体力もないらしい。よく来たな)、

大学生の男性に教えていると、


「あの人って先生の彼女っすか?

めっちゃかわいいっすね」


と小声で話しかけてきた。

年下でもインストラクターには(崩れているとはいえ)敬語を使ってくれる丁寧な人だ。もちろん否定はできない。

約束だしね。


「そうっすね。

あざす」


「でもオーナーに聞いたんですけど、

先生って中学生と付き合ってるんじゃないんすか?

あの子、とても中学生には……」


「あー……、そう見えますよね。

でもあれで中3なんですよ」


オーナーに口止めしておけばよかった。

いや無理か。

そんなことしたら嬉々として広められる。


「へえ、そうなんすね」


納得する大学生。

高1と中3じゃあそんな変わらんしね。

なんとか誤魔化せた。


とはいえもうジムには連れてこないようにしよう。

バレたから何があるわけでもないが、市姫さんとの約束を守るのが大変だ。

勉強に品質保証とメリットが多いので、この関係は大事にしたい。



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