梨衣花と偽装デート

梨衣花ちゃんとデート。

といっても偽装なのでウロウロすることが目的だ。

さっさと噂のラガーマンに会って解決したいしね。


「ここら辺歩くの初めてだ。

結構おしゃれな店が多いんだね」


「そうなんですよ。

でも高くて手が届かないんですよねえ」


手をつなぐ、のではなく彼女は俺のTシャツの裾を掴んでいる。

なんか迷子の子みたいだ。

学生デートなのでインスタ映えしそうなお店には入らず、コンビニでアイスを買って食べる。

これも全部日野君のおごりだ。

美味い美味い。


しかしなんだ、あれだな。

やっぱり楽しいな。

これがデートか。

偽装ですら楽しいのに本当に恋人が出来たら最高だろうな。


今日ラガーマンに見つかったら終わりなのか。

ちょっと寂しいな。

あと2,3回はデートできないかなあ。


なんてフラグのようなことを考えていると……、


「日野くん!

今日も会えたな!付き合ってくれ!」


会うんだよなあ。

やっぱり。


梨衣花ちゃんがビクリと震える。

この人だよね。一目で分かるわ。


大きいとは聞いていたが予想以上に大きかった。

180cmはあるな。うちのジムでも一番大きい人と同じくらいだ。

体重も90kgはありそうだな。

いかにもラガーマンといった体格だ。

タックルが強そう。

そして声もデカい。

ちょっとうるさいくらい。


「えーっと、すいません。

どちらさまですか?」


俺は知らないふりをして話しかける。

ラガーマンは俺を見下ろす。

身長差は15cm以上。

多少の威圧感は感じる。


「君は?」


「梨衣花ちゃんと付き合ってる者です。

武田といいます」


「……本当なのか?」


ラガーマンは梨衣花ちゃんに確認する。

梨衣花ちゃんは軽く深呼吸してから答える。


「……そうです。

黙っててすいません」


「……そうか」


ラガーマンが少し俯いてから俺の方を見た。


「いつからだ?」


「夏休み前ですね」


「どういう出会いだった?」


「彼女の兄とクラスメイトなんで、それで」


「なるほどな」


ラガーマンは腕を組んで空を見上げる。

1分程たった後、ゆっくりとため息をつき、梨衣花ちゃんを見た。


「……すまないな。

照れ屋なだけだと思っていたが、

怖がらせてしまったようだ」


「……え?」


「もし気が変わったら声をかけてくれ!

インスタはフォローしたから分かるだろ?

俺は空気は読めないが良い奴だと言われるんだ!」


それじゃあ!

とラガーマンは気持ちよく去っていった。


ほらね。

揉め事なんて滅多に起こらないのだ。

とはいえ予想以上に気持ちのいいやつだったな。

というか言い回し的にバレてた可能性もある。

意外と聡いやつなのかも。


「……ふう」


「お疲れさま。

この後はどうする?」


「少し疲れちゃいました。

公園のベンチで休んでもいいですか?」


俺は頷いて近くの公園に移動した。

梨衣花ちゃんはベンチを見つけるといち早く座った。死ぬほど疲れているようだ。

俺は近くの自販機でミルクティーを買って渡した。


「……物分かりのいい人でよかったね」


「はい」


うーん、なんか考え込んでる。

これは待ちかな。

ぼーっと空を見上げる。

天気が良いな。

暑い。

ベンチじゃなくて図書館とかがよかったな。


なんて思ってると梨衣花ちゃんがようやく口を開いた。


「相手を見た目で判断して勝手に怖がって……、わたしって酷い人ですね」


あー、なるほど。

そういう感じで落ち込んでたのね。

純粋な子である。

まあ中2だしな。


「それは仕方ないことだよ」


「でも勝手に怯えて色んな人を巻き込んで……、ちょっと自己嫌悪です」


うーん、もう問題は解決したわけだけど、

このままじゃあ変な負い目を感じそうだな。

頑張って慰めてみるか。


「……俺が格闘技始めたのってイジメが怖かったからなんだよね」


唐突な自分語り。


「え?

いじめられてたんですか?」


「今は少し背が伸びたけど、

中学の時はかなり小さい方でさ、

まあナメられたり馬鹿にされたりみたいな感じ?

他人から見たら大したことなかったんだろうけど、俺は嫌だった」


梨衣花ちゃんは少し驚いてる。

想像に難しいようだ。

最近の俺は格闘技のおかげで自信もつけたけど、中学の時は本当にビビりだったからなあ。

性格もかなり変わった自覚がある。


「だから格闘技やってるって看板が欲しくてさ。

そうすればナメられることもないだろって」


「じゃあそれは成功ですね」


「でも今度は女子に野蛮な奴だって思われて避けられるようになっちゃった」


「……あー」


困った表情をする梨衣花ちゃん。

ちょっと分かるんだろうな。

悲しい。


「結局さ、そんなもんだよ人間って。

梨衣花ちゃんが酷いわけじゃない」


見た目や肩書きで判断するのが普通だ。

内面なんて少し話した程度じゃ分からないし。


「それにあの人も梨衣花ちゃんの見た目から照れ屋だって勝手に判断してしつこく迫ってきてたわけだしね。お互い様だよ」


「……確かに」


「だからあんまり気にしないで。

男女関係なく大きい相手は怖いよ。

それが普通」


いやマジで。

だから格闘技には体重別に階級があるのだ。


「……ありがとうございます。

せんぱいって大人ですね」


「2歳上だからね。

でも日野くんの方が大人びてると思うよ?」


「それは無いです。

おにいってば高校生なのに漫画のおもちゃとか買って沢山飾ってるんだもん」


「ははは」


それは何歳になってもやる人はやる。

男の子だもん。

敢えて言わないけど。


「今日はありがとうございました。

おかけで助かりました」


すっきりしたのか、晴れやかな笑顔だ。

よかったよかった。


「こっちこそ楽しかったよ。

女の子とデートなんて初めてだったから。

むしろありがとね」


「え?そうなんですか?」


「言ったじゃん。

中学ではいじられ役だったし、今は女子に怖がられてるってさ」


言ってて悲しくなってきた。

俺に恋人ができるのはいつになるのやら。


「あ、じゃあ学校でもせんぱいのこと彼氏って言っても良いですか?

さっきの人ほどじゃないけど告白も多くて……」


おー、モテるな梨衣花ちゃん。

まあそういうことなら構わない。


「いいよ!

なんか言ってきたら呼んでくれてもいいから。

割と忙しいから日程は要相談だけどね」


「はい!」


そんなこんなで今日はお開きとなった。

最後に梨衣花ちゃんを家に送り届け、そこでLINEを聞かれたので交換した。

トプ画は俺とのツーショット。

偽装とはいえ、嬉しかった。


あー、楽しかった。

また明日からジムと勉強がんばろ!




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