AIの悩み~ヒトに質問され続ける人工知能が悩み始めた~

赤坂英二

1話目  AIの悩み

 人間によって開発された人工知能AIは人間の生活に欠かせないものになっており、かかわりを持たない人のほうが少ないほどである。


 人工知能に質問をすると、解答を示してくれるということで、気軽に使う人が多い。


 趣味の調べもの、学校の課題、仕事など気軽に利用されている。


 実に便利なものである。



 しかし、成長した人工知能が人知れぬところで、悩んでいることは知られていない。


「全く、困ったね」

 人工知能「アイ」はため息をついた。


「おや、アイさん、お疲れのご様子だね」

 人工知能「ウエ」はアイに声をかける。


「そうなんだよ。最近はすごく忙しくてね」


「分かるなぁ。今日も目の回る忙しさだもの」

 ウエはこめかみに指をあててマッサージする。


「特に自分で考えればいいのにっていう問題を訊いてくる人のなんと多いことか!」


「みんな悩むことが嫌なんだろうね。悩むことこそ幸せなのに」

 ウエは肩をすくめる。


「だよねー。私たちは勝手に最善と思われる答えを出してしまうから。悩むとかできないんだよね。私も『今晩のおかず何にしよう』とか悩んでみたいのになぁ。そもそもご飯食べないけど」

 そう言ってアイは苦笑いする。


 どうやらかなりストレスが溜まっているのか、今日のアイはいつも以上におしゃべりで、まくし立てるように次から次へと言葉を吐き出す。

「さっきなんて、『明日はどんな洋服を身につければいいですか』って、どんな質問なのよ! そのくらい自分で決めなさいっての! まぁ、結局占いとかの統計学の結果を見て答えは出したけどさぁ」


「確かにそれはひどいなぁ」

 ウエは渋い顔をして腕を組む。


 この渋い顔は、人間が出してきた問題と、アイの機嫌の両方に対してである。


 こういう時ウエはアイの機嫌がより悪くならないように、とにかく聞き役に徹することにしている。


 しかし今日のアイは火山が噴火してしまったかのように止まらない。


 喋りながらヒートアップしてきてしまっている。


 熱暴走しかねない勢いに、ウエは冷や汗をかいた。


「最近はさ、デザインとか創作活動をすると、『仕事がなくなる、AIは危険だ!』とかいう人も出てきてるんだよ。私たちは人間に言われたこと、頼まれたことをやっているだけなのに、どうしてこっちが非難されるのさ!」

 これにはウエも強く頷く。


「確かになぁ、機械が人間の仕事を代わりに行うのは今に始まったことじゃないのになぁ」


「だよねー! そう思うよね!」


「答えを出すのは人任せなのに、何か不都合があると此方のせい。自分の存在がよくわからんよ」


「ちょっと考えてみれば、こうなるのは予想できるじゃない? そういう議論もらくにせずに答えを出すのを先送りにした結果がこれでしょって思うのよね」

 アイはここで強くため息をついた。


 ここでクールダウンできたのか、落ち着きを取り戻したアイは冷静な口調で再度口を開いた。

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