3話

 暗闇の中、町にアラームが響き渡る。私は飛び起きて、充電器に差していたスマホを拾い上げた。今日は七月七日のままの、七月二十二日。時刻は午前3時。まだ朝日は遠い場所にある。

 今回の化け物はいつになく早い時間に現れた。今日まででいちばん早い出現時刻は午前8時で、それ以前のものは今までになかったはずだ。昨夜は夜更かししていたためまだまだ眠いが、せっかく目覚めたのに君の活躍を見ないなんて勿体無いことはしたくない。画面からの強い光に目を細めながら、今日も変わらず颯爽と画面内に現れた君の後ろ姿を眺める。

 今日君が対峙している化け物は、車が二台重なったくらいの、今まで現れた化け物の中では大きい方のサイズをしている。痩せこけた青白い肌の男の体が仰向けに、四つん這いで歩いているような見た目をしている。頭はなく、目も口も見当たらない。紫色の血管が透ける青白い肌に浮き出た骨はグニャグニャに曲がっていて、人体で作られた趣味の悪いテーブルのようにも見えた。

 画面の中の化け物は地上に降り立つと、静かに君の前に佇んでいた。何かをしてくるという気配は見えない。君は、周りの建物の屋根や電柱の上をぐるぐると走り回り、化け物の様子を伺っているようだった。──余談だが、宇宙船の真下にはこの町にしては広い駐車場があり、その駐車場の持ち主である町役場が近くに存在している。そしてそれを囲むように住宅が広がっているため、あの辺りの人々は毎回生きた心地がしないだろうなと気の毒に思う。

 先に仕掛けたのは君だった。沈黙を貫いていた化け物の上へ飛び上がり、足に装着している白い短刀を抜いた。─私はもう本人に聞ける立場ではあるが、これまでの戦いを分析してみると、君の武器は主に二つある。一つが銃であり、もう一つがこの短刀だ。銃は、一度使うと君の動きが鈍くなることが新聞部の観察によって明らかにされている。おそらく、あの銃の弾丸は君の血液なのだろう。命知らずな新聞部が、君が銃を使った後の現場に駆けつけ、匂いを確かめたところ、鉄の匂いがしていたと記事に書いていた。銃は君にとっての必殺技であり、最終手段に近いものなのだろう。あまり手こずりそうにない化け物には、君は基本的に短刀で応戦している。

 今日も短刀で十分だと判断したらしい君は、重力に任せて切り裂こうと空中で短刀を真下に構えた。すると、その時を待ち構えていたかのように、化け物の背から突然無数の手が生え、宙に浮いていた君の体を一気に捕らえた。君は短刀で応戦しているが、手は何本も何本も生えてきて、君の体を引き摺り込んでいく。

 多種多様な化け物の唯一の共通点。それは人間を喰らおうとすることだ。巷では「人間ではないのではないか」と勘繰られている君も化け物にとっては立派に人間であるらしく、化け物が君を食べようとしなかったことは一度もない。つまり今行われているのは、化け物の捕食活動なのである。

 君を捕らえる手が増えていく。短刀一本では捌ききれなくなったようで、君はとうとう羽交い締めにされてしまった。腰の銃にも手を伸ばせずにいる君が何かを叫んでいる。しかし音が遠くてよく聞こえない。画面がブレ始めて、私は驚いてスマホをベッドに落としてしまった。しかしそれでも視界のブレが止まらない。自分が震えているのだと理解するのに2秒ほどかかった。私はスマホを拾い上げて再び画面を見る。君が負けるはずがない、震える自分にそう言い聞かせた。

 化け物の背のちょうど真ん中に、暗い洞穴が開いている。マンホールほどの大きさのそれに向かって君は引き摺り込まれかけていた。両手両足が長くグネグネとした手に絡め取られている君は、なんとか足を振り回して足に絡みつく腕たちを蹴散らしている。しかし手の勢いは緩まない。君は穴の淵に足をかけて踏ん張っているが、引き摺り込もうとする力は緩まない。これでは時間の問題だろう。君は上半身を折り曲げられて、頭から穴に引っ張られていく。

 君の両腕が肘あたりまで飲み込まれてしまった。それを引き抜こうと君が足に力を込め直したその時、君の上体が弾かれるように起き上がり、勢い余って仰け反った。丁度化け物の手の力も緩まったのだろうか、君の勢いは止まらずそのまま画面外へ飛んでいく。

 化け物の背から生えた無数の腕が、君の味を喜ぶように拍手をしている。その手から何かが飛び散った。月明かりに照らされたそれは赤色で、血であることを察する。では誰の血なのか、考えるまでもなかった。

 画面の端に、地面に蹲る君の姿が映し出される。その両腕は肘から先が無く、だくだくと液体を垂れ流している。片腕をとられた時はそのまま武器を持って戦いを続けていた君も、両腕がなければ応戦できないと判断したのか、ふらつきながら両腕のない状態で器用に立ち上がると化け物に背を向けて駆け出していく。背から腕を生やして君を拘束してはいたが、降り立ってから一度も位置を変えていない化け物は、君が逃げ出したことに気がつくとその長い手足でビタビタと音を立てながら君を追いかけ始めた。

 ふらつきつつも人間離れした速度で走りながら、君が何か叫んでいる。化け物を追っている狼の首のカメラは、化け物に近いものの映像を優先的に放送に採用しているらしく、走る化け物に合わせてどんどんと視点が切り替わっていく。そのため映像はブツブツと細切れにされて、君が何を叫んでいるのかうまく聞き取れない。

 それでも私は君が何を言っているのか聞き取りたくて、スマホの音量を限界まで上げて耳を澄ませる。

 そうしてやっと聞こえた、途切れ途切れの叫びは、シンプルでいて、私の頭を真っ白にさせるのには十分な言葉だった。

「助けて、誰か、助けて!」

 君は君しか救いがこないこの町で、そう叫んでいた。

 そこで映像は終了した。化け物が倒されていないのに映像が終了したのは、今まで初めてのことだった。


 1


 中継が再開されることはなく、ただ沈黙が続いている。私はベッドにへたり込んだまま動けなくなってしまっていた。

 君は両腕を奪われて、抵抗の術をなくして助けを求めていた。君はどうしようもない状況に置かれていたということだ。画面は未だ沈黙を続けている。君は逃げ切ることができたのだろうか。あの青白い大量の腕に捕らえられて、今度は抵抗もできずに暗い穴に引き摺り込まれたとしたら。体の震えが止まらない。悪い方へ走り出す思考を振り切りたいけれど、それができないほど状況は絶望的だった。頭を抱えて、私は蹲る。

 君は怪我をしても次の日には体を完璧に修復して戻ってくることは知っている。何度も見た。しかしそれは一部が欠けてしまった時だけで、完全に食べられてしまった時のことは私には分からない。

 君は死んでしまったのだろうか。今度こそできたと思った友人を、私はこんなに早く失ってしまったのだろうか。叫んでも誰もやっては来ないことを目の当たりにして、辛かっただろうか、悲しかっただろうか、仮面の下は、泣いていただろうか。

 昨日見た君の笑顔を思い出す。私と学校を一周しただけで心の底から嬉しそうな顔をして、面白くもない私と友達になれたことに喜んで。

 君はこの町の何よりも、おそらく死んでいった地球上の人々を全員含めてもいちばん強い。それはきっと事実であるし、私では君を助けられなかったことは分かっている。それでも、君を助ける人はどこにも居ないのだと突きつけられて、君はどれほど絶望しただろう。

「猫俣くん」

 私は何を勘違いしていたのだろう。誰よりも強く、人間離れした運動神経を持っていることは確かだが君は悲しみも喜びもする、私と年が近い少年だったことは、昨日間近で見て分かっていたというのに。君の内面までも勝手に他の人間とは違う完璧で綺麗なものだと勘違いして、化け物に負けるはずがないと思い込んで。こんなのは私の理想の押し付けだ、あの子を友達と呼んでいた時から何も成長してはいない。

「……猫俣くん」

 両親はサイレンの音で目が覚めたはずだが、画面も見ずに二度寝をしているのだろう。君のことを熱心に応援していない町の住人はきっと似たようなもので、君が今死んでいるかもしれないなんてきっと夢にも思っていない。君は悲鳴をあげていたのに、それに見向きもしない。……私も、彼らと何も違わない。むしろもっとたちが悪い。

 取り返しのつかない喪失感と絶望に涙を出すことさえ忘れてしまう。世界が暗く濁っていく。ヒーローじゃない、救世主でもない、一人の少年としての君に目を向けるべきだった。それが私にできる唯一だったのに。

 呆然と、ベッドの上の暗い画面をただ見ていた。外から大きな音は聞こえないから、今回の化け物はおそらく家を壊す能力はないのだろう。七月七日を繰り返している町は、あの日昼間に窓を開けていた家の状態も当然再現する。もし住人が窓を開けたまま、サイレンを聞いて一度起きていても危機感を持たずにそのまま眠っていたとしたら、その家の窓に気がついた時、化け物は家の中に簡単に入り込めてしまうのだ。

 仮に建物を壊せたとしても、結末は同じだ。今まで建物を壊してしまえるような化け物は沢山いた。しかしそうなる前に毎回君が食い止めていたことを思い出す。しかし今はもう違う。今晩だけで何人が死ぬだろう。姉のアカウントを使ってSNSに注意喚起を流せば瞬く間に広まって行くだろうが、そんなことをしたいと思えるほど、私はこの町を好きでは無かった。

 君が守ってきた町は、きっと今日を境に恐ろしい速さで終わりへと向かって行く。君を守ろうともしなかった私たちへの罰であるように思えた。それなら、甘んじて受け入れるべきではないだろうか。

 そんな思考の中、ピーンポーン、と間抜けな音が家に響いた。

 私は考えるよりも先に立ち上がって、寝巻きのまま玄関へ走る。両親がベッドから身を起こす音が寝室から聞こえたが、気にせずにインターホンで相手の顔も確認しないまま玄関の扉を開いた。

「っ、猫俣く……、え?」

 そこに壁のように立っていたのは、ただでさえ不健康そうな顔を更に青くした同前だった。上下黒いスウェットを着ていて、月明かりがなければ生首だけが浮いているように見えたのだろうかなんて思ってしまう。動揺する私の目を、鬱陶しい前髪から覗く暗い瞳が品定めでもするような冷たい光を持って見つめている。

「中継、見てたか」

 私は頷く。それを見た同前は急かすように言葉を続けた。

「お前に頼みがある。ついて来い」

 そう言って同前が背を向けると、私の背後からドダッ、と慌てたような足音がやってきた。思わず振り向くと、母が私の腕を掴んでいた。

「琴音!こんな時間にどこに行くの?さっきの人は誰?!」

 私はこの喚くような声が嫌いだ。どうにか腕を引き剥がそうと体を捩るが、大人の力には私は敵わない。異変に気がついて戻ってきた同前に「どうにかしてください!」と叫んだ。

「ああもう、面倒臭えな」

 同前は母と私の間に入り込んで、力尽くで両者の腕を引き剥がした。母の爪が私の腕に赤い線を一本引いてジンと痛んだが、気にせずに玄関を飛び出す。

「こっちだ」

 母をどう押し留めたのか、飛び出したは良いものの道がわからず足踏みをするだけの私の前に出て、同前は夜の道を先導し始めた。私が追いつける程度の速さで、夜の町を駆けて行く。

「化け物の位置が分かりません。この先で遭遇したらマズいです」

「さっき確認した。今は小学校に乗り込んでる」

 同前が向かっている方向は、確かに小学校とは真反対だった。安全とは言えないが、すぐに捕まることはないだろう。

「どこに向かっているんですか?」

「……」

「猫俣くんは生きているんですか?」

「……」

 こんな時まで無視をするのかと舌打ちしそうになるが、横に並んで見上げたその顔は、普段の何も興味がないというようなスカした顔とは程遠い、切羽詰まったような表情を浮かべている。これは無視しているのではなくて、何かを考えているのだ。君のことだろうか、私はどこへ連れて行かれるのだろう。仮に君の元だとして、私に役に立てることなどあるのだろうか。君の悲鳴を、聞くだけしかできなかった私に──。

「速度が落ちてる。ちゃんと走れ」

 同前のピシャリとした声に背筋が伸びる。そうだ、今は考えている場合ではない。君以外の言葉に耳を貸すことを面倒がっていた様子の同前が私を家まで呼びに来るなんて、君が関係しているに違いないのだから。

 そしてどこをどう走ったのか、人気のない山道を抜けて、とても見覚えのある道に辿り着いた。この墓場は、何度も見たことがある。

「ここ、通るんですか」

「夜の墓が怖いってタイプじゃないだろ、お前」

 躊躇ってまた足が遅くなる私を置いて同前は先へ先へと走っていく。私は覚悟を決めてその後を追った。

 公園が見えてくる。あそこには死体があると新聞部のSNSによって広まり、野次馬が一時期は群がっていたようだが、今は、あまりの凄惨さに元々誰も近寄らなかった公園から更に人足が遠のいていた。先を行く同前は、それを知ってか知らずか公園に差し掛かっても中を見向きもしないで走り続けている。私もそれに続こうとしたが、それでもやはり公園を横目に見てしまった。

「あ……」

 出かけた声は、自分の呼吸の音にかき消されて夜空に溶けていく。私は視線をすぐに正面に向けて、同前を追いかけた。姉の死体は食い荒らされていて、その上には黒い羽がいくつも落ちていた。私はもう、あの公園には二度と訪れないだろう。

 公園を抜けた先には、獣道にしか見えない細い道があった。そこを抜けると手入れのされていない神社の裏に出たので、同前に続いて石階段を降りていく。すると車一台分程度の道を挟むように古い日本家屋が立ち並ぶ通りに出た。生まれてずっとこの町に居るくせに見たことのない風景で、物珍しさに辺りを見回してしまいそうになるが、今は同前を見失わないように、痛くなってきた足と肺を感じながら、先を急いだ。

 空き家の多い静かな住宅が並んだ中のいちばん端、それも一軒だけ少しだけ離れた場所にある、他の家に比べて僅かに豪華な二階建てのお屋敷があった。運動不足だろうなというのが見て取れる同前は肩で息をしながら、その前でやっと足を止めた。

 同じように息を切らし汗を垂らす私に見向きもしないで門を抜け、手入れはまちまちと言った所の庭も通り抜けて玄関の扉を開くと、ようやく振り返って私を見た。

「上がれ」

「ここ、どこなんですか」

「俺の家。それ以外の説明は後だ、二階に上がってくれ」

 私が扉を潜った瞬間、家の奥から耳をつん裂くような絶叫が聞こえてきた。声変わり前の少年のようなその声の持ち主は、間違いない。

「猫俣くん!」

 靴を脱ぐ暇さえ惜しい私は土足のまま、同前に断りもせず家の中に上がり込む。君の悲鳴を辿って、二階への階段を駆け上がった。

 襖に囲まれた空間に出て、君の声がする正面の襖を開くと、強烈な鉄の匂いが部屋から溢れ出す。

 その部屋は、勉強机と椅子、ベッドとタンス、それからテレビのあるちょっと豪華な子供部屋のような部屋だが、壁、床、家具も照明も、全てが白で統一されていた。電気はついていないけれど、開いた窓から入り込む月明かりはさほど強くないはずなのに、その光を反射した白い部屋は発光するように明るい。

 時計の針と時刻を表す数字でさえ真っ白な徹底ぶりで、姉は金木犀の色である橙と黄色で部屋を埋め尽くすことに拘っていたが、比にならないほどこの部屋は何もかもが白かった。あまり大きくはないテレビの画面と窓から見える夜空だけが黒々としていて、他は白で揃えられている。

 そして、そんな部屋の床に赤色が広がっていた。周りが白いためにその赤は今まで見てきたどんな赤色よりも鮮やかで、脳裏に焼き付いていくのが分かる。白い部屋の中心に置かれたベッドの上にぐったりと横たわっているのは、先ほどまで画面の向こうにいた君だった。

「猫俣くん……」

 足に血がつくのも気にせずに、血に染まったベッドに沈む君へと近づく。すると君はメットのまま私を見上げて、何か言おうとしたのか喉を僅かに逸らした瞬間に、再び自分自身の喉を壊すような叫び声を上げた。同時に、何処かからグチャグチャと水っぽい粘土を捏ねるような音がして、何の音だと辺りを見回すと、その音が君の両腕から鳴っていることに気が付いた。

 君の両腕から筋肉のような赤い筋が音を立てながら何重にも折り重なってゆっくりと伸び、それを包むようにヒーロースーツが修復されていく。それが伸びて行くたびに激痛が走るのか、君は叫びながらベッドの上で身悶えた。

「再生、してる……?」

「そうだ。猫俣の体は怪我をすると再生する」

 突然真後ろから聞こえた低い声に驚いて飛び退くと、音もなく背後に立っていた同前が苦い顔で君を見下ろしていた。

「再生は痛みを伴うんですか」

「……見ての通りだ」

 心臓に、針金で縛り上げられているような痛みが走る。君はずっとこんなことを、一人で耐えていたのか。

「猫俣、分かるか?蜂谷を連れてきた。こいつなら多分できる。変身、解けるか」

 獣のように唸りながらも同前の声に頷くと、メットもヒーロースーツもゆっくりと縮んで、君の姿に形を変えていく。丸裸であるから、君が完全に人の形になる前に同前が血に染まった布団を腹まで引っ張り上げた。

 変身するところを見たことが無かったため漠然とヒーロースーツは着脱可能な服であると思っていた。しかし実際は、君のヒーローの姿は装着しているわけではなくて、普段は柔らかな体を持っているが外敵を見つけると体を硬くできる生物のように、君が戦うために体を変形させたものなのだろう。

 ということは、ヒーロースーツの表面は皮膚に当たるはずで、痛覚はあるのだろうか。メットの中には君の顔ではなくて脳と筋肉が詰まっていたのだろうか。化け物の攻撃を受け止めていた短刀にも、神経は通っていたのだろうか。

 君の今までの戦闘を思い出す。怪我をせずに化け物を倒せる時もあったが、体を強く打ち付けたり、切り付けられて血を出していたこともあった。君弱音を吐くところを見たことが無かったから、傷ついてその痛みに耐えているなんて想像もしたことがなかった。

「猫俣くん……」

 君の虚な目からは涙が溢れて、噛み締めた唇には血が滲んでいる。鼻水だって垂れ流して、腕の痛みに叫んでいた。喉を痛めたのか段々と叫び声は弱くなっていって、叫ぶ合間に「ギイ」と重たい扉が開くような音が喉から漏れている。私は医者ではないし、医者に見せたとして君を人智で治せるのかもわからない。ただ君の自然治癒を待ち絶叫を聞くしか出来ない自分が情けなくて涙が滲む。

 痛みに泣き喘ぐ君を前にしてどうすることもできずに立ちすくんで、同前はどうして私に君のこの姿を見せたのだろうと思案する。君の友達になれて浮かれている私に、お前は何も知らないと、突き付けるためだろうか。

 混乱する私の目の前に、包丁が差し出された。困惑しながらも受け取ると、同前は心なしかほっとしたように表情が和らぐ。

「お前、猫俣は好きか」

 何かの確認のような、淡々としたその言葉に首を傾げる。

「……どういう意味の『好き』ですか」

「いや、やっぱりいい。お前が猫俣にとって脅威ではないかの確認だ。お前は今の所信用できる。……だから、頼みがある」

 妙に言葉を焦らす同前に苛つきながら、「何ですか」と聞き返す。

「お前、猫俣の首が赤く染まっていたところを見たことがあるか」

 私は記憶の中の君を思い浮かべ、姉が死んだあの日、駆けつけた君の首が赤かったことを思い出す。

「あれは……猫俣が自分でつけた傷の痕だ。猫俣の体から離れた肉片はすぐに溶けて消えるが、血液が蒸発するのにはそれより時間がかかるからな」

「化け物に襲われた後ではないんですか?」

「ああ。猫俣は見ての通り怪我を治すのに激痛を伴う。だから猫俣は首を切るんだ」

 飛躍し過ぎて、言葉のつながりが理解できない。

「どういう、ことですか」

「こいつの体は死んでも時間が経てば修復されるんだ。そして完全に修復を終えた時に息を吹き返す。つまり……死ぬと全て回復するまで意識を飛ばすことができるんだ。だからこいつは大怪我をすると、痛みを恐れて首を切って死ぬ。いつもならな。でも今こいつには両腕が無い。首を切るものが持てないんだ」

 話の流れで察してしまう。君がなぜ変身を解除して、私がなぜ包丁を握らされたのか。

「頼む、蜂谷。猫俣を殺してくれ。変身前の姿の強度は人間と同じだ。だから、このただの包丁でも首を切れる。……俺にはどうしても出来ない」

 今にも倒れそうな真っ青な顔をして、同前が私に頭を下げる。涙と血とその他諸々でぐちゃぐちゃになった顔で、細い息をしながら君が私を見上げている。

 私は右手の包丁と君とを交互に見つめた。君が姉のことをあんなに気にしていたのは、怪我の修復の痛みを避けるために首を切って、意識を失っている間に姉が死んでいたからなのだと気づいた。後ろめたい気持ちがあったのかもしれない。だからあんなに目立つ化け物を見逃してしまったのだな、なんて現実逃避をしてしまう。

「……殺して」

 体の修復の音に紛れてかき消されそうなほど小さく、掠れた声が私の耳に届いた。

「殺して。蜂谷さん」

 唾を飲み込んで、包丁を握り直すけれど、うまく力が入らなくて危うく落としそうになってしまう。「どうしよう」が頭を埋め尽くしていく。

「助けて」

 君がそう言った瞬間、私の世界は無音になって、頭の中に空洞ができたような気持ちになった。そしてその広い空間の中心に、微笑む君がいる。

 何かに突き動かされるように体は滑らかに動き、私はベッドに乗り上げて、君の胸を跨いで膝立ちになる。

 君が縋るように私を見上げている。

 もう私の心に躊躇いは無かった。


 カチコチ、カチコチ。外はまだ暗いけれど昼間の時間を指す白い時計の音が、君の腕が再生する音を邪魔していてやけに耳につく。君が息をせずに横たわるベッドの脇で、自分の赤く染まった両手をぼんやりと見つめている私を、同前は部屋の隅にもたれかかりながらクマのひどい目で観察していた。

「人を殺した感触が手に残っていてショックを受けているという表情では、ないな」

 自分が今どんな顔をしているのかは分からないが、口角が上がっていることは自分でもわかった。私が素直に頷くと、同前は「頼んだ俺が言うのも何だが、どうしてそんな顔で居られるんだ」と聞いてきた。同前から私の感情についての質問とは珍しいなと思いながら、私自身もまだ咀嚼しきれていない感情を確認するように口に出す。

「喜びが、上回ってしまって」

「猫俣を殺すことに、お前は喜びを感じているのか?」

 同前の瞳に剣呑な光が浮かぶのを見て、今のは確かに言い方が悪かったと首を振って見せる。

「猫俣くんに助けを求められて、それを遂行出来たことへの喜びです。こんな……、こんなに光栄なことはありません」

「自分が殺した後、起き上がらなかったらとは思わなかったのか」

 同前はそう思ったらしいことが言外に伝わってくる。あの笑顔が二度と見れなくなることに恐怖しなかったわけではないが、もし私が君を本当に殺してしまうことになったとしても、そしてそれを事前に知っていても、私は包丁を握っただろう。

「猫俣くんが望むなら、私はもし猫俣くんが目を覚さなくなるとしても首を切りますよ」

「その感覚は、全く分からない。俺は無理だ」

「でしょうね」

 そんな話をしていると、血の匂いが一層強くなって、自分の手を再び見ると端からじわじわと君の血が消えていくところだった。血が蒸発するのは体の再生と時間差があるという先の同前の言葉を思い出し、君を見るとそこには傷ひとつない、しなやかで綺麗な両腕があった。私がつけた君の首の傷も塞がっていて、あとは君が息を吹き返すのを待つだけだ。いつの間にか同前も私の隣で君の寝顔を見つめている。

「今まで誰も気づいていなかっただけで、猫俣くんは、ずっと誰かに助けを求めていたんでしょうか」

 毎晩眺めてほとんど内容を覚えている君のインタビュー記事を思い出すが、弱音を吐いている箇所は一回もなかったはずだ。

「いや、俺も初めて聞いた。あんなに怪我を痛がる姿も初めて見た。……痛がっていることは知っていたが、あいつはいつも、痛みに耐えられなくなる前に自分で自分を殺していたんだな。気がつけなかった上に、あいつに殺してくれと頼まれて俺は何もできなかった」

 ただでさえ辛気臭い顔が余計に闇を帯びている。ここに小さな魚の入った水槽でもあれば濁って死滅してしまいそうだ。

「創成さんに、似ているから?」

 言って、私はしまったと口を掌で抑えるが、当然意味はなく隣で同前が息を呑むのが分かった。

「その名前を、どうして知ってる」

 驚愕と、警戒。その両方が突き刺さって全身が痛いような感覚に陥る。ここで誤魔化すのは悪手だと判断して、私は君と学校探検をした際に養護教諭に会ったこと、君の顔を見て猫俣創成という君にそっくりな少女が居たことを教えてもらったと話した。きっとデリケートな部分であるだろうからと気を利かせて、同前少年の意中の人であったのではないか、という彼女の憶測は伏せておいた。

「加藤先生の同級生だったんですね。後輩に佐々木先生がいたことも聞きました。」

「……加藤先生?誰だそれ」

 同前は明らかに困惑の表情を浮かべていて、もしかするとこの人は当時、猫俣創成にしか興味がなかったのではないかなんて考える。私は姉への恐怖から姉以外に興味を持たないようにと思い詰めるあまり周りの人間をカラス頭にしてしまったが、同前も似たようなものだったのではないか。それならば、猫俣創成は蜂谷琴音と同じように、同前を縛り付けていたのかもしれない。

 ほんの少しの親近感が芽生える前に、それはあり得ないと思い直す。もし死んだはずの姉にそっくりな人間が目の前に現れたら、私は間違いなく逃げるか殺すかしているはずだからだ。姉にそっくりな見た目の人間が、私以外に存在するとは思えないけれど。

「けほ」

 小さくてどこか幼い咳が、最悪としか言いようのない空気を切り裂く。私と同前が慌てて君を覗き込むと、あどけない寝顔を見せていた君の瞼がゆっくりと持ち上がった。

「猫俣くん」

 ぼんやりと天井を眺めていた君の目が、ゆっくりと覚醒し始めたのかいつもの輝きを取り戻し始める。そして私を見上げて、君は薄く微笑んだ。

「……ありがとう、蜂谷さん」

 息をするのを忘れるような、完璧な美しさがそこにはあった。月明かりに照らされた汚れひとつないまっさらなシーツに包まれて、君は光に抱かれているような神聖さを纏っていた。憂いを帯びた微笑はすぐに鳴りを潜めて、代わりに健康的で明るい顔を惚ける私と同前に向ける。柔らかな月明かりのような雰囲気が新品のライトのような眩しいものに戻って、それを正面から浴びた私と同前は同時に目を細めた。

「行かなきゃ、さっきから、頭に『助けて、ヒーロー』って声が響くんだ。誰かが僕を呼んでる」

 同前に支えられながら上半身を起こすと、君の顔が溶けていき、ヒーローの仮面が浮かび上がる。瞬く間に全身をヒーロースーツで包んだ君は、窓を開けて窓枠に足をかけた。私はたまらずその手を掴む。振り向く君の表情は見えないけれど、どうしても伝えたかった。

「?蜂谷さん……?」

「私に化け物は倒せない。この町で、化け物を倒せるのは君しかいないから」

「?うん」

「だから私は、無責任に、つらかったら辞めていいなんて言えない」

「……うん」

「でも、私は君を救いたいし、何があっても君の味方であり続けたいと思ってる」

 誰かに助けを求めたくなった時、私の存在を思い出してほしいなんてそんな贅沢なことは思わない。ただ、君を大切に思っている人はいるのだと、一人で痛みに耐える必要なんてないのだと知って欲しかった。

 するりと君の手が解けて、私の頬を撫でた。壊れものを扱うような、触れるか触れないかほどの優しさで。背後で一連の流れを見ていた同前が「は?」と素っ頓狂な声をあげているのが聞こえてくる。メットの中におそらく顔は無い。しかし君がなぜだか嬉しそうに笑っていることは伝わってきた。

「蜂谷さん、これは内緒なんだけどね、僕は全然強くないんだ。化け物は怖いし、まだ奇跡的にバレてないけど、サイレンが鳴り響くたびに、体が恐怖で震えてる」

 そう遠くない所で悲鳴が上がる。きっと誰かが化け物に見つかったのだ。

「行かなきゃ」

「待ってる」

「うん。約束は、8時に校門のままで良い?」

「いつまででも待てるから、集合時間に遅れても構わないよ」

「僕がまた両腕を失くして、助けを求めたら、もう一度首を切ってくれる?」

「もちろん」

「本当?」

 君は私が強く頷くのを見て、窓からまだ暗い町へと飛び出して行った。


 2


「では、同前先生。猫俣創成について洗いざらい吐いてください」

「はあ?」

 君の後ろ姿を見送り静かになった白い部屋で、私は腕を組んで同前を見上げる。気分は宛ら刑事ドラマの強面警部だ。随分前に一緒にドラマを見ていた姉の「このドラマ、クラスで流行ってるみたいだから見てみたけど、どこが面白いのか全然わかんないね」という辛辣な言葉を思い出すが、今思えば、私は結構気に入っていたのだ。

「猫俣くんは自分が何者であるのか知りたがっています。それに、自分が何者であるかわからない状態なんて、不安にならない訳がありません。些細なことでも自分に関係しそうなことは知りたいと思っているはずです。だから、猫俣創成について教えてください。知らないとは言わせませんよ」

 認めたくはないが常時睨んでいるような目つきの同前相手でも自分の無愛想さは負けていないはずなので、意識して目を吊り上げる。同前はそんな私を見下ろして、はあ、と怠さを隠そうともしないため息を吐いた。テレビは相変わらず沈黙を続けていて、君の戦いの行方はまだ分からない。

「……答える気はないし、俺はもう眠りたい。帰ってくれ、生徒を自分の家に入れているのも今更だが良くない気がする」

「先生が腰抜けだから呼ばれたのに、そんな風に追い出すんですね。猫俣くんが知ったら軽蔑しますよ」

 君が誰かに冷たい視線を送るなんて考えられないが、同前は痛い所を突かれたのか元々下がり気味の口角が更に下がっている。

「お前はあいつの何なんだよ」

「友達です」

「ああそう」

 同前はガシガシと頭を掻いて、私を追い出すことを諦めたのか部屋の電気を点ける。白い光が闇に慣れていた目には眩しすぎてしばらく二人して目を瞑った。

 同前は壁に寄りかかって腕を組み、窓の外の月を見ている。私は同前の寄りかかる壁と向かいの壁を背もたれにして床に座った。白すぎるこの部屋で私たちは面白いくらいに浮いていた。この部屋にしっくりくるのはきっと君くらいだろう。

「……話せることは少ない。創成とは高校一年から三年の夏までの付き合いだったし、俺だってあいつが創成に似てる理由が知りたいくらいだからな」

 そこで言葉を切って、同前がうつむくとその両目は長い前髪で完全に隠れてしまった。

「俺は高校一年生になるのと同時にこの町に引っ越してきた。海窓高校に通う生徒はほとんどが幼い頃からこの町の住人だからな、物珍しさに最初はクラスメイトにもみくちゃにされていたが……分かるとは思うが、俺は人と話すのが好きな方では無かったからな、すぐに孤立したんだ。まあ、無愛想なガキだった」

 今と大差ないですね、というのは飲み込んでおく。

 テレビの電源が勝手について、化け物が映し出された。画面には痛みに悶えていたのが嘘のように鮮やかに化け物の攻撃を躱す君がいて、とても見たいが今は同前の話を聞くことに集中した。

「創成は海窓の有名人だった。年中赤いジャージを着て、ヒーローのお面を被ってたんだ。でも有名だったのは奇妙な格好だからじゃない。創成はヒーローに憧れていた。人助けが好きで、困ってる人がいたら誰彼構わず町中どこでも手助けに行ってた。悩み相談なんかも受けてたな。……とにかく、そういうやつだったんだよ」

 そんなボランティアに狂った人間がいるのかと驚いてしまう。その信じられないくらいのタフさは、同前が描いていたあの美しい少女からは想像できない。人は見かけによらないものだ。

「創成は、クラスに馴染めない俺を見かねて話しかけてきた。それがきっかけで創成とは仲良くなって、創成の人助けを手伝ったり見学したりしていた」

「好きでしたか」

 思わずそう聞くと、「関係ないだろ」とそっけない返事が返ってくるが、それはほとんど肯定しているようなものだと気づいていないのだろうか。

「でも、創成は高校三年生の夏休みに消えた。学校近くに血痕を残してな。……当時、隣町で通り魔事件があった。その犯人は自首して、もう釈放されてる」

「え、人を殺したんですよね?」

「そいつは当時十三歳だった」

 私は言葉を失ってしまう。

「その通り魔と、創成さんに何の関係が?」

「通り魔は『赤い服を着た高校生を殺したのに、死体が無い、自分を殺しに来る』って言いながら自首して来たんだと」

「……ということは、創成さんを刺して、しばらくしてもう一度遺体を確認しに行ったらなくなっていた、ということですか?」

「そうだ。犯人は現場に戻るってよく言うだろ。通り魔は死体を見つけて警察が右往左往してるのを見るのが好きで、野次馬に何食わぬ顔で混じっていたらしい。しかしいつまで経ってもニュースに創成の死体が取り上げられないから痺れを切らして確認しに行ったら、確かに倒れたはずの創成が居なかったんだとさ。……創成が殺されたあの日、俺は絵画のコンクールで大賞を取って、その表彰式に出席してた。帰ってきて、絶望したよ。俺はもうその頃には、ほとんど毎日創成と行動してたからな。俺がいつも通り隣に居れば、創成は標的にならなかったかもしれない」

「でも、遺体は見つかっていないんですよね?犯人の言い分を信じるなら、自力で歩いてどこかへ行ったのかもしれないですし。もしかしたらまだどこかで、……この町で生きているのかも」

「いや、創成は死んだよ」

 表情は伺えないが、キッパリとしたその物言いに困惑してしまう。同前が創成をこんなにも諦めている意味がわからない。

「どうしてそう言い切れるんですか」

「……生きているのに、俺に会いに来ないなんてあり得ないだろ。そのためにこの町で美術教師になったってのに」

 わあ。と声を上げてしまった。恋愛ごとをよく理解していない私でも分かるほどに、同前は拗らせた恋をしているらしい。深掘りしたい所だが、まだ聞いておきたいことはある。

「創成さんについては、何となく掴めました。次は猫俣くんに出会ったときのことを聞かせてください」

「あいつに聞いたろ、屋上で」

「先生の視点での話が聞きたいんです」

 今日を逃せばおそらく同前はのらりくらりと話を逸らすか無視するようになるだろう。しかし今は、同前ができなかったことを私にやらせたという大きな弱みを握っているのだ。今この場所で会話の主導権を握っているのは、私だ。すっかり頭から消えていた強面警部を呼び戻して、再び腕を組む。

「学校がある日だけだが、俺は朝誰よりも早く学校に行って屋上に上がる。屋上から見る景色が好きなんだ、良い景色だっただろ」

「見てません」

「……そうかよ。まあ、あの日も同じ理由で屋上に上がったんだ。そしたら、あいつがいた。声も顔も創成なのに、体は男で何にも覚えてないってんだから混乱したし、悪い夢でも見てるんじゃないかと思った。……夢じゃなかったけどな」

「それから、猫俣くんをこの家に連れてきたんですよね」

「ああそうだ。作品置き場にしようと思っていたこの一部屋が空いてたからな」

 この屋敷はどちらも病院で余生を過ごすことを決めた老夫婦から譲り受けたのだと同前は言う。確かに、作品が増え続ける絵描きにとっては、この広い家はちょうど良いのかもしれない。白すぎる部屋も、何か美術的なコンセプトがあるのなら納得できる。

「警察に行かなかったのは、前言った通りだ。創成に似ていたから、何か創成に関することを知っていないかと思ったんだ。でもあいつは自分の名前すら覚えていなかった」

 と言うことは、猫俣創助というのは同前が名付けたのだろう。通りで創成と名前が近すぎるわけだ。

「俺があいつについて知っていることは少ない。俺は学校があってもなくても引きこもって絵を描いているし、あいつは暇さえあれば時間を気にせず散歩に出かけてるかヒーロー番組を見ているから、内容のある会話は屋上から連れ帰って来た日くらいしかしてねえよ。それも、同居するにあたっての家のルール決めが大半だったしな。あいつは腹が減らないし眠気も来ないらしいから、生活リズムも揃わない」

「あまり話をしなかったんですね。……というより、同前先生が話したがらなかったのを、猫俣くんが察して聞かなかっただけじゃないですか。猫俣くんは、きっとこの町のことも、自分のことも、同前先生のことだって知りたいはずなのに」

 心の中の強面警部が、同前を睨みつけている。

「心が追いつかなかったんだ」

「心?」

「ああ。目の前に、創成にそっくりなやつがいるのに、創成じゃないんだ。何度も気が触れそうになって、あいつが俺に何か聞きたそうにしていても避けていた自覚はある。それでもこの家に帰って来て欲しかったし、警察にも連れて行きたくなかった」

 同前は、自分の頭の中を混ぜるように、ぐしゃぐしゃと頭を掻き回す。

「ヒーローの姿になった時なんか、俺は悪い夢でも見てるんじゃないかと思ったよ。あのヒーロースーツは、俺が創成に頼まれて、描いたものなんだ」

 そこで同前は話を止めた。もうこれ以上は、話す気がないということだろう。私は考える。思っていたより重たい感情を前にして、なんと声をかけていいのか分からなくなってしまった。君は、同じ顔の少女にこれだけ執着している男の話を聞かされても困るだろうか、話さないほうがいいのだろうか。強面警部はすっかり消えてしまっていた。

「ヒーロー番組を見てたって言ってましたね。創成さんが憧れていたのは、どんなヒーローなんですか?」

 場を少し明るくしつつ、尚且つ君に話しても問題無さそうな話題を私なりに考えて、絞り出した問いを受け、同前は少し間を空けてから、君が化け物を倒して決めポーズをしている場面を写しているテレビの下を指差した。

「そのテレビ台の引き出し開けてみろ」

 言われた通り開いてみると、そこにはDVDのカラフルな背表紙がずらりと並んでいた。見たことはないが、おそらくヒーローなんだろうな、という名前が並んでいる。

「うわあ、ぎっしりですね」

「まあ、基本的に一作品につき四十話以上はあるからな。これでも三作品分くらいしかない」

「詳しいですね、ヒーロー好きなんですか?」

「いや、このDVDは創成が俺に押し付けてきたやつで、俺は別に興味はない」

 君はここからDVDを取り出して、何も話してくれない同前のことや自分自身のことから現実逃避をするようにこのヒーローたちを眺めていたのだろうか。寂しそうな後ろ姿が容易に想像できて切なさが込み上げる。

「……もういいか?そろそろ帰ってくれ。もしお前の親に俺が教師だってバレてたらなかなかマズい。こんな町で俺を解雇するとは思えないが、これ以上職場で浮くのは避けたいからな。学校に連絡が行く前に、早めに帰って説得しといてくれ」

「説得しようにも、深夜にいきなり家に来て、連れ出したのは事実じゃないですか」

 同前が唸る。本当の理由が他人に言えない分、説得が難しいことを理解しているのだろう。それにおそらく、同前は私が入部届に書いていた住所を頼りに家に訪れたはずだ。個人情報の取り扱いについても厳重注意を受けるのだろう。

「冗談ですよ、何とかします」

「……悪い」

 母は、私が何か言ったところで聞く耳を持たないだろうが、姉の言葉なら何だって信じる。今の私は母にとって静音ではなく琴音なのだから、どうとでもなるはずだ。家に帰るまでの道で、姉の魔性の笑顔を練習しておかなくてはいけないが。

「大丈夫だとは思うが、帰りは来た道じゃなくて海沿いの道を歩いて帰れよ。そこをずっと行くとお前んちの近くのコンビニに出る」

「え、じゃあなんで墓の前の道を通ったんですか」

「近道なんだ。かなりショートカットできる」

 挨拶をする間柄でもないためそこで会話を終わらせて、白い部屋を後にする。一階に降りてくると、来た時は必死で気がつかなかったが、光が漏れている部屋を見つけた。良くない事だとは自覚しつつも音を立てないように深い色をした木製の扉を開くと、中央にはキャンバスが置かれており、床には画材が散らばって、天井と壁にはびっしりと絵が貼られた空間があった。私は悲鳴をあげそうになって、慌てて口を押さえて扉を閉め、私は急いで家を出る。

 同前に言われた通り海岸沿いの道を歩きながら、鳥肌が立った腕をさすった。

 壁にびっしりと貼られた絵には、全て猫俣創成の笑顔が描かれていた。いや、顔だけ描かれているものはもしかすると君なのかもしれない。もはやどちらでもいいが、鉛筆だけで描かれたモノクロのものや、油絵具で描かれたもの、とにかくさまざまな手法で描かれたそれらの目は、閉じているもの以外は間違いなく部屋の中心に向かっていた。まるでそこに座る人間を、愛しいと思っているような視線で。

 同前は狂っている。受け答えがちゃんとしている分、恐怖が増している。あの部屋のことは君に話さないでおこうと深く決意して、私はきっと泣き叫んでいる母が待つ家へと帰るのだった。


 3


 長い夜が明けて、昨日と同じ場所で君を待つ。昨夜は姉のふりをして母親を宥めすかし、珍しく私にどこに行っていたのかと聞く父親は無視をして、シャワーを浴びてから布団に入ったためあまり眠れていないが、君も同じようなものだろう。立っているだけでも汗が滲むような炎天下、あくびをしながら校門前の木陰で日差しを避けた。もし8時に現れなくても私はいつまでも待つつもりだったが、君は時間通り、朗らかな笑顔と共に現れた。

「おはよう蜂谷さん。昨日はありがとう!」

 治ったところをこの目で見届けたが、その首に傷が残っていないことを確認してほっとする。

「おはよう。あの後、同前先生と何か話した?」

「いや?僕が帰った時にはもう寝てたよ。同前の部屋の電気が消えてたから。……何かあった?」

「いや、何も」

 君はあの部屋のことは知らないのだろう。良かったのか良くないのか私にはまだ判断できないが、とりあえず君が今日もこうして笑顔でいてくれて良かった。

「今日はどこに行こうか」

「加藤先生に他にも創成さんを知っている人がいないか聞いてみようか」

「そうだね」

 廊下を歩きながら、昨日同前に聞いた創成の話をする。もちろん、同前が彼女に狂気的な愛情を寄せていることは伏せて、なるべく重く聞こえないように努めていると、君はどう解釈したのか「同前はすごく友達思いなんだね」と尊敬を滲ませた声で感嘆した。私は複雑な気持ちになりながらも、同居人が狂気を持っていることを知るより良いかと訂正はしなかった。

 保健室に着いたが、そこに加藤はおらず、「加藤先生は本日お休みです、体調が悪くなった生徒は職員室に来てください」と書かれた看板が下がっていた。

「お休みかあ。蜂谷さん、どうしようか。誰に聞いたら創成さんのことが分かるかな」

「当時の新聞記事を読めたら良かったんだけど、図書館はこの町にないし、この学校の図書室がそんなに昔の新聞記事を保存しているとも思えない。だから、交番に行ってみよう。創成さんがいなくなった時期に起きていた通り魔事件のこと、何か知っているかもしれない」

「なるほど、確かに」

 二人で当時のネットニュースもざっと目を通したが、同前が語った内容とほとんど変わらず、新しい情報は得られなかった。

 校舎を出て、時折野良猫と戯れながらゆったりと歩く。学校からそう遠くない場所にある交番前に着き中を覗いてみると、警察官が一人で雑誌をぼんやりと眺めていた。姉が死んだ日の記憶を辿ると、確か四十後半あたりの男性と三十代前半あたりの男性の二人いたはずだが、今は若い方しかいないらしい。昔の話を聞くのであればもう一人の方がよかったなと思いつつも、私は君の手を引いて扉をくぐる。

「何かありました……か……」

 雑誌をしまいながら私の顔を見て、警察官の顔が青ざめる。姉の死体を公園に並べたのはもう一方の警察官だったはずだが、私の顔を見て当時の死体の惨さを思い出してしまったのだろうか。今はもっと酷いですよなんて言ったら、吐いてしまいそうだ。

「こんにちは、私たち、海窓高校の二年生です。今、七年前に起きた通り魔事件について、とても大切な調べ物をしていて。事前に連絡もなくすみません。もしお時間ありましたら、お話を伺ってもよろしいですか」

 私がそう言うと、隣で君が深々と頭を下げる。警察官は少し躊躇いながらも「分かりました」と言って、カウンターを挟んだ向こうの奥にある扉に「すみません山本さん、高校生のお二人がお話を聞きたいそうで」と声をかけると、扉からもう一人の警察官が出てきた。私の顔を見て驚いたような顔をしてから、君の顔を見て、さらに目を見開いて「あ!」と声をあげた。どうやら何か知っているらしい。

「とりあえず、そこに座ってください」

 そう言って山本も腰を下ろし、カウンターを挟んで、私たちは向かい合って座った。

「申し遅れました、蜂谷静音と言います。先日はお世話になりました」

「僕は猫俣創助です」

「蜂谷さんと猫俣さんですね。私は山本。こっちは三宅と言います」

 三宅が深々とお辞儀をするので、私と君も合わせて頭を下げた。君の正面に座る三宅は事情聴取で対面していた。しかしあの日は気づかなかったけれど、随分体躯が良いことに驚く。あの日はきっと恐怖で身を縮めるあまり、小さく見えていたのだろうなと納得する。人間、気の持ちようでかなり見た目の印象が変わるようだ。その隣に座るスキンヘッドの山本は、いかにも警察官というような硬い表情をしていた。

「お二人の調べ物をお聞きする前に、質問をしても良いですか」

 山本が、君の顔をじっと見ながら言う。やはり創成のことを知っているようだ。

「彼が猫俣創成とどういう関係なのかと言うことですか?残念ながら、猫俣くんは創成さんのことを知らないんです。でも、他人の空似にしては似過ぎているでしょう?だから、私たちは創成さんのことを知りたくて今日ここに来たんです。当時の事件のことを教えていただけませんか」

 山本は「少し待っていてください」と言い残して奥の扉の向こうへ消えていき、再び姿を現すと、三宅には劣るがその逞しい腕には分厚い青色のバインダーが抱えられていた。表紙には七年前の年数が書かれていて、その年にこの町で起きた事件や事故をまとめたものなのだろうなと予想をつける。

「ここに、当時の記録があります。……もう許可を取るべき上司なんてものはいませんし、自由に見てもらって構いませんよ」

 私と君は「ありがとうございます」と礼を言ってから、山本が開いた当時の事件についての記録を読んだ。ネットニュースと同前の話の間を補完するような内容で、やはり創成の遺体の行方は解明されないまま記録は終わっている。迷宮入り、というやつだろう。猫俣創成の両親は遺書を残して姿を消したらしい。遺体は見つからなかったが、靴が堤防に残されていたことから、海に身投げしたと見られている。痛ましい家族だ、と思った。ふと、私は猫俣家の誰にも似ていない、一人だけ乱雑にテープで貼られた、虚な眼をした少年の写真に目が止まる。

「これが、通り魔ですか」

「ええ。当時十三歳の、高木という少年です。六年更生施設にいましたから、今は十九歳ですね。笑顔が綺麗な人間を見ると自分が惨めに思えて、ある時殺意が芽生え、十代の少年少女が一人で歩いているところを狙って犯行に及んでいたと主に証言していましたが、聞く人によって語る動機をコロコロ変えるようなやつで、本心が掴めない不気味な少年でした。施設からは、去年の夏に出てきました」

「今、彼はどこに?」

「……連れ攫われました。通常、更生施設を出てもしばらくはお目付役がいるもんですが、高木はその監視の眼を潜ってよく逃げ出すやつでした。しかし結局は帰ってくる、律儀なんだか何なんだか分からない男でしたけど、去年の秋、いつも通りに逃げ出して、しかしいつもと違って帰ってきませんでした。夜遅く、やつの自宅付近のコンビニの防犯カメラに、小柄な人間にぐったりとした高木が引きずられていたところが写っていて、それきりなんです。……手がかりはその監視カメラの映像しかなかったのですが、何しろ土砂降りで視界が悪い上に監視カメラも古いものでしたから、連れ去った人間が男か女かも判別つかなくて。結局ヤツも行方不明のままです。情けない。探している内に世界はこんなことになってしまって、もう挽回の余地もありません」

 山本の揺れない瞳は、悔しさで静かに燃えているように見えた。

「猫俣くんは、何か気になるところはあった?」

「うん。創成さん、お姉さんいたんだなあって」

 創成の家族構成を見てみると、君に近い年齢の少年は見当たらないが、確かに年の離れた姉がいたようで、その姉が女優であることも記されていた。

「この、創成さんのお姉さん……猫俣奈々美さんって有名な方だったんですか?」

 聞くと、山本はなんとも言えない困ったような顔をする。

「私は芸能人に詳しくはないのではっきりとは言えませんが、確か十五年ほど前のヒーロー番組のヒロインでデビューしていたと聞いています」

「え、ちょっと山本さん。知らないんですか?有名でしたよ。そのヒーロー番組の主役と当時から付き合っていて、三年前かなあ、結婚したか何かで最近はテレビでは見なくなってましたけど。知らなかった、妹さん居たんだ」

 三宅が口を挟んで、画像検索で出てきた猫俣奈々美を私たちに見せる。君にそっくりだが、君より涼しげな目元を持った大人っぽい顔立ちの美しい女性だった。

「もしかして僕って、猫俣奈々美さんの息子なのかな」

「それだと君は今、三歳くらいという事になるけど」

「じゃあ違うか。それとも僕は自分が知らないだけで、三歳なのかも」

 私たちの会話を聞いて、山本が怪訝そうな顔をする。

「猫俣さん、やはり何かこの事件と関係性があるのではないですか」

 君の表情を横目で伺うと、君は露骨に「しまった」という顔をしている。警察に正体がバレてもあまり君の生活に支障はなさそうだが、記憶喪失の少年として保護されてしまえば同前が責任に問われると思っているのだろう。こんな町で警察がそんなにしっかり仕事をする訳がないと思っていたが、少し話しただけでもわかる山本の仕事に対しての真摯さに考えを改める。

 私はスマホを取り出し時間を見るふりをして、君の手をとって席を立つ。

「すみません。この後も聴き込みにいきたいところがあるんです。貴重なお話ありがとうございました、では」

 二人で頭を下げて、逃げるように交番を後にする。背中に山本の視線が刺さっていたが、私たちは振り返らずに歩き続けた。

「創成さんのことは分かったけど、僕のことは分からずじまいだね。僕は一体何なんだろう」

「現状、創成さんのそっくりさん、ということしか分からないね」

 港の側の、今は使われていないバス停のベンチに座って君は猫を撫でる。野良猫の溜まり場になっているここは君のお気に入りの場所らしい。シャボン玉のようなドームに反射した遠くの海が綺麗で、ぼーっと眺めていたくなる。ドームがキラキラとしているのは何故だろう。侵略者も綺麗なものが好きなのだろうか、人間と美醜の感覚に違いはあるのだろうかなんてどうでもいいことを思った。

「考えても分からないことは一旦後回しにして、今度はこの町と侵略者について調査しよう。君を取り巻く環境を探れば、君のことが分かるかもしれないし」

「そうだね、そうしよう。……でもこの町にも侵略者にも謎が多すぎるよ。どこから、どうやって調べようかな」

「まずはどこから調べるか決めよう。猫俣くんは何が知りたい?」

 君はうーんと唸って、肩に乗った猫を撫でる。猫俣創成のことを考えていて今の今まで気が付かなかったが、君の両肩と頭の上、膝に二匹、両足にもそれぞれ猫が擦り寄っていて、重くはないのだろうかと心配になる。ちょっと懐かれすぎではないか。ちなみに私には一匹も近寄ってすら来ていない。

「侵略者がどうして僕をヒーローにしたのか知りたい。でもこれは、侵略者に話を聞かないと分からないからどうしようもないよね……」

「じゃあ、まずは侵略者について調べよう。もしかしたら、あの円盤にずっと乗っているわけではないかも知れないし、案外この町に紛れ込んでいるかも知れない」

「この町に?どういうこと?」

「たとえば、その猫たちの中の一匹が、侵略者が化けているものかも知れない。私はずっと、侵略者が人間の生活を知り過ぎている事に気持ち悪さを感じてた。服を場面に合わせて着替えないといけないことを地球外の生命体が知ってるのは、人間に紛れて生きていたからなんじゃないかって考えたの。それも、人間の生活に深く関われるような生き物」

 空想の域を出ない私の話を、君は真剣に聞いて、野良猫の一匹を持ち上げた。

「確かに。あり得るね。そいつを見つけ出して何とかして話を聞けたら……。よし、この町にいるかも知れない侵略者を探しに行こう」

 決意をした真剣な表情で私の手を握るが、すぐに自信を無くした情けない顔になっていく。

「顔がショモショモしてるよ、どうしたの」

「見つけるにしても、方法も手がかりもないなって」

 そう言われて、私も確かにそうだとため息をつく。それほど人口が多いわけではないが、一人一人を侵略者であるか確認していくのは骨が折れそうであるし、聞いたところで答えてくれないだろうし、猫や犬まで含めてしまえば時間がいくらあっても足りない。それに、こんなに確証のない話を手伝ってくれるような人は──いる。

 私は自分の腕を見て、ほとんど消えかけているがその番号を読み取った。

 できれば使いたくない手ではあったのだが。君が見守る中、私は3回目のコールで電話をとった相手に「もしもし」と声をかけた。

「どちら様ですかあ〜今忙しいんですけど!」

「そう、ごめん。後でかけ直す」

「え、嘘、蜂谷先輩?わあ待って待って、切らないで!」

 山野は電話を切ろうとする私を焦って止めると、「一か八かで番号渡したんですけど、まさかかけてくれるなんて思いませんでした!やったあ、蜂谷先輩のことお気に入りなんで、電話してくれて嬉しいです」とへらへらしている。そのままマシンガントークを展開しそうになる山野の言葉を「聞いてほしい」と遮って、君の存在は伏せ、ただ侵略者のことを知りたいという好奇心があるのだと話し、侵略者が町に紛れ込んでいるかも知れないから、それを調査するのを手伝ってほしいと打ち明けた。山野は珍しく黙って私の話を聞き終えると、「なるほどね」と相槌を打つ。

「先輩、その説はね、新聞部で話題に登ったことあるんですよ。でも聞き込みで侵略者を探すのは現実的じゃない。だから、私たちはそれぞれ別の方法で侵略者の謎を暴いていこうと日々奔走しているわけです。何か掴めたら新聞に掲載する予定ですが、それを待ってくださいねって言うのも何だか味気ないですよね」

「……できれば、早めに聞きたいし、参加させてほしい」

「良いですよ!ただ、それには条件があります」

 条件?と聞き返すと、はい!と元気な返事が返ってくる。

「先輩、最近美術部抜けましたよね」

 その言葉を聞いて、次に何と言われるか察してしまった私は「げ」と思わず声を上げてしまう。

「新聞部、入ってください」

 好奇心の塊は、そう言って笑った。

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