第23話 まつりのあとはどっとさみしさが襲ってくる

女子会というのは、どうしてこうも話が尽きないんだろう。

たわいもないことや人生訓を語り合い、気づけば日付も変わった午前3時。

ひとり、またひとりと値落ちして脱落。

朝9時頃から誰か起き始め、3人とも目覚めたらスーパー銭湯にいってスッキリし、そのままブランチをしにコーヒーショップへ。

その後再び竹内家に集まり、まったり過ごしたのちそれぞれ帰宅。


「バイバイ、またねー」

ゲスト達は去り、ホストの忍は見送ったあと、2階の自室へ。


この瞬間が、いつもさみしくていやなんだよな。


つい数分前までにぎやかだった部屋。

食べたお菓子の袋や飲み終えたジュースのコップが、人の気配を感じさせるのに。


誰もいなくなっちゃった。


黙々と片付け、階下に持っていく。

父親の部屋からはテレビの音だけが流れてくる。


カチャカチャ


洗い物の音だけが妙に響く。


「お父さーん、夜ご飯お寿司でいいかな?」

「あぁ」

「台所のテーブルの上に置いておくね」

お風呂の帰りに手土産として買っておいたにぎり寿司を、食卓に用意しておく。

これでお腹が空いたら食べてくれるだろう。


部屋に戻ると、いつも通りの部屋。


なんだろう


西日がさしてるのもあるのかな。


茜色の部屋はなんだか切なくて、


もの悲しくなる。


まつりのあとみたいに


にぎわいが消えて静まりかえった部屋は


無性にさみしい。



ポフッ



ソファに座り、クッションを抱きしめる。



私このまま独りなのかな。


恋人もできず


歳をとっていくだけなのかな。



シーン…



静寂が身にしみる。


友達といる時は楽しいけど、


みんなが帰ったあとは…


なんとも言えない虚しさに襲われる。


ほんとに将来は


老後同盟が実を結び


みんなで暮らしたい。


ひとりぼっちの老後なんてさみしすぎる…。



友人が集まるのはうれしいけれど、

帰ったあとはなんだかやりきれない気持ちの忍だった。



忍の心境を思えば、逆にひとりになりたいと思うのは、常日頃人と関わり過ぎているからかもしれない。


ピコン


咲希のスマホの通知音がなった。

『今夜空いてる?久しぶりに夕食でも一緒にどお?』

「浩輝さん…」

正直なところ、今夜はあまり会いたい気分ではなかった。

友人達の前では明るく振る舞っていたが、意を決して応募したコンテストに落選したことは結構ショックだったのだ。

しかし人前で落ちこんでいるところを見せたくなくて、空元気してしまう。

少し迷ったが、OKの返事。


彼氏になら、弱音を吐いてもあまえてもいいかな。

そんな気持ちもよぎったからだ。


柴田の家近くの馴染みの居酒屋で待ち合わせをし、カウンターで横並びに座りビールで軽く一杯からはじめる。


「そっか…コンテストダメだったか」

焼鳥をつまみながら近況を話す。

「一般投票ほんの数票の差で逃したから、やっぱり悔しくて…。せっかく期間限定とはいえ試しに出店できるチャンスだったのに」

「でも知らなかったよ。咲希がそんなに真剣に料理の店やりたいと思ってたなんて」

「だって将来ママとして自分で店やりたいわけでもないし、年齢的にもそろそろ次のこと考えておいたほうがいいかなって」


あなたが結婚考えてくれるなら話は別だけど…

そんなことをちらっと内心では考えながら。


「でも実際お店持とうと思ったら時間もお金もかかるし、リスクも負うわけでしょ。だから今回の企画に賭けてたの。自分の腕を試すいい機会だと思って。それがもう少しでつかめそうだったのに目の前で他の人の手に渡って…悔しい」

「そっか…でもよくがんばったよ。今日はおいしいもの食べて元気だそうよ」

「浩輝さん…」


よかった。

こんなふうに言ってもらえるなら、会ってよかった。

優しい言葉に少し癒やされた咲希だったが、このあと天国から地獄へと突き落とされる。


「今日はもう帰るね。ごちそうさま」

そう言って帰路に着こうとする咲希を、柴田は引き止めた。

「ちょっとオレん家寄っていこうよ」

家に行けば、カラダの関係を求められることはわかっている。

けれど気分が落ちこんでいる今日は、そんな気にはなれなかった。

「ごめんなさい、今日は落ちこんでるし、そんな気分じゃないの」

「落ちこんでる?珍しいな、咲希がそんなこと言うの。そんな時はさ、気持ちいいことしたら忘れられるよ」

そう言いながら柴田は咲希の身体に触り、人目もはばからずキスしようとしてきた。


えっ

何言ってんのこの人…


生理的嫌悪感を感じ、咲希は柴田を手で制した。

「浩輝さん飲み過ぎたんでしょう、こんなところで、もう」

あくまでカドが立たないように配慮しながら。

しかしそれが柴田にはおもしろくなかったようで。

「なんだよ!所詮素人なんだからコンテストなんてダメで当たり前だろう?メソメソ落ちこむふりしてかわいく見せようとするくらいならやらせろよ。いやなこと忘れさせてやるから」


は い ?


今なんて?


やらせろ だと?


多少酔っ払ってはいるがあまりに心無い発言に、

咲希の怒りは頂点に達した。



バコーーーーン!



持っていた硬いハンドバッグで

彼氏の頭を

思いきりどついた。



「ふざけないでよ!アンタに私の何がわかるのよ!! しかも気持ちいいことして忘れさせるですって!? いい加減にしてよこのへっぽこチ◯コ!(ピー:自主規制)」

「へっ?」


これには調子に乗っていた柴田も目を丸くし、しりもちをついたままぽかーん…と豹変した彼女を見上げた。


「私はアンタの性欲処理する人形じゃない!そんなにつっこみたいならこんにゃくに穴開けて自分でやってろっ。人の気持ちもわからないアンタなんか大っ嫌いよ!」


バカヤローバカヤローバカヤロー!!


悔しさと腹立だしさで、

咲希は泣きながらその場を去った。


あんなヤツにあんなクズに、

一瞬でもほだされた自分がバカだった!


楽しい女子会から一転、

こちらも虚しさに襲われていた。


祭りのような楽しい浮かれ騒ぎから

突如さみしい夜が訪れる。


人生ってそんなふうに

時に世知辛いものですね。







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