第6話 かわいい女は得をする

かわいければ女は見た目で得をすることが多い。

忍は幼い頃からそう感じていた。


まだ容姿というものがよくわかっていなかった幼少時、幼稚園で男の子達にからかわれた。


ブス

汚い

かわいくないね


言葉ひとつひとつが矢のように忍の心に突き刺さった。

「なんてひどいこと言うのよ!忍ちゃんは優しいいい子なんだからっ」

同じ組のかわいい子がかばってくれても、逆に虚しさに襲われた。


その頃すでに自尊心は破壊されていた。


私はかわいくない

男子に嫌われる


呪いのように幼い心に刻まれた。


徐々に自我というものが芽生え、

自分と周りの子との違いを理解し始めた。


私は見た目が劣っている。

人を不快な気持ちにさせる。


自己卑下を繰り返しながら、大人になった。


大学は女子大を選び、男性がいない世界はほっとした。

一生懸命メイクやファッションを覚え、印象はがらりと変わった。

しかしいくらきれいな色を重ねても、忍の心が晴れることはなかった。

顔のパーツのバランスが悪い。

背も低く胸もぺったんこ。

どこかもさっとした雰囲気は替えようがなかった。


就活時正社員希望では応募した企業が全滅だったのは、見た目も大いに含まれていると忍は感じていた。

複数名での面接時、明らかに面接官の態度が違う。

かわいい女子大生には積極的に質問をし、時に談笑するくらい和やかムード。

対して忍には、顔を一瞥すると表情を曇らせ、それ以降は空気のようにいないものとして扱われたりした。

明らかに、お前は場違いだと無言の圧をかけられているようだった。


同級生のかわいい子は、高級外車販売店の受付に正社員で内定が決まった。


結局顔だよね…


そんな妬みがもたらす陰口を叩かれても、自分に自信のある子は気にもとめず、堂々としている。


勝ち組は違うね。


どうして同じ年に同じ国で生まれていても、こんなにも人生に差が出るのだろう。


金持ちの家に生まれ、容姿端麗に育ち、周りからチヤホヤされる人もいれば、

私みたいに貧乏とまではいかないけれど、普通の家庭で育ち、何もしてないのに見た目が並以下ということでいじめられる。


この違いって何?

私前世でよっぽど悪いことでもしたの?


屈折した心を悟られまいと、わざと自虐的なことを言ったり、ふざけて笑ってはみても、心から笑えない自分がいた。


就職を前に、整形しようと本気で考えることもあった。


韓国ではプチ整形も日常茶飯事っていうし…。


鏡を見ながら悩んだ末に、結局勇気は出なかった。

古くさい考えかもしれないが、親からもらったからだに傷をつけることがためらわれた。


大学時代は友人に誘われノリで合コンに参加したこともあったが、結局は周りの引き立て役とお笑い担当に徹するほかなかった。


その時の経験も含め、忍は思った。


一生、男の人とつきあうことはないと。


男の人が怖かった。

子供の頃から、男は攻撃してくる対象でしかなかったからだ。

守ってくれるような優しい男の人は身近にいなかった。

映画や漫画に出てくるようなヒーローは存在しない。架空の世界でしかありえない。


だから、老後まで自分ひとりでもやっていけるよう、貯蓄と財テクを生きがいとした。

とれる資格はとれるだけ取得した。

実践で活きるスキルを身につけておけば、必ず派遣先はある。

そして期間の短い派遣なら、見た目にこだわるところも少ない。


かわいい女は得をする世の中。


じゃあかわいくない女は?


見た目だけでなく、過去のトラウマが原因で心までかわいげのない性格になってしまった女は、

どう生きていったらいいんだろう。


忍の抱える闇は深い。







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