2 きっと

 駅ビルの三階フロアにたどり着いた華は、この階の半分の面積を占める書店の参考書や小説といったコーナーを回る。


 華が金髪男子をよく見かけるコーナーがその辺りなのだ。


 すると。


 参考書コーナーでお目当ての男子を見かけた華は小躍りした。


(いた! 今日もまた参考書コーナー! 元気出ちゃうくらいカッコいいよね……。やはり見た目と雰囲気のギャップがヤバいのう、お主は……ぬっはっは)


 


 喜びのあまりに時代劇で見たような悪代官の台詞回しを自分がしている事に気づいていない華。


 そして今日もできるだけ近寄るべく、まずは男子と同じ棚を向き、じり、じり、とカニ歩きで近寄っては遠ざかり……を繰り返す。


(うう……近寄りたいんだってば)


 もじもじドキドキ、カニカニ。


 ガン見とチラ見でチャラ男子を見ては嬉しげに足を交互に踏みしめ、天井を見上げては目を閉じて頬を染め、喜びを噛み締める華。


 が。


 事態は、急展開を迎える。





「お待たせ! 遅くなってごめんねー!」

「ほんと、遅すぎだろ。それに……タイミング悪すぎ」


 目指す男子に、ゆるフワ茶髪の小っちゃ可愛い制服女子が近づいていき、可愛らしいリボンのついた紙袋を手渡している。


(そ、そんなぁ……)


 ちらり、と目が合ったチャラ男子の目線から逃げるように、華はこっそりとその場を離れた。





(は、ははは。今まで、たまたま彼女さんと鉢合わせしなかったか、最近めでたくカップルが誕生したか……最後の元気が抜けて、いくよ……)


 二人と鉢合わせしたくない、お気に入りの男子のいちゃラブを見たくないが為にゆらゆらと二人がいた場所からゆっくりと離れていくと、フロアの隅に階段を見つけた。


(隅っこに行きたい気分……)


 華は体をよろり、ふらりと階段に向かわせる。

 

 すると。


「あ、あの……?」


 背中から聞こえた声に、ゆっくりと振り返る。

 

 そこには。


 華のお気に入りの金髪男子がいた。


「じゃあ私、他見てくるね!」

「ああ」


 心配そうに華を見る男子と走っていく女子。


 心臓がぎゅうう! と鷲摑みされた感覚と言いようのない脱力感、つん、と鼻の奥が痛んだ華は、イレギュラーな事態の中で。


 気づいてしまった。


(私、この人に…………恋してたんだ。きっと、好きだったんだ)



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