第19話 宮本奈々子2
オレと柊は空き教室の一つに宮本奈々子がいると聞き、会いに行った。
奈々子は友達二人と、自分の小説が商業出版されることになる、という話でおりあがっていた。
オレは、彼女に桑名の事を尋ねようとした。すると、奈々子は二人の友達を追い払った。
オレと柊、そして奈々子は空き教室に三人きりになる。
「実は桑名のことについて、聞きたいんだ」
オレはそう切り出す。
「ええ」
特に様子に変化がなかったので、オレは一応尋ねてみる。
「桑名が死んだことは知ってる?」
奈々子は微笑んだ。
「ええ。もちろん知っていますよ」
知っているのに、このごく普通な様子はいったい何なのか、とオレは思った。
「知っているなら、どうして葬式に来なかったんだ? 忙しかったのか?」
オレが聞くと、奈々子はきょとんとした顔になった。
「いえ。別にそのときはさほど忙しくはなかったですね。でも、逆になんで行かなきゃいけないんです?」
「……桑名と仲良くしていたんじゃなかったのか?」
奈々子は目をぱちくりとさせながら言う。
「ええ。それなりにはしていましたけど」
「じゃあ、葬式くらい行ったって、いいんじゃないか」
奈々子は心底不思議そうな顔をした。
「死んだ人の相手をして、何か意味があります?」
「え?」
「生きている人は何か生み出すかもしれないですよね。いいものを生み出す人とは付き合う価値はあります。ですけど、死んだら何も生み出さないじゃないですか」
「……は?」
いや、頭ではわかる。
得があるから他者と付き合うという方面の理論だろう。
「たとえば桑名さんに名声があれば、死んだあとも彼と友達であることは意味があるかもしれません。でも彼、無名のまま死んじゃったじゃないですか」
奈々子は小首をかしげていう。
「無名のまま死んだ人の葬式に行く意味って、なんですかね? 私、ないと思うんですよねえ。特別になれずに死んだ人なんて。その人生に何の意味があったんです?」
身体の奥が熱くなった。
怒り、かもしれない。
桑名のことを馬鹿にされて、つい拳を握ってしまった。
「…………そういうのだけじゃ、ないだろう」
桑名は学生で、世間に認められていないかもしれない。
だが、その生に意味がないなどと、オレは誰にも言わせたくなかった。
「桑名は、いいやつだったよ。明るくて優しい、色んな人に好かれる奴だった。オレはあいつに、たくさん、貰ったんだ」
いうと奈々子は笑いをこらえているような顔になった。
「そうですか。そういう人もいますよね。同レベルの方だと思いますけど。もう少し賢くなったほうがいいですよ。IQが低そうに見えます」
腹立たしかった。
だがここで怒りを露にしても何の意味もない。
オレが怒ってストレスを開放するより、耐えて話を聞かねばならない。
「そっか。桑名が生きているとき、何かトラブルとかあった人とかはいたりする? オレは、最後の時の様子が変だと思ってるんだ。飲み会の時も、そうだっただろう?」
「たしかに変でしたね。ですが、私は彼がトラブルを抱えているという情報は知らないです。ああ、いえ、一つあったかもしれません」
「それは?」
「同じ心理学部の田中くんと揉めていると聞きました。田中拓海くんですね。この前の飲み会に欠席した人です」
「その内容は……?」
「心理学の研究方面だったはずですよ。田中くんが絡んでいるのを何度か見ました」
「それ以上のことは――」
「田中くんが桑名くんに『オレの研究を盗もうとしている』ということを言っていた気がします。それくらいしかわかりませんね。彼らの争いごとに興味がないので」
「……そうか」
しかし、桑名が揉めている相手がいたということがわかったのは、一歩前進だ。
「ちなみに、そいつはどこに?」
「ゼミによくいるって聞きましたね」
「そのゼミはわかる?」
「ええと。黒磯ゼミですね。場所は――」
話を聞くと、その場所は、オレたちが鉢植えを落とされた建物の四階だった。
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あとがき
ここは読み飛ばしてくださって結構です。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
カクヨムコンというコンテストに出させていただいております。
よろしければ、★やフォローでの応援をよろしくお願いいたします。
この作品はフィクションであり、実在の人物・団体などには何の関係もありません。
なお作中で行われている行為は現実で行うと犯罪として処罰されるものがあります。
絶対に真似しないでください。
もちぱん太朗。
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