第2話 菓子




 指導係の仙人に書庫の掃除を命じられた道士が、ゆっくりとゆっくりと時間をかけて、毎日毎日、膨大な書物が収められる書庫を訪れて、掃除をしていた時だ。

 上から順に、一列の棚に収められた書物を机に避難させて、空になった棚を雑巾で拭いて、ほこりはたきで書物をやさしくはたいて、虫食いやカビが発生していないかなどの中身を確認していると、或る文字が目に入ったのだ。

 秘密の世界という文字が。


 仙人になるべく厳しい修行に邁進している道士には、数多くの制約が課せられていた。


 金を使うべからず。

 金を稼ぐべからず。

 色欲に触れるべからず。

 酒を飲むべからず。

 獣肉を食べるべからず。

 菓子を食べるべからず。

 などなどである。


 菓子とは多くの調理が施された甘い食べ物を指しており、果実は菓子に含まれておらず食べてもよいと、されていた。




「ひ、秘密の世界」


 ごくり。道士は生唾を飲み込んだ。


 秘密の世界。

 それは、甘美な世界。

 時に麗しく、時に愛らしく、時に楚々として、時にたおやかな形をしている、美味な菓子を数多く提供してくれる世界があるらしい。


 禁を破るつもりはない。

 ただ、見てみたい。

 道士はゆっくりと書物を棚に戻すと、書庫から出て探した。

 その秘密の世界に連れて行ってくれる白龍を。











(2024.1.31)



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