俺とお前と悪役令嬢

永田電磁郎

第1話

「アメリア令嬢!貴様にはほとほと愛想が尽きた。これまでのエメリーに対する悪行の数々、僕を愛するが故の愚行と目を瞑ってきたが、今度ばかりは許せん!婚約破棄をさせてもらう!」そういうと、ヘンリー王太子は傍らで震えているピンクの髪の毛が柔らかくウェーブを描いていて、目はエメラルド色、小動物系のいかにも庇護欲を掻き立てられそうな、金色のレースに縁どられたブルーのドレスを着た少女を愛おしそうに抱き寄せました。

「ブルーとゴールド。ヘンリーの目と髪の色ね。」私は、もうそこに愛は無いのだと悟ったのです。いや、元から無かったのですが。

「ヘンリー様…私…怖い…」少女は目に涙をため、ぶるぶると震えています。チワワかしら?え?チワワって何?

「ああ、大丈夫だよ、エメリー。僕がついているからね。」王太子は、蕩けた目で少女を見つめる。

 えーと、この茶番、いつまで続くのかしら。まるで乙女ゲームのクライマックスみたいね。えっと、乙女ゲームって何でしたっけ?

 学園の卒業パーティー会場のど真ん中でいきなり始まった断罪劇に周囲の学生たちも遠巻きに様子をうかがっておりますわ。皆さん、気にはなるけれど関わり合いにはなりたくないみたいね。

「悪行も何も、私、その方とお会いするのは初めてですが…?私がその方に何をしたというのでしょう?」思い込みの激しい男だから、おそらく聞く耳は持っていないでしょうけど、ここで黙ってしまえば、周囲の学生たちにも私が何か悪い事をしたと思われてしまうわね。それは避けたいわ。

「しらばっくれるつもりか!」激高したヘンリーは私を指さしながら唾を飛ばさんばかりにわめきたてております。とても王太子とは思えない品格の無さですわね。幻滅しそうです。っと、そもそも、この男の株は婚約した10年前から下落相場だったわ。あれ?下落相場?って何でしたっけ?

「先週の昼休みに、旧校舎にエメリーを呼び出し、階段から突き落としたであろう!」えー?それ、誰の事ですか。

「ヘンリー様…アメリア様を責めないであげてくださいまし…。身分違いの恋をした私がすべていけないのです」あ、浮気してたんだ、この二人。

「おお、エメリー、君はなんて優しくて思いやりのある娘なんだ。こんな女をかばう事など無いんだよ」おお、ヘンリー、君はなんて馬鹿らしくて思い込みの激しい男なんだ。こんな男でも引き受けてくれるなんてエメリー以外無いんだよ。なーんてね。

「えっと、その日ですが、私、皇后陛下とお茶をしておりましたが…?」一応、弁明だけはしておきましょうか。証人は皇后様です。この桜吹雪、見忘れたとは言わせねーぜって、いや、桜吹雪って何?タトゥー?さっきから心当たりのない記憶が混ざってくるんですけど?

 謎の記憶に首を傾げている私に焦れたのか、王太子は傍にいた護衛の刀を抜き取ると私に切りかかってきた。「ええい、この性悪女め!ここで成敗してくれるわっ!」

 あ、ヤバい。これ、バッドエンドだ。いや、バッドエンドって何?あ、痛い。肩からお腹にかけて焼けるように痛む。袈裟懸けに切られたらしい。




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