第12話
ネロが城に戻り、水のボールをたくさん作り出してくれている。なので、水を運ぶ計画は順調であった。
アルは毎日、夜の間に水を放つようにと風に話をしてくれている。
そのお陰で、枯れた土地にも潤いが戻りつつある。
何度も水を放ち、枯れた土地に潤いが戻ってきたところで、そろそろ次の段階に進むことをランディは決断した。
「リーラ、大地の鼓動を教えてくれ。どうだろうか」
大地に手を置き、リーラは鼓動を確認した。土の中からは、ぽこぽこと元気な音が聞こえるた。今までのようなキシキシと痛むような感じは、もう無くなっている。水分も養分もたくさん蓄えた逞しい大地に生まれ変わっていたようだ。
「ランディ!大丈夫みたい。すごく元気な音が聞こえてきます」
大地が元気になったと感じ嬉しくなり、リーラの声もはずむ。ランディもリーラの顔を見つめ嬉しそうに頷いていた。
その日の夜、ランディは国王陛下として全体を集め、皆に次なる計画を伝えた。
「明日、次の計画に向けて実行に移す。次は新しい川の路だ。増築している川に向かう。川が東西二手に分かれて流れるように促す」
既に、川の流れを変える準備は出来ていると聞いている。ここにいる者は川に向かう者と、王宮に帰る者とそれぞれに分かれる予定だった。
「ここから川に向かう者は、数日かかり作業を行うことになる。だが、それもあと少しだ」
そう笑顔で言うランディは、みんなを魅了していく。国王が、国民の目線で物事を見て判断している姿に皆心を打たれている様子がわかる。
リーラも更にランディに惹かれていくのを強く感じていた。ランディは、双子にも自分にも真摯的に向き合ってくれている。国の問題も国民に隠すことはせず、解決することだけ考え対応をしている姿を見ていると、胸が熱くなり抑えきれない思いが溢れてくる。
こんなにも器が大きく魅力的な男だから、誰からも惹かれているんだとランディを見ていて強く感じる。リーラはそんな王の姿をみて本当に嬉しく感じた。
ネロが一足先に帰ってしまったため、今夜ベッドではリーラ、アル、ランディの三人で寝ている。四人で寝る時は、双子は毎回場所の取り合い起きるが、三人だとそんな楽しい遊びもないため、アルは少し寂しそうだった。
「明日ね、僕はクリオスと一緒にお城に帰るね。リーラとランディは川に行くでしょう?」
ネロに続いてアルも明日、城に帰ることになっている。そのことは、ランディにもクリオスにも言われていたから、リーラは納得していたが、アルまでが一足先に帰るのは非常に寂しい。
「アル、寂しい…」「俺も」
と、リーラとランディは両側からアルを抱きしめながら伝えると、アルはキャッキャと声を上げて喜んでいたが、くるりとランディの方を向いて真剣に伝えた。
「リーラをお願いね、ランディ」
そう言うと、さっさと寝る準備をしていた。
「あのさ、ネロも帰る時同じようなこと言ってたけど、なんで二人ともランディに僕のことお願いするわけ?」
リーラにはよくわからなかった。なんで二人がランディに自分のことをお願いするのだろうか、お願いってなんだろうか。
「だって、リーラは僕達のことを心配ばっかりしてるでしょ。そんなに心配することないのに。だからリーラを不安にさせないようにしてって、ランディにお願いしてるの」
「うっ…わかってた?うーん、心配だしそれに寂しいんだよ。アルとネロは本当にぐんと大人になって、強くなったね。心配してくれてありがとう。僕も強くなるよ」
双子の兄弟はいつの間にか大きく成長しているようだ。周りの事も見えているようで、リーラやランディの気持ちを察してくれるようになっていた。
「それと、ランディ。僕もネロもランディ以外はイヤだから、ね!」
「お前らよくわかってるな。その辺は任せろ、俺も頑張っているんだ」
ランディ以外はイヤだからの意味もわからなければ、ランディが何を頑張っているのかもリーラにはわからず、二人が楽しそうに話をしているのを、ただ眺めている。
「アル、すぐ城に帰るから待っててくれよ」
「うん」
成長したとはいえ、ランディに抱っこされているアルは嬉しそうだった。
明日からは川に向かう。王の次なる計画に同行する。
◇ ◇
「じゃあ、僕行くね」
「うん。気をつけてね」
リーラが感傷深く言葉をかけるも、あっさりとアルはクリオスの馬に乗り行ってしまった。クリオスの部隊が城へ引き上げ、残りは国王陛下の周りを堅める護衛隊が、ランディとリーラを目的地である川まで連れて行くことになっている。川では別の部隊が待っているはずだ。
目的地までの道のりの間、ランディと一緒にライズに乗る。ライズの背中で揺られながら、リーラはクリオスとレオンから言われていたことを思い出していた。
二人はランディのことを『人が変わったようだ』と口をそろえて言っていた。
以前のランディは、他人に対する思いやりや同情心がなく冷酷な人間であったという。王という立場もあるので、冷酷であることもまたひとつの魅力だと言われていたが、ランディが信用している人間はクリオスとレオンだけだった。
それが、怪我をして城に帰ってきた時から、常に何かを考えている様子を見せるようになり、クリオスとレオン以外の王に使える者や侍女達にも、ランディ自ら相談することが増えていった。相談の内容はさまざまで、深刻な水害に対しての計画から、たわいもない事まで色々だったという。
怪我をきっかけに、王の態度が変わってきたその頃から、ランディへ親身になる人が増え献身的な姿勢を見せる人も増えていった。
何がそんなに王を変えたのか、皆が疑問に思っていたという。そして、怪我がまだ完全に治ってもいないのに、毎日馬でどこへ遠出をしているのか。次々を疑問が浮かぶ中、ランディの口からリーラとネロ、アルの存在を伝えられたと言ってた。
『俺が変わったというんだろ?その理由は恐らくその三人の存在だ。そして俺は、彼らを城に迎え入れたい。力を貸してくれないか』
あの冷酷非常な王が自ら力を貸して欲しいと言ったことに皆は驚き、多くの人の気持ちが、王へ協力することに動いた。王宮にいる者は一致団結し、リーラ達を迎え入れる準備を進めることになった。
それからは毎日王宮は、祭りのようだったという。王のため、リーラ達のために、皆張り切っていたそうだ。
「ランディが王になって初めてお願いしたことだから、みんな張り切ってたよな」
「だけど、ランディはリーラちゃん達を連れてくるって言ってからも悩んでたんだ」
「ハハッ、あいつリーラに言い出せなかっただろ?自分が国王だって。王だなんて知ったら、そりゃあびっくりするよな。うんうん」
リーラやネロ、アルが、ランディを王と知った後、万が一会うのも城に来るのも拒まれたらどうしよう…って、あいつなりに悩んだらしいと、クリオスとレオンは笑ってリーラに教えてくれた。
「双子達と遊んでるあいつを見ると、こんなに子煩悩だったのか?って思うよ」
「リーラちゃんの言うこともよく聞いてるみたいだし?」
ランディの周りにはたくさんの人がいる。みんなランディを国王陛下として認め、国民として誇りを持っているんだと、話を聞きリーラの胸は熱くなった。
「リーラ、どうした?疲れたか?」
ライズの背中は優しい。ゆらゆらと優しく動く背の上で、そんなことを思い出していたリーラはランディの声で引き戻された。
「ううん。大丈夫です。ちょっと思い出してました」
「ん?」
「フフフ、レオンさんとクリオスさんがランディのこと、人が変わったようだって言ってました。それを思い出していたんです」
「チッ、あいつら。なんか余計なこと言ってただろ?」
「余計なことなんて言ってないですよ」
リーラを後ろから支えているランディは、怪訝な顔をして上からリーラを覗き込んでいる。
「多くの人に慕われるランディを近くで見れて、僕は光栄です。この国の王は素晴らしい人だなと思います」
コトンと後ろに背中を預けて、上から覗き込むランディに笑いかけた。後ろから回された手を握ると、ランディはパッと笑顔になり「君にそう言われるのが一番心地よい」と、耳元で囁かれた。
「くすぐったい…」
「くすぐったくない…」
「もう、僕がくすぐったいんです」
フフフと笑い戯れ合う二人を、周りの護衛達は、見ないように努めていた。
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