第5話
次の日、ランディに連れられて王宮内の噴水のところに来た。リーラと双子も一緒である。
「さあ!ネロ、アル。いつもの遊びやってみろ」
ランディが言うと、わーいと噴水に向かって双子は走り出した。双子の腰の高さまである噴水の中に入り、二人は何やら話をしている。
「そう。丸まって」
「うん。くるくるってして」
ネロは水を丸く固めて手のひらの上で転がし、アルは両手の中に風を溜めているのが見える。
「よーし。いけー!」
「それー」
ネロは水を丸めボールの形にし、空中に投げた。アルが風を丸めネロの作った『水のボール』に当てると見事命中し、空中に水飛沫が舞った。水と風で出来たボールである。雪合戦のような遊びを二人はしていた。
ネロは次々と水を空中に投げる。その形は丸いボールだけではなく、花や動物など色々な形にも作れるようだ。水を自由自在に操り、固形のようにまるめている。アルは風を連射して出すことが出来るため、ネロが作った水のボールをめがけ、風をボール代わりにして当てて遊んでいた。
更には、空中に放された水のボールに風のボールがぶつかり、びしゃっと水が形を壊わしている様子がよくわかる。二人は楽しそうな声を上げて遊んでいる。
「みてー!」ネロが水のボールを放つとアルが風の羽根を作り水のボールに付け、それを遠くまで飛ばしていた。鳥のように水のボールは遠くまで飛んでいく。
リーラは唖然とした。二人とずっと一緒に暮らしていたのに初めて見る光景だった。
「俺があの村で湖に連れて行った時、二人の遊びを見たと言ったろ?これを見たんだ」
ランディはその頃から知っていたのだ。二人には水と風の声が聞こえるだけではなく、水と風を操れることを。
「ダ…ダメ。みんなに知られちゃう…」
リーラは慌てて噴水の中に入り双子に駆け寄った。
「レオンも知ってるよ?」
「クリオスにも見せたことあるよ」
宰相にも騎士団長にも知られてしまった。サラリと二人に言われリーラは驚き、言葉を失う。
(もう、ここにはいられなくなる…)
リーラは胸がぎゅっと痛くなった。
王宮の暮らしは楽しくなってきたが、また隠れて生活する日々に戻るのだ。ランディと離れて暮らすことになるのかと思うと胸が更にチクッと痛くなった。
「リーラ、よく聞いて欲しい。俺も皆が知っていたことを聞き驚いた。だがな、みんな驚きはしたが、それだけだ。すごいって言ってるだけなんだ。それ以外なんとも思っていない」
「でも、この力は…ずっと隠していかないと…」
「リーラ、俺が君たちを守ると約束したろ?大丈夫だ。それに、このままでいいと俺は思っている。隠す必要はない。ここで生活していれば問題ないだろ?」
ランディも噴水の中に入り込み、泣き出しそうなリーラをランディは抱きしめた。抱きしめられると安心し、トクトクと自分の心臓の音が聞こえ始める。この人はいつも不安になると抱きしめてくれると、痛む胸でリーラが考えた。
「この力を持つことは悪いことではない。そうだろ?リーラ」
ランディは正しい。けれどリーラはネロとアルのことを考えてしまう。この力のせいで、友達に怖がられたり、これから先皆に嫌われたりしたらどうしようと。
「クリオスに言われたよ。僕達はこれが得意なことなんだって。友達のケニーはね、勉強がすごく出来るからそれが得意でしょ。それにジンはかけっこが速いから、かけっこだし…だからみんな違う得意を持ってるんだってさ。得意なことあってよかったなって言われたよ」
アルが水を飛ばしながら笑顔で答えている。
本当に皆、気にしないだろうか。このまま隠さずにいられれば、こんなに嬉しいことはないとリーラは思う。
「俺にまかせろ。な?」
ランディはリーラを抱きしめたまま離さないでいる。
リーラの周りに風が吹いた。温かい風だった。
◇ ◇
「もう…何度言ったらわかるの。部屋の中は、ダメって言ってるでしょ!」
双子の力を隠さず過ごしてから、王宮の中で働いている人達には、ほぼ知れ渡っている。最初は物珍しさからか、双子見たさに人が集まってきていたが、今ではもうすっかり日常となり誰も気にしなくなっていた。双子はみんなから不思議がられたり特に怖がられたり、嫌わせたりもせず過ごしている。ランディの言っていた通りだった。
この力について悩んでいた日々はなんだったのだろうかとリーラは思う。だがそれも、ここで生活出来ているからだということもわかっている。
ネロとアルは、『双子の遊び』をリーラの前でやっていいとわかった後は、頻繁に水を丸め宙に浮かせていた。それを、今日も部屋の中でもやってしまい、リーラに叱られていた。
「部屋が水浸しになるでしょ。ダメ。今すぐに片付けなさい」
「「…はい」」
「リーラは怒ってもかわいいな」
ベッドで横になっているランディが、ニヤニヤと笑いながら言うので、リーラは咎めるような視線を送る。
「どこでもやっていいわけじゃありません。ここは寝室です。水浸しで寝られなくなるでしょう」
リーラの言葉にランディは肩をすめている。
「リスの形が出来たんだよ。リーラにあげようかと思って…」
「リーラに似てるでしょ?リスさん」
アルとネロは、リーラを喜ばすために作ったようだ。
「そっか…ありがとう。だけど、お部屋の中だと朝には割れちゃうから水浸しになるでしょ?だからこの遊びはお部屋の中じゃなく、外がいいな。わかった?」
「「はい。わかりました」」
素直な双子に思わず笑ってしまう。最近はますます活発になってきている。
「よし、じゃあ今日は俺が真ん中でいいな。おまえら叱られたから端な」
「えーっ、今日はリーラを真ん中にしてよ」
「叱られた日にリーラと離れるのはやだよ」
相変わらず三人は寝る場所で揉めていた。それを聞きながら笑っているのも日常になりつつある。
「なんだよ、いつまでも俺は端なのかよ。仕方ない、じゃあ今日の真ん中はリーラだな。そういえば、リーラ。婆さんの籠だけど、一度見に行くか」
噴水の前で双子の遊びを見せた後、ランディはリーラに伝えたことがあった。
この力を使い、枯れた土地に水を撒きたい、水を移動させたいというのだ。
枯れた土地に水を持って行き、山からの水も引き入れるという計画だった。葡萄や果物が十分育たない土地に、新しく水を貼り、水不足、水捌けの問題を一気に解決しようとしている。
双子が作る水のボールは大きさも形も自由自在に作ることができ、浮き上がらせることも出来る。ただ、大量の水を長距離移動をすることが難しかった。
それならば、水のボールを籠に入れて移動させるのはどうだろうかと、リーラは考えをランディに伝えた。リーラは村で暮らしていた時に、クルット婆さんが編んでいた籠を思い出す。
リーラが作る薬草の中で、つるがしっかりしている草があり、村ではそれを使い収納籠を婆さん達が編んでいたのだ。
耐久性に優れていて水にも強いので、村ではみんなが使っている物だった。
「あの草は村にたくさん生えています。凄く便利なんです」
「明日から少し時間があるから、早速行ってみるか。久しぶりにライズに乗り二人で行くとしようか」
「はい、お願いします。みんな元気かな、本当に久しぶりですね」
いつの間にか双子は寝ていた。
いつもランディは隣にいる双子を抱きしめながら寝ているのが、今日はリーラが隣である。だからなのか自然とリーラを後ろから抱きしめていた。毎日の習慣になっているのかもしれない。ただ、リーラは後ろから抱きしめられることは初めてであり、耳元で話を続けるランディの声が少しくすぐったく、首を窄めた。
「なんだ…どうした」
いつもより甘い声でランディに囁かれた気がする。
「フフ…ちょっとくすぐったい」
リーラも無意識に甘えた声が出てしまった。
ベッドの中では薄手の寝衣でいるため、ランディの身体を直接感じてしまう。抱えられている逞しい腕に、トクンと胸の奥が疼くのをリーラは感じ、思わずランディの腕をそっと引き寄せてしまった。
「寒いか?」
「ううん。大丈夫です…」
抱きしめる手を緩めることをせず、ランディはリーラを後ろから抱え直す。更に身体は密着し、熱くなった。
「こうすると、落ち着くか?」
「そうですね…安心します」
「安心か…それも微妙だけど、まあいいか…明日は泊まりになるかもしれないから、準備しておいて欲しい」
「わかりました」
明日、村に帰る。
二人でライズに乗り村に行く。
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