夜の海岸に現れる龍の謎7

 SideY


「勇利さん。やっぱり上がってくださらないの?」


 おばあちゃまは困惑きたような、又は少し呆れた様子で私にそう言った。


「もうすぐ済むと思うのでもう少しだけお待ち下さい」


 おばあちゃまのお宅にはもう一度上がらせてもらったものの、私は客間には行かず、玄関に座り込んでいる。


 犯人は現場に戻る。彼らの目的は明らかだったし、今日中に決着をつけるためだ。私には時間がない。


 推測にはなるけど、おそらく彼らは釣りをする為にミミズを欲していた。


 そして、どんな理由かはわからないけど、ミミズが繁殖していたおばあちゃまの花壇が目をつけられた。


 どうやってミミズを土の上に引きずり出したのかは、私の中で大まかに推測できている。


 でも、今だになぜアルカリの土壌が酸性化したのか、それはわからずにいた。


 それも彼らを捕まえれば聞き出せるかもしれない。


 おそらく彼らがをしたことによって土壌が酸性化したのは間違いない。


「そう。ここに紅茶置きますね。冷めないうちに飲んでちょうだいね」


 思考の海に耽っていたら、おばあちゃまからそう声をかけられた。


「はい。ありがとうございます」


 お礼の言葉は告げ、すぐにカップを手に取ると、顔の高さまで持ち上げた。

 うん。いい香り。甘い花の香りがするわ。ダージリンかしらね。


 ガチャン!


 少し弛緩していた空気が一気に緊張感をはらむ。

 扉の向こうから、物音がしたのだ。


「うおー。すげー数のミミズ!」


 ミミズを言及する声を聞いて、くだんの犯人だと断定できた。


 迷っている暇はない。


 私は立ち上がると扉を開き、花壇横に座り込むパーカー姿の男を見つける。

 そして……


「ミミズ泥棒!覚悟!」


 私は飛びかかった。


「えっ、ちょちょちょちょ」


 男もろともバランスを崩して、花壇に倒れ込む。


「いてて。うわっベチャベチャだよ!それになんかジャリジャリするぞ、この土。うわ、生ゴミが埋めてあるぜ」


「なにごちゃごちゃ言っているの!そこに直りなさい!」


 男の背中に跨りながら、私のストレスも全部込めてそう叫んでやった。


「勇利さん。大丈夫!?」


 私の叫び声を聞いて、おばあちゃまも駆けつけてくれていた。

 手元には竹箒が握られている。


「愛華。ちょっと待て。俺だよ俺」


 そう言いながら振り返った男の顔には良く見覚えがあった。


「えっ!?立花君!?ここで何をしているの!?」


 すぐに立花君の上から退くと、立花君の手を取って立ち上がらせた。



「これなんてプレイ?まあ俺的には悪くはないと思ったけどさ」


「バカなこと言ってないで早く答えなさい。ここで何をしているの!?まさか、あなたが犯人だって言うの!?」


「ちょちょちょちょ、ちょっと待ってて。五頭竜の方の進展があったからよ。奏ちゃんに聞いたらここに居るって言うから、ちょっと相談しにきたんだよ」


「ふーん。相談ね。そんなのスマホですればいいじゃない」


 立花君は、苦笑いを浮かべて答える。


「ほら、クマに襲われた時に失くしちゃってさ。まだ新しいの買いに行ってねえんだ」


「はあ」


 思わずため息が出た。おばあちゃまもどうしていいのかわからない様子で、竹箒を振り下ろすべきかどうか迷っている様子だ。


「彼は私の友人です。害はないと思います。……多分」


 まだ彼が犯人ではないとは言い切れないけど、私の知っている立花君は、よそ様から盗みをするような人間ではない。


「多分ってなんだよ!俺はそんな事しねえって」


「もうわかったから。早く頭に乗っているグレープフルーツの皮を取りなさい」


「うわマジかよ!?」


 立花君は慌ててグレープフルーツの皮を頭から取ると、花壇に投げ捨てた。


「ゴミを投棄するなんて最低よ。すぐ拾いなさい」


「えっ、だってよこれは」


 私と立花君の間に割って入ったのは、おばあちゃまだった。


「いいのよ。それは私が花壇に埋めた物ですから」


「そう、なんですか」


 なぜグレープフルーツの皮を……?


「あー、おばちゃんもミミズ育ててんの?釣りとかするんスカ?」


 決して敬語ではない、彼なりの精一杯の言葉遣いだ。社会人としてはどうかと思うけど。


「立花君。言葉遣いには気をつけなさい」


「いいの大丈夫よ。ミミズを育てている訳ではないのよ。前任者がそうしていたから、私も引き継いでそうしているだけで、下手の真似好きね」


 おばあちゃまはおどけたような口調でそう言ってみせた。不思議なもので途端に、空気が和んだように感じる。


「本当にすいません。友人が迷惑をかけてしまって」


「いいのよ」


 おばあちゃまはそう言ったあと、立花君の姿をまじまじと見て口を再度開いた。


 「それにしても、そんなには汚れてしまってはお帰りになれないでしょう?変わりの上着をお貸しするわ。とりあえずお上がりになって」

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