第6話 夏祭り[前編]

 今日は7月20日。

 リースティアヌ王国で年に一度、夏に行われる夏祭りの日である。1日目は開催パレードがあり、王族、騎士達らは王都の決められたルートを馬車を通して回り行くという一大行事がある。

 王立騎士団、王子、王女、国王陛下に仕える騎士達らも開催パレードに参加することになっており、民達は国王、王妃。王子、王女を一目見ようと王都では早朝から沢山の人で溢れていた。


「私も小さい頃、このパレードを見る側であったんですが、今は見られる側であるなんて、何だか不思議な気持ちです」


 開催パレードが始まり、自身が仕える第一王女ティアナが乗る馬車が前へと進み動く横を、白馬に乗りながら王都の道を進むアリーシェは、王都の街道の左右にいる人々が畏敬の念が込められた眼差しで、こちらを見ている姿を自身の視界に映しながらアリーシェはぽつりと呟いた。


「そうだよなぁ、俺もアリーシェと同じで不思議な感じだ」


 アリーシェと同じく白馬に乗りながら、同期でありティアナの護衛騎士の一人でもあるルイはアリーシェの呟いた言葉に同調してくる。


「ルイ、いたの? 気付かなかったわ」

「ええ、俺、そんなに存在感薄い?」


 アリーシェとルイは王立騎士学校の時からの付き合いであり、王立騎士団に入った時期も同じである為、同じ騎士という役職として、また同じ夢を志し叶えることが出来た仲間として深い関係性にある。


「存在感薄いわね」

「アリーシェ、お前、俺の反応見て楽しもうとしてるだろ?」

「あーあ、バレちゃったか」

「たっく、そういうの良くないぞ〜」


 アリーシェはそう言うルイを見て、笑みを溢した。



 王都の通りを一周する開催パレードが終わり、ティアナは一度、着替えてから後でお忍びで王都にまた来ると言い、ティアナの護衛騎士の一人であるヴィルと共に馬車に乗り立ち去って行く。

 アリーシェは王都の巡回をヴィルに頼まれたので、王都に残ることになり、ティアナが乗った馬車が見えなくなるまで見送った後、王都を巡回するべく歩き始める。


「賑やかね、私も小さい頃は家族と一緒に来ていたわね。なんだか懐かしいわ」


 巡回しながら、アリーシェは王都の街並みを横目に見て、ふと昔のことを思い出す。



 アリーシェには小さい頃からの付き合いである幼なじみ《リド》がいた。

 アリーシェはリドのことを好いていたが、夢を叶える為に王立騎士学校に入るという決断をした後、自分の気持ちをリドに伝えたのだ。

 

「私、小さい頃からリドのことが好きだったの。王立騎士学校に行く前にどうしても伝えたくて」

「アリーシェが好いてくれてたのは、気付いていたよ。だけど、アリーシェも知ってる通り、俺は結婚を前提にお付き合いしている人がいるんだ。だから、アリーシェの気持ちには答えられない」


 アリーシェはわかっていた。リドに婚約を前提に付き合っている彼女がいることを。けれど、わかっていても伝えたかったのだ。自分の気持ちを。


「思えばあれが初恋だったのよね」


 自身の初恋は報われることはなかったが、今となっては良い思い出である。アリーシェは青い空を見上げながら、リドは今頃、どうしているのだろうか。と思い馳せる。



「毎年のことだが、今年も人が多いなぁ」


 橙色の髪をした若い男はそう呟き、賑わう王都の街並みを見回す。


「そうね、子供達二人が逸れないように貴方もちゃんと見ていてよ」

「わかってるよ」

「ぱぱ、あっちに綿飴があるよっ〜!」

「まま、あそこに風船配ってるおねえさんがいる! もらいにいきたい」


 王都の賑やかさに負けないくらいの無邪気な声で、幼い子供二人は瞳を輝かせて、両親に告げる。夏の暖かい日差しが、そんな幸せそうな家族の姿を照らしていた。

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