【脚本】同期の対談


小林「……もうカメラ回ってるんですか? あ、はい、じゃあ始めます」

藤木「なんか緊張するな」

小林「本当にね。……えっと、こんにちは。パリーグチャンネルの同期選手対談企画ということで、今回はファイターズの小林と」

藤木「ホークスの藤木でお送りします」

小林「我々は単に同じ年にプロ野球選手になった二人というだけではなく高校の時チームメイトだったという繋がりもあって今回呼んでいただいたみたいなんですけど」

藤木「特に話すことないよな」

小林「だよね。近すぎて逆に」

藤木「スタッフさんから話題振ってもらえると助かります」

小林「あ、じゃあ早速。『仲が良いと伺っていますが、普段からご飯に行ったりするんですか?』だって」

藤木「全然行かないよな?」

小林「遠いしね。北海道と福岡だし」

藤木「連絡もたまにしか取らないし」

小林「今は敵同士になっちゃったからね。プロになってからほぼ交流ないかも。あれ?俺たち今何年目?」

藤木「八年」

小林「八年交流ないって仲良いの?」

藤木「……あれ? この企画終了?」

小林「いやいやいや! 楽しくやっていきましょうよ! 仲良いは良いもんね絶対」

藤木「あ、じゃあ『高校時代の一番の思い出は?』だってさ」

小林「それはいっぱいあるね! ピッチャーとキャッチャーでバッテリー組んでましたし」

藤木「一番のってなると何だろうな……」

小林「やっぱあれじゃない? 三年の夏のさ、甲子園がかかった試合」

藤木「何かあったっけ?」

小林「あったじゃん、ほら。お前が試合の前日にさ、マネージャーの女の子、今の奥さんに告白して、『フォークで松居から三振取れたらいいよ』って言われてたやつ」

藤木「そんなことあったか?」

小林「あったって! 傍目から見たらもうとっくに付き合ってる感じの二人だったんですけど、激励みたいな気持ちでそう言ってくれたらしいんですよ」

藤木「あー……」

小林「でも逆にお前緊張してフォークが全然投げれなくなってさ。その子試合中ずっと青ざめてて」

藤木「んー……」

小林「結局投げ損じてすっぽ抜けて、15メートルくらい高く山なりに飛んで行ったんだよ。でもその間抜けなボールがたまたまストライクゾーンに入って三振取ったじゃん。あれは当時は焦ったけど今考えると笑える──」

藤木「ちょっとカメラ止めてもらえます?」

小林「え?」

藤木「あのさ、その話やめてくれよ」

小林「な、なんで?」

藤木「俺はあの後、あのヘロヘロの球を新型のフォークと言い張って何とか付き合ってもらったんだよ! 未だにフォークってことになってんだからネタバラシすんな!」

小林「そうだったの⁉︎ 八年間騙し続けてるってこと⁉︎」

藤木「ミキは俺が出てる試合も番組も全部チェックして応援してくれてるんだ! 公の場ではあれは新型フォークってことにしてくれ!」

小林「えぇ? めんどくさ……」

藤木「しかもお前今『間抜けなボール』って言っただろ⁉︎ あれは俺が妻を射止めた必殺新型フォークなんだからもっといい感じに表現してくれ!」

小林「あれ? 俺間抜けなんて言った?」

藤木「言っただろ!」

小林「あー、松居があの球のことそう言ってるからうつったんだ」

藤木「松居が?」

小林「ほら、あいつもプロになって今俺と同じチームにいるじゃん。たまにあの時の話するよ。『フォークを待ってたら意味不明な球投げてきてマジで卑怯だった』って言ってる」

藤木「そんなカッコ悪いことするか! 俺はただ極度の緊張でまともに投げられなかっただけだ!」

小林「ちゃんとカッコ悪いぞそれは!」

藤木「とにかくあの時の話をするならもっといい感じに喋ってくれ! あれは新型フォークだったっていうテイで!」

小林「わ、分かったよ。じゃあ撮影再開で。え〜っと、……あの時はお前の新型フォークで見事松居を打ち取って勝ったんだよな」

藤木「……ちょっとカメラ止めてもらえます?」

小林「何だよ⁉︎ 言われた通りにやっただろ⁉︎」

藤木「どうせ歴史を捻じ曲げるなら、まともなフォークで打ち取ったって設定にしたい」

小林「お前それは贅沢だろ⁉︎」

藤木「そもそもあんな球を投げたって事実がなければ俺はミキに嘘をつかなくて済むんだ」

小林「別の嘘にすり替わるだけだろ! 大体、ミキはあの時お前の球をベンチから実際に見てるんだぞ?」

藤木「あんなヘロヘロの球を新型フォークだと信じてくれる人だから、毎日『俺はあの時完璧なフォークを投げた』って言い続ければ洗脳できるはずだ」

小林「妻を洗脳するな! あと、多分だけどミキはあの球が新型フォークじゃないってことを知った上で気を遣ってくれてるだけだと思うぞ」

藤木「マジ⁉︎」

小林「絶対そうだって!」

藤木「じゃあ次の嘘も気を遣って信じたフリをしてくれるはずだ!」

小林「それでいいんだ⁉︎」

藤木「さあ、やり直してくれ」

小林「分かったよ……。じゃあ撮影再開します。えっと……、あの時はお前の完璧なフォークで見事松居を打ち取って勝ったんだよな」

藤木「……ちょっとカメラ止めてもらえます?」

小林「今度は何だよ⁉︎ いい加減にしてくれ!」

藤木「どうせならもっと設定を盛ってかっこ良くしよう」

小林「また贅沢言い始めた!」

藤木「あの日の朝俺は交通事故に遭いそうな子供を庇って怪我をしていたのにそれをチームに隠していたって設定を足してくれ」

小林「完全に嘘じゃん。お前は健康体にも関わらずビビって間抜けな球を投げただけなのに」

藤木「本当のことは言うな!」

小林「いや本当のことを言っていこうよ!」

藤木「俺にカッコ良いエピソードが付けば同期のお前だってセットで注目されるかもしれないぞ? プロってのはショービジネスなんだから多少の脚色は必要なんだよ」

小林「嫌な大人になったなぁ」

藤木「お互いにな」

小林「いや俺はまだなってないよ!」

藤木「はい、じゃあ撮影再開! 言った通り頼む!」

小林「ああもう……。えっと、実はこいつ試合前に交通事故に遭いそうな子供を庇って怪我をしていたんですけど、それを誰にも言わなかったんですよ。でも完璧なフォークで松居を打ち取ったんですよね」

藤木「一旦止めようか」

小林「止めんなって! 言われた通りやってるだろ!」

藤木「その助けた子供が俺に憧れて後にプロ野球選手になったってエピソードを足せばもっと良くなることに気がついた」

小林「アレンジを加えていくな! そんな嘘すぐバレるって!」

藤木「バレるか?」

小林「だって実際にそのプロ野球選手になった人がいなきゃ成り立たないだろ?」

藤木「ああそうか……。あ、じゃあそれが松居ってことにすれば」

小林「松居が一番ダメだよ! 時系列から何から全部おかしいだろ!」

藤木「俺嘘下手なんだよな……」

小林「その自覚があるならもうやめようよ! あ、っていうか松居がいるからどんな嘘ついてもバラされるんじゃない? あいつはお前の間抜けなボールを見てるわけで」

藤木「そうか……。じゃあ松居はあの勝負に負けて以来ショックで山奥に引きこもってるって設定にして」

小林「いやそれは設定じゃどうにもならないって! 実際にプロ野球選手やってんだから!」

藤木「うわ面倒だな……。お前チームメイトなんだからどうにか引退に追い込んでくれよ」

小林「嫌だよ! 言っとくけど俺八年あいつと同じチームにいるから今やお前より全然付き合い深いからな」

藤木「裏切るじゃん」

小林「俺裏切ってる? まともじゃないこと言ってくる奴にまともなこと返してるだけのつもりなんだけど」

藤木「高校時代もお前はチームを裏切って俺が投げる球を全部相手にバラしていて、俺はそれを知りながらも分かってても打てないくらい完璧なフォークを投げていたって設定にするか」

小林「すかさず設定に盛り込んできた……!」

藤木「さ、それで行ってみよう。撮影再開」

小林「俺が裏切っていたって話を俺がするの……?」

藤木「大分おかしいな」

小林「分かってんならやめよう⁉︎」

藤木「一旦! 一旦やってみてくれ! 俺が言ったこと全部盛り込んで」

小林「え〜? じゃあ……、えっと、高校時代僕はチームを裏切って相手に配球を全部バラしていたんですよ。でもこいつ分かってても打てないくらい完璧なフォークを投げて松居を打ち取ったんです。しかも試合前に交通事故に遭いそうな子供を庇って怪我をしてたらしくて。ちなみにその助けた子供というのが後の松居です」

藤木「止めようか」

小林「うん! これは止めよう!」

藤木「インフルエンザの時に見る夢みたいになってた」

小林「言いながら目眩がしたよ!」

藤木「あとお前がすごいサイコパスに見えるからそんな奴と仲が良いと思われるのはショービジネス的にも不利益だと気づいた」

小林「散々やらせといてお前……!」

藤木「やっぱ完璧なフォークを投げたってとこまでで留めた方が良さそうだな」

小林「……いや、正直に話そうよ。間抜けな球投げちゃったって話でもさ、今振り返ったら良いエピソードだと思うよ。結局試合には勝ったし付き合って結婚までしてるんだし」

藤木「……そうか、そうだよな。すまん。本当のこと言うよ」

小林「分かったらいいんだ。よし、いい加減撮影始めるぞ。まだオープニングなんだから」

藤木「あ、ちょっと待ってくれ」

小林「何?」

藤木「本当のこと言うとさ、ミキは俺の出る番組なんて一切見ないから実は何言ってもいいんだ」

小林「そこが嘘だったの⁉︎」



--------作者より--------

王様ジャングルの増元拓也さん&笹間淳さん出演回に書き下ろしたものです。WBCの時期だったため「野球」がテーマだったのだと思います。

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