第8話:密室で無くなるなんてアリエナイ。

「ここに置いていた私の指輪が無くなってるの……。さっきまでここにあったのに。ねぇ、誰か知らない?」

全員が首を横に振った。


「絶対にここに置いたの。あぁ、どうしよう。大事なものなのに」

「なんでそんな大事な指輪をわざわざ外すんだよ」

礼央君が言った。

「大事だから外したの」

そういえば真衣ちゃんは今日みたいにトランプゲームをする時は必ず指輪を外していた。


「待て。皆ここから動くな」

そう言って翔君がドアを塞いだ。

「皆手を上に。疑いたく無いが、衣類のポケットを検査さしてもらう。誤解を解くためにも」

翔君が真剣な顔で私たちに言った。なんだか探偵小説にでてくるような台詞みたいだ。

そういえば翔君の部屋には探偵小説がたくさん置かれていた。


「いいよ! どうぞ」

優樹菜ちゃんが手を上げた。

「皆の前で衣服のポケットを見せ合おう」

私、沙耶香はTシャツにスエットパンツを着ていた。

翔君、礼央君はTシャツにハーフパンツ。

優樹菜ちゃんはスエットワンピース、真衣ちゃんはTシャツにショートパンツ。

 それぞれ衣服についているポケットを見せ合う。


「まさか下着の中に……」

礼央君が言う。

「それはありえないことではないが、さすがに……」と翔君。

「つか、本当に指輪置いたの?」

礼央君が困惑した表情で真衣ちゃんに尋ねた。

「そこに確かに置いてたの。どうしよう。あの指輪は彼氏との大事な思い出の指輪なのに……」

涙を流しながら真衣ちゃんが言った。

「おい泣くなよ、もしかしたらひょっこりででくるかもしれないだろ」

礼央君が慰めるように言う。

「そうだよ。まだわからないじゃん」

優樹菜ちゃんが言った。


「しかし、変だな。密室のこの部屋の状態で物が無くなる。そんなことありえない」

翔君がぽつりと言った。

確かに翔君が言うように物が無くなるなんて変だ。

だって誰もこの部屋からでていないのだから。となると、指輪は確実にこの部屋にあるってことだと思うんだけど……。全員で手分けをして部屋を見渡したが、見つからなかった。誰にも怪しまれずに、ごそごそと隠す場所は無さそうだ。

「真衣ちゃん、きっとでてくるよ。どっかに落としたんじゃねーの」

そう言って礼央君はしゃがみ込み、机の下を見渡した。

「……ねーな」

「とりあえず今日はこれでお開きにしようぜ。明日も教習だしな」

礼央君があくびをしながら言った。きょろきょろと翔君も周りを見渡しながらそうだねと言った。

「きっとでてくるよ」


私たちは真衣ちゃんにそう言って慰めながら部屋をでた。


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