第27話リーシェ、聖女の可能性?

「・・・な、なんで?」



自室のベッドに我が物顔で腰掛けていたのは、帰った筈の聖女アリシア。



「なんで私の部屋にいるのですの!?」

「は?」



彼女は目を吊り上げる私に胡乱げな視線を向けた。



「今更何言ってるんですか? 今日からここに住むんですけど?」

「・・・え?」



彼女の衝撃発言に啞然とする私ですわ。意味が分からないですの?


何故私がこの人と同じ部屋に住まなければならないのですの?



「聞いてませんの!?」

「それは言ってませんからね」




自由気ままに部屋でくつろぐ聖女アリシアに驚きましたわ。


しかし、彼女は更に驚くことを言いましたの。




「勇者けいごやキリカがいない時に話しておきたいことがあるの」




勇者が帰った後、アリシアさんから話?・・・まさか、私が魔王であるが故の話ですの? いや、勇者もキリカも私に敵意がない今、あの話を蒸し返す意味がない。なら別のことですの?  一体何の用なのです。全く心当たりがないのですわ・・・。



「・・・聞かないのですか?」

「いえ・・・聞かせて下さい」



しかし私は不思議と必然に思えた。彼女の話は私も引っかかっているあの点のことではないかと疑っているのだ。私はキリカやアリスに聞かれないように防音の魔道具を作動させると、聖女アリシアの話を聞くことにした。



「実は、あなたに関することでちょっと気になることがありまして」

「私、ですか?」



一体どんな話をされるのかと、緊張が走る。勇者達が同席していない時にしたい話。ただ事ではないと思う。



「単刀直入に言います。あなたの前世で聖女と関係がありませんでしたか?」

「・・・はい?」



思いがけない質問に面食らう。にわかには信じられない内容だった。


前世で聖職者だったことはあるが、聖女なんて程遠いに決まっているし、何より私に関係あるとは思えない。




「つまりですね」


「はい」


「リーシェさんの魂は、私達聖女のものに近いと思うの」


「・・・えっ?」


「まだ確証はないけど、私の勘がそう言っているの」


「・・・はい」


「だからね。リーシェさんさえ良ければなんだけど・・・リーシェさん、聖女の試練を受けてみる気はない?」


「・・・へっ? 私が・・・聖女に・・・ですの?」


「ええ」


「・・・」



聖女とは何か。それがどのぐらい偉大で、どんな存在か。

私には全く分からないし、そんな大層なものになる資格なんかないと思っていましたわ。でももし本当に私が聖女に関連しているのなら?




「漆黒の瘴気に覆われているけれど、霧に包まれたように見える貴女の魂は、私達と同じ聖なるものよ」


「私の魂がですの?」


「思い当たることはない? 前世で何か力が使えたとか?」


「・・・あ」




そう言えば聖職者の時は天才とまで言われた。


特に勉強もしていないのにたいていの治癒魔法が使えた。


タレントに恵まれていたなら、それこそ聖女と言われてもおかしくない位に・・・。




「やっぱり思い当たるふしがあるのね。きっと聖なる力が弱くなったのは瘴気の影響によるものでしょう。ここからは、リーシェさんの魂が聖女のものだという仮定で考えをまとめるわ」


「・・・はい」


「勇者けいごの言っていた六百七十二年前って、当時の大聖女が十八歳で亡くなった年じゃない。時期がぴったり合う。ええ。やっぱり間違いないわ!」

「それで、勇者パーティは全滅したんですか? じゃあ、魔王はどうなったんですの?」

「魔王も相討ちで死んだみたいよ。勇者にトドメを刺される直前に自害したと」

「自害・・・なぜそこまでして・・・」

「これは推測だけれど、あなたが六度の人生で魔物に喰い殺されていることと関係あるんじゃないかしら?」




勇者パーティが全滅だなんて想像するだけで恐ろしくなる。ましてや私の六度の死と関係がある?




「多分、いえ、間違いなく当時の魔王は生きていると思うわ」

「魔王が生きている?」



思わず私は聞き返してしまった。強大な力を持ち、人とは相いれない存在。


その魔王になっているのだが、当時の魔王が生きているとは一体どういうことですの?

まさか当時の魔王は今も? いやそんなまさか・・・。


そんな私にアリシアさんはとても真剣な面持ちで話を進めた。




「当時の魔王が討伐された文献はないわ。その代わり、この魔王討伐失敗の百年前にも勇者パーティが全滅したことは書かれていたわ」


「それは? つまり、この勇者は魔王を倒せてないと?」


「いいえ、この戦いについては限りなく勝利に近い相打ちだったのではないかしら?」



アリシアさんは一度深呼吸をしてから口を開いた。




「六百七十二年前以前の戦いで勇者パーティが勝利した記録はないの。それ以前の歴史書がほとんど存在しないから不明だそうよ」




唐突な一言に、私は目をみはりましたわ。


アリシアは、これ以上語るのが辛そうだった。




「魔王の得意な魔法は知ってる?」

「もちろん知っていますの。特殊な能力・・・歴代の魔王は時空魔法が使えた!」


「そうよ。その問題の大魔王は時空魔法、つまり時を操る魔法なんて持っていたせいで、勇者パーティは苦戦した末に全滅したと文献にあるわ」

「全滅・・・」

「それで大魔王は倒されず、どこかの時空に潜み、今も生きて暗躍している。それでかりそめの聖女の私と同じようにかりそめの魔王が誕生するようになった。その魔王があなたよ」

「・・・・・・」



・・・あまりにも荒唐無稽な話で、すぐには反応できなかった。

いや、でも時空魔法のあのメチャクチャな強さを考えたら、信憑性はあるかもしれない。



「信じるかどうかはあなたに任せるけどね」

「そんな・・・」


「手負いの大魔王・・・ですの」

「うん。で、その大魔王は、手負いなら、当時のあなたなら勝てたんじゃないかな・・・って」


「でも、私は六回も喰われているのですの?」


「それはあなたが本来の力を封印されていたから。だから、大魔王はあなたを恐れてもいる。それに・・・ああ、もう! 私ってホント頭悪いな。こんな簡単なことに気がつかなかったなんて・・・」



彼女はコクリと頷きました。



「ええ、そうですわ。あなたが大聖女の力を取り戻せば勝てるかもしれない」

「・・・え?  なんでそう思うのです?」

「だって、魔王にとって私達聖職者の命って糧になるの。瀕死の大魔王は死んでからも時空に潜み、あなたの命を喰らうことで少しずつ力を取り戻しつつある。今の私なんかじゃどう頑張っても太刀打ちできないわ。でも、あなたが本物の聖女の力を取り戻せば?」


「でも、大魔王が既に力を完全に取り戻していたらどうするのです?」



歴代最強の勇者パーティが勝てなかった相手に、どうやって勝てば良いと言うのですの?

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