第10話掲示板

「私、勇者や人間と共存できるのか不安になりましたの」


「リーシェ様。どうしたんですか? さっきの失敗で心細くなったのですか?」


「いえ、今の自分が幸せすぎて、どこかそこはかとなく不安なのですわ」


「勇者と魔王の恋ですからね」


「魔王は存在自体、人間に害を与えるのですわ。一体どうやって勇者や人と共存できるっていいますの?」


アリスは沈黙してしまいましたわ。


いけません。アリスの気持ちを落ち込ませるなんて、主人失格なのですわ。


「!!」


「どうされたのですか? リーシェ様?」


「こ、この感覚は?」


そう。この感覚は六度の人生で何度も味わった。


私は後ろを振り返ったのですわ。


「......な、ぜ?」


「きゃぁ! なんです? あれ?」


後ろを振り返ると、真っ黒な顔の形状のもやの様なものがいましたわ。


「い、いやですわ」


どうしてあれがいますの? まだ十八歳の誕生日ではないですわ。


あれは過去の六度の人生で私を喰い殺した魔物。


呼吸が荒くなり、空気が上手く吸えない。心臓の鼓動は跳ね上がり、自分でも音が聞こえる位ですわ。


------また、死ぬんですわ。どうやら今回は十八まで生きることさえままならないようですわ。


震えながら、あれが私に襲い掛かってくるのを......ただ待って。


だが、痛みはいつまで待っても訪れない。恐る恐る目を開けると。


? 私を怖がっている?


一瞬、そんな思いがよぎるが、次の瞬間。


ズシャ、ボトリ。


魔物が斬り殺されるかのような音が聞こえましたわ。


さっきまであった黒い霧は真っ二つに裂け、その向こう側にいたのは?


「勇者?」


「魔王!」


勇者は心配そうな顔で私の傍に来てくれた。


「顔が真っ青だぞ。魔王?」


「私......どうしよう?」


剣聖の力も魔王の力も通用しそうもないのですわ。それは本能がそう叫んでいる。


そして、あれはいつ私に襲い掛かって来てもおかしくない。


「魔王。全部話してくれ。お前には悩みがあるんだろ?」


「ゆ、勇者」


誰かを巻き込んでいけないと、これまでの人生で決意して来たが、勇者なら、勇者にならと、つい縋ってしまう自分がいましたわ。


「にわかには信じてもらえないと思いますわ」


「俺は魔王の言うことなら、何でも信じることができると思う」


澄んだ紫の目で見つめられて、私の理性は限界だった。


「私、人生はこれで六度目なのですわ」


私はこれまでの六度の人生を話していました。




【リーシェちゃんについて語るスレ】


”エリカちゃんを助けてくれてありがとう”


”良かったぁあああああ!”


”配信見て感動したの初めて”


”俺もww”


”だけでなく、渋谷ダンジョンの全員おわたと思った”


”そうそう。感動した”


”今北産業。何の話?”


”イレギュラー現れて渋谷ダンジョン終了、乙”


”ふぁ?”


”エリカちゃんが配信してたよな?”


”イレギュラー発生。エリカちゃんピンチ”


”う、嘘やろ? 俺の推しのエリカちゃんが?”


”からの謎の美少女SSS級ドラゴンワンパンww”


”ふぁッ?”


”本当に間一髪だった”


”もうだめだと思った”


”マジか?”


”切り抜きうpされてるから見てみ”


”見た。マジでヤバい”


”ドラゴン見ての感想がうざいだから草ww”


”フェンリル狩るときのマジキチスマイル悪魔よりww”


”ええっと、困惑”


”そんなバケモンマジでいるの?”


”信じるなら、二日前に異世界から来たってよ”


”異世界人?”


”釣りならもう少し......その方が合点行くのが草w”


”ほんと誰なんだ、それ?”


”リーシェちゃん。Wのトレンド一位”


”二位がこんにゃくなのが草w”


”リーシェちゃんのチャンネル見つけたかもww 異世界冒険者→URL”


”プロフに異世界人て書いてあるw”


”便乗乙”


”いや、過去ログ見たけど、本人!”


”マジやん!”


”色々ぶっ飛んでで草w”


”一人でフェンリル十匹以上雑魚扱いw”


”マジキチ笑顔が好きww”


”マジでドラゴン倒したの?”


”歴史上はじめてやろ?”


”偉業をマジキチスマイルで決めるのがリーシェちゃんスタイル”


”こんなの笑いながらやってるヤツ初めてw”


”なんでこの子、今まで埋もれてたんだよ”


”だから、二日前に異世界から来て、探索者登録したばっかw”


”ふぁッ?”


”てことは、Fランク?”


”そゆこと”


”Fランク配信者、うっかりSSS級の魔物ぶっ飛ばすw”


”なんか、サイトに有料で【リーシェちゃんの夜のぺチン】”


”見た。吹いた”


”マジか”


”こっちは真顔でw”


”駄目だ、腹がよじれる”




掲示板は延々とリーシェのことを熱く語り続けた。




その日の夜、リーシェとアリスは部屋でくつろいでいた。




「ありがとうアリス。いつもすまないですわ」


「それは言わない約束ですよ」


ダンジョン配信から二時間後。例の漆黒の魔物に襲われてから一時間が過ぎていましたわ。


アリスの作ってくれたココアという飲み物は別格ですわ。


安らぎの時間。特にテレビというものを見ながらくつろぐのが最高に休まりますわ。


『栃木県の公式サイト【こんにゃくの変わった使い方】に謎の書き込みがなされました。こんにゃくで尻をぺチン、ぺチンと叩く。プレイスタイルは全裸で立ちながら身体をひねり、ひじを左わき下からはなさない心がまえでやや内角を抉りこむように打つべし。表情は基本真顔、乗って来るとニヤニヤ。最初の一撃は必ずひゃんと声が漏れるという。何なのこれ? 真面目に何を読ませるの? 異世界から移住して来たダンジョン配信者でもあるリーシェ・シュテイン・サフォーク嬢が発起人とされ、配信のプロフからリーシェ嬢の実際の体験映像が確認されています。警察は重要参考人としてリーシェ嬢に任意同行を求めるため捜査中』プツン。


「アリス」


「ひゃい!」


「死にたいんですの?」

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