第5話

い、息ができない。


このままでは、

シミーに命を奪われる!



わたしは必死の思いで玄関まで走った。


ドアノブに手をかけるとドアが開く。



助かった!



「シミにお悩みなのですね」

ドアの外に立っているセールスレディと目が合った。


わたしがシミーに襲われていることをまるで知っているような口振りだ。


セールスレディは、自分の会社の美白化粧品の宣伝を唱えはじめた。




恐ろしい呪文に魔物が目を覚ます。



セールスレディの頬に、大きく眼を見開いてこちらを嘲笑うシミーがいたのを見た。



「お前の全てを奪ってやろうだに」



わたしは叫びだしたくなるのを抑え、セールスレディと自分の部屋をそのまま置き去りにし、走り出した。



シミーが!

シミーがわたしの命を狙っている!


ただのシミじゃなかった。


とんでもない魔物を、わたしは自分の肌から、自分のメラノサイトから作り出してしまったのだ!



誰か、

誰か、わたしをシミーから助けてください!





わたしは無我夢中で走った。


学生時代は陸上部に所属しており、長距離走が得意だった。



良かった。

その脚力と持久力のお陰で、シミーからだいぶ遠ざかっている。


そう信じたい。



街のバスターミナルまできている。


ここからバスに乗り込み、できるだけシミーから遠ざかろう。


そういうつもりでいた。



「お前、シミーから逃げられると思っているのかやれ」



そんな声が聞こえた気がしてゾッとした。


息が上がり顔を上げると、バスの窓に自分の顔と、くっきりとどす黒く変色したシミーが。



こ、呼吸が止まりそうだ。



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