不幸な異世界王子(俺)がガチャで出した相棒は、ダメすぎる魔女設定の地下アイドルでした

夏之ペンギン

第1話 俺は拉致られた


 空  空  え?空…?  なんで――


 やたらうすら寒い場所に俺はいた。そこは真っ白な世界で、俺の前に白い服を着たおかしなじじいが立っていた。


「というわけで、君は王子となってこの世界から悪魔や魔王を滅ぼし、清く正しい世界にするのが使命となったわけじゃ」


 ロン毛の白髪じじいにいきなりそんなこと言われても、さっきまでゲーセンの前のおたふく商店のかき氷を、後頭部を抑えながらも味わっていた高校二年の俺、織田勇樹が、はいそうですかと理解できるわけはないだろう――


 どう考えても拉致られたとしか思えない。いきなりこんなところに放り出されたんだ。ここはどこだ? おいおい、足元ってこれ雲じゃねえのか? 雲って人なんかが立ってられるものなのか?


「なにがというわけでだ?話の筋が見えねえ。てめえはいったい誰だ?しかもどこだ、ここは。俺がいま手にしているかき氷以外は、全部心当たりがないんだがな」

「まあある程度は早急だったのは否めんが、致し方なかろう。こちらも切羽詰まっておるところじゃからな。まあよい。旅の支度をするがいい」

「おい、話聞いてるか?てめえはなんだと聞いているんだよ!」

「わしか?わしは全知全能の神じゃ。どうだ、驚いたか」


 あーいるいる。過度のストレス社会となった現代は、いつだれが精神崩壊を起こしてもおかしくも珍しくもなくなった。俺の周りにもいっぱいいる。


「ねえ勇樹君、黒魔術研究会に入らない?禁断の魔術を味わいたいでしょ?」

(同級生女子の病んでるサイコパスさん)


 とか


「俺はー、お前たちにー、こうして踏まれるのも平気だー。なぜならわたしは神だからだー。さあ最後の審判をうけるがいいー」

(同じく同級生で自分が救世主だと思っているいじめられっ子くん)


 こいつらは気の毒だとは思う。だが俺には関係ない。なんせ俺は彼女いない歴十六年と七か月(これも関係ない)、てめえのご都合につきあってられるほど、俺は暇じゃねえんだ―――っ!


「神だか何だか知らねえが、俺をどうしようってんだ!」

「では無事に召喚も済ませたし、あとは適当にやってくれ」

「おい、なに言ってんだてめえ。召喚ってなんのことだよ!」

「いちいちうるさいやつじゃなあ。何が不満なのじゃ?あ、そうか、そうじゃな。忘れておった」

「人の話聞いてねえだろ、てめえ」

「パートナーじゃろ?この世界を共に行動する相棒。さあおまえの好みはなんじゃ?おなごか?それとも一気に男か?愛の形態はそれぞれじゃからな」


 俺の現在証明が愛の形態の証明に入れ替わったー?いや、俺になにさせようとしてんだよ、こいつは?


「さあ、天界のルールを説明するよ。よく聞け」

「待てよ。本人の同意もなく強制的に連れてきて、ルールもへったくりもねえだろう!いますぐもといたところへ戻せ!」

「戻してもいいが、お前が困ることになるのでは?」

「どういう意味だよ」

「もとの世界のお前はちゃんとおるからじゃ」

「え、どういうこと?」


 ロン毛白髪じじいが杖を雲の隙間に突っ込むと、そこだけモニターのようになっていった。


「ほら、下界のお前じゃ。いまあそこへおまえを放り出せば、大変なことになるだろうな。まあどっちかのお前が消えるだけだけど」


 モニターにはかき氷を食いながら後頭部を抑え悶絶している俺が映っていた。


「え?じゃあ俺は、誰?」

「お前もお前じゃ」

「おい爺さん、わけわかんねえこと言ってるとマジ殺すぞ」


俺が俺ならあいつも俺ってことか?ありえねえ。


「じゃああいつを消せよ!俺は俺なんだから」

「じゃがあやつもおぬしじゃぞ。理不尽に消されるおぬしなんじゃがなあ」


意味わかんねえ!あれが俺?俺消されちゃうの?


「いやそうじゃねえだろ!元に戻せって言ってんだよ!」

「もう無理。分離した段階でもう元には戻りません」

「じじいマジで言ってんのか!」

「まあがんばってな。パートナーはのちほどおまえが選ぶがいい。じゃあね」

「おいまてこら!」



 こうして俺、織田勇樹は、まったく俺の意志とか事故とか運命とかとは関係なく、勝手に召喚させられてしまっらしい。まったく悪夢としか思えない…。ところで…えーと…ここ、どこ?

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