第14話 絶望

(助かる!!)

 思っていたみんなの足は、入口の手前で止まった。

 大型車が余裕で通れそうな中央入口、周りの部分もその上の壁も、全て透明なガラス(強化アクリル)、全体の天井も透明で、晴れた日中は照明なしでも店内が明るくなる造り。

 その、晴れた日中なのに、入口が影になっている。

 今まで遭遇した大型魔物なんて可愛いもんだった。恐竜サイズだ。3階(一般の建物なら5階ぐらい)の天井まで届きそうな大きさの魔物、まるで恐竜が外にいる?!

 慌てて反転した。

 正面入口は2つある。

 南は駐車場側に出る。こっちに出て車に逃げ込みたかったが、

 北のバスターミナル側、まずはそちらを目指すことに……?!

 こっちにもいた?!

 2頭の怪物が、北と南の入口を塞いでいる。

 残る出入り口は、東と西、横長の建物の端っこだ。西側へ走り出す。西側入口は、南に向いている。そこを目指す。

 ガラスが大きく割れる音がした!

 入って来た。

 南の1頭が中に侵入してきた音だ。

 最悪だ。絶望的だ……思いながらも走る。

「好都合よ!」

 走りながら、ソノちゃんが叫んだ。

 西の入口から出れた時、南にヤツがいない!

 頭の回転が早い、さすがソノちゃんだ。

 そして、よく来るモールだ。西の入口は通常サイズ、ガラス張りの壁は1階部分だけ、あの怪物は通れないと気づいた。

 必死に走る。ライフルを下げながらでも姉ちゃんは早い。時々振り返り、また前を警戒し、先頭を走る。

 俺はアイちゃんを抱えながら、なるべく揺れないように走っている。ペースダウンになるが、運動が苦手なサチちゃんと並んで走れた。

 怪物は、曇天や夜に使う照明、天井からぶら下がっているシャンデリアのような照明がぶつかって邪魔になる。ただそれも、最初気にしていただけ、前傾姿勢を取ると、一気にスピードアップした。

 本当に肉食恐竜に追われているようだった。

 ただ、怪物の頭は真ん丸、スイカのような頭、頭だけ無機物のよう、恐竜には見えなかった。

 ティラノザウルスなら諦めていた。変な頭、けん玉ザウルスだから走って逃げれた……のかな?

 西の端、食品売場まで来れた。

 このモールのメイン企業の店、どこからでも見えるように、天井まで吹き抜け、怪物が入れてしまう造りだった。

 失敗した。反対側に逃げるべきだった……と思ったが、まだ少し離れている。出入り口も見えた。外へ出てしまえば!

 ……

 先頭の姉ちゃんの、

 足が止まった……

「嘘……」

 1階はガラス張りの壁、外が見える。

 怪物の脚部分が見えている?!

 ……もう1頭いた。

 絶望的だ……

 逃げられない……

「アイツを倒す!!」

 姉ちゃんは、諦めが悪い。

 最後尾、みんなの前衛に出ると、ライフルを構え、

 近づいてくる怪物に発砲!

 発砲!発砲!

 ……

 効いていない……

 散弾が虚しく弾かれる……

 そして……弾切れした……

 撃ち終わるのを待ってたかのように、怪物はまた、前衛姿勢を取り始めた。

 バランスボールくらいの丸い顔が近づいてくる。

(ここだったのか……)

 胴体に比べれば、顔は迫力がない。

 今、散弾を撃ち込むのが「攻略法」だったのかも知れない。

 ビッグイベント……リスクも大きいってことなのだろうか?

 絶望的だ……もう手が無い。

 ……

 姉ちゃんは、諦めが悪い。

 拳銃を取り出し、乱射する。

 ライフルなら何とかなったかも知れないが、全弾顔に命中してるのに、効いていない。

 それでも姉ちゃんはやめない。

 俺はソノちゃんに、

 寝ているアイちゃんを抱っこ紐ごと渡すと、

「こっちだ!バケモノ!!」

 売場のさらに奥、中央とは反対の方へと走り出した。

 釣れた!怪物が向きを変えた!

 このまま俺を追いかけてくれれば、

 ……他のみんなは助かる!!

 姉ちゃんとソノちゃんに合図を送った。

(行け!!)

 怪物は、追いかけて来なかった。

 俺を追いかけては来なかったが、

 首を長く、伸ばし始めた。

 どんどん恐竜とは異なる姿になる。

 キリンのように(体に比べ)細い首が、首だけが伸びて俺を追いかけて来る!

 しかし、

 これは釣れた状態だ。

 このまま首長フォームでは移動しづらい。後ろへ逃げれる。

 標的にされた俺は絶望的だが。

「行きましょう!」

 ソノちゃんがみんなに合図した。

 俺と反対側へ走るように指示をした。

 ソノちゃんは優しい。

 でも、リーダー的決断で、大勢のためなら少を切り捨てる判断もできる人だ。

 みんな、ソノちゃんに続いて動き出した。

「ウララ!」

 姉ちゃんを呼ぶ、ソノちゃん。

 ……姉ちゃんは、諦めが悪い。

 俺はもう、諦めた。

 なのに、

 姉ちゃんはまだ、撃ち続けている。

 一番もろそうな首を狙って連射している。

 2丁の銃での連続射撃。

 しかし……最初は頼もしく思えた銃だが、今は玩具の拳銃にしか見えない。効いてない。

 真ん丸顔が、俺の目前まで来た。

 大きな口だ。ギザギザの鋭い牙だらけの大口だ。首の太さからして、丸呑みは無いだろう。

 痛そうだ。噛み砕かれて、殺られるのかな?

 姉ちゃん……俺は諦めた……逃げてくれ……

 諦めない姉ちゃん。

 俺が目配せしても、ソノちゃんが何度呼んでも……俺を切り捨てようとしない。

 ……

 でも、

 銃弾が尽きた。

 拳銃の弾も、無くなった。

 そして、

 後ろのガラスが割れる音!

 風とともに、何かが入って来た!

 姉ちゃんが……諦めた。

 逃げもせず……その場に膝から崩れた……


「よく、頑張った……」


 姉ちゃんを通り過ぎた風とともに、声が聞こえた?!


 人間?!


 その人影は、

 怪物の首を二刀流の刀でぶった斬った。

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