第12話 弾の数

「レイくん?!」

「レイくん、早く!!」

 赤ちゃんを、アイちゃんを手渡された。

 サイレンのように鳴り響いていた鳴き声が、嘘のように、ピタリと止んだ。

「どこ行ってたのよ、もう!」

 色々説明せねばなるまい。❝アイツ❞の事を隠したままで。

「……OK!安定したわ。」

 と、ソノちゃん。やつれ顔だ。

 みんなに説明する前に、説教がらみの説明を受けた。

 俺が消えてから今の今まで、アイちゃんは、泣いては疲れて寝て、また起きて俺が側にいないと知り泣きだして……を何度も繰り返していた。

 アイちゃんが、やっと安心したかのように、眠りについた。可愛い寝顔だ。

 ほぼ眠れていないみんなも寝て……などと、言える状態では無かった。

 大型の魔物に囲まれている、と言う。

 敵は7体。歩く樹木のような大型魔物。2体は姉ちゃんが倒したが、まだ7体残っている。

 安全地帯(ゾーン)が襲われたのは、ソノちゃんがストレスで能力不安定になったためだ。

 『ゾーン』の能力には2つの特長がある。

 敵に認識されないことと、透明の壁(結界)を作り出すこと。

 不安定になり中に人間がいると気づかれ、魔物が集まり、結界に次々ぶち当たってきた。

 ちょっとやそっとでは壊れないが、延々と突進は続く。結界のダメージはソノちゃんを消耗させる。赤ちゃんも泣き止まない。このままではいずれゾーンが破壊される……

 ソノちゃんは優しい。リーダー的決断で、大勢のためなら少を切り捨てる判断もできる人だが、赤ちゃんは切り捨てられない。それどころか、状況が悪化すると責任を感じてしまうタイプ。

 だからゾーンはどんどん不安定になった。

 姉ちゃんは中から銃を乱射した。大型魔物は耐久力があった。一体倒すのに軽く百以上は撃ち込んだ。中庭の玉砂利をかなり使った。

(あと7体、とても倒しきれない!)

 玉砂利の代わりの銃弾を模索中に、俺が戻って来た。

 ゾーンが安定し、少し落ち着いた対策会議となった。

 すっかり寝ている赤ちゃんは、非戦闘用員のヒナタさんが隣で見ている。

 一時的だが、実家に戻り、両親に会ったことを

報告。なぜ戻ったかは❝アイツ❞も想定外、

❝まさか門浦景子と共鳴するとは❞アイツが驚いていたが、説明は一切なかったので本当に分からない。分かってたとしても口止めされているが。

 父さんと母さんに真実を説明したことを話した。

「父さんは黙って聞いてたけど、そのあと出てっちゃって、朝まで戻って来なかったんだ……」

 涙ぐむ俺を、

「仕方ないよ……誰に話しても、多分信じてもらえない……」

 珍しく、優しい言葉で慰める姉ちゃんだったが

「違うんだ……」

 俺が泣いている理由は、そこじゃない。

 部屋の隅、入るなり置きっぱにしたバッグを取りに立つ。

 カレーやお菓子、姉ちゃんの衣類の入ったリュックの……隣のバッグ、

 父さんのゴルフバッグを持ち上げると、

 中から取り出したのは、ゴルフクラブでは無く

「父さんは……ちゃんと聞いてくれてたんだ!」 

 金属と木で出来た長いモノ、初めて触る長いモノを取り出した。

「それって?!」

「ライフル銃?!」

 みんな驚いている。

 もちろん、直前に手渡された俺も驚いた。

 大学でクレー射撃をやってた父さん、今では昔の仲間と、1、2年に一回やる程度だが、実家の側の銃砲店に預けてあるのを車で取って来てくれた。他人に使わせるのは違法だが、ここは異世界、法の外だ。

「これ、使えるわ、私!!」

 手に持った瞬間、能力『シューター』が反応したのだろう、姉ちゃんが断言した。

 ゴルフバッグをひっくり返す俺。

 ボト、ボトと弾が落ち、最後にバサ、バサと紙の束が出てきた。

「使用マニュアルだって。」

 父さんがまとめたライフルの初心者用の図解入りマニュアル。弾の込め方など分かるように作ってくれた。

「その弾の方、いくつあるの?」

 高揚して泣いている俺に、冷静なソノちゃんが尋ねる。

「5個……かな?」

 改めて数える俺。外の魔物は7体とか言っていた。全部倒さないと、ずっと結界を攻撃されている状態が続きそうだ。ドアやガレージの出入り口を塞がれて出られなくなる可能性もある。

「ベルトに付けて持ち運ぶのかな?」

 形を見て、そう思った。

「……中に12発ずつ、入ってる。」

 銃弾ホルダーとかポーチとか呼ばれている。その12個入りが5つだった。

 姉ちゃんが試射、

 本物の銃声だ。

 アイちゃんが驚くか心配だったが、起きずに寝てくれている。

 威力も凄かった。

 大型魔物を一撃で破壊、飛び散る散弾が粉々に砕いた。

 実際は散弾銃で巨木の粉砕は難しいのかも知れないが、姉ちゃんの能力は、玩具の銃でも殺傷できる威力に変える。その今まで使ってた銃が、ホントに玩具に感じる威力だった。

「父さん……ありがとう。」

 7発で無駄なく魔物を一掃したシューターが、感謝の言葉を口にした。

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