第27話 ダ、ダメだ!!

 楯無キドラの『山』結界を、いとも簡単に破壊したクサカの体の悪魔。

 そのさらに強力な攻撃を、姉の能力を借りているはずの弟リョウきゅん♡が『山』結界で止めた。

 クサカの体を乗っ取った悪魔は、クサカの記憶を持つ

 クサカの記憶には無いデータ?

 クサカの記憶とは異なるデータ?

(どういう事だ?!)

 答えは出ない。

 だから、すぐに切り替えた。

 一撃で壊せなくても、数発、数十発で壊せる。その手応えはあった。

 赤い瞳と暗黒のオーラを放つ、この『戦闘モード』の制限時間に、

(余裕で殺せる!)

 確信した。

 いや、

❝楯無姉弟以外は活かしてやる。❞

 決めた。この後日の召喚で完全体となる。

(誰も見届ける者がいなくてはつまらないではないか。)

❝この戦闘で生き残った奴に、特等席で我が召喚を見せてやろう。❞

 全員殺さずとも良いのだが、この姉弟は不確定要素が強い。微かな憂いでも取り除いておこう。

 悪魔はそう決めた。

 本気の攻撃が来る!!

「待てぇーーーぃ!」

 見知らぬ声が響いた。

 悪魔のやや後方、高さで言うと10mの位置。

 人気ヒーローをアレンジしたような覆面タイツの男がポーズを取って立っている。

「ダ、ダメだ!!」

 楯無管理官が叫ぶが、

「悪党、私が相手だ!」

 飛び上がり、空中一回転して、悪魔の真横5mに着地、またもポーズを取った。

❝本体無き人形?……つまらんな。❞

 悪魔は大して興味を持たなかったが、

「貴方は誰?!」

 管理官たちより後ろ、メガネをかけた警察官の女性が尋ねた。

「名を名乗れ!」はもう言ってもらえないと、前回の戦闘で学習したようだ。

「私は正義の味方、

 『アイトマン』だ!!」

 一番の、渾身のポーズを決めた。

「何故、出撃させた?!」

 ヒーローに名を訊いた女性に怒鳴る、管理官。30半ばの女性『広尾ミサキ』、彼の母親が出撃させたのだ。

 2人の少年の担当『司令官』に任じられた広尾ミサキ。異能力は『テレパス』。遠くの人間とコンタクトできる力。

 宙に浮く人形『ファントム』を操る『塚井ソウタ』少年。彼は人形で会話でき、人形の感覚を共有できる。前回の戦闘後、それほど活躍はしなかったが、疲労もほとんどなく、精神も安定していた。

 一方の『広尾アイト』少年。操る人形と感覚を完全には共有できない。それを母ミサキがテレパスで補っている。ミサキの見たモノ、聞いたモノが、アイトの視覚、聴覚となる。

 つまりは、母親がいないと出撃できない。

 前回の初戦闘、圧倒的な力を見せたが、その後、アイト少年の容態は急変、一時は危篤状態に陥った。医師からは余命宣告を受けている難病の少年、ただでさえ安静が必要なのに、母親が、

 母親が独断で出撃させた。

「アイトマンっーー、パーンチ!!」

❝フン!❞

 戯言に付き合えるか、そういう態度で悪魔がかわす。

 右ストレートを避けようとして、フェイント、左フックを顔面に食らった。

 油断した?

 いや、問題はそこじゃない!

(何だ……と……?!)

 悪魔が吹っ飛ばされた。

 信じられない表情で起き上がる悪魔。

 ダメージを受けている?!

(何故だ?人形だから?そんな訳ない!人形だろうと人間の力だ……)

❝人間に悪魔は倒せない。なのに何故、貴様は攻撃できる?!❞

 答えが分からず、思わず口にする悪魔。

「決まってるだろ!」

 ヒーローが拳を握りしめ、

「悪を倒すのは、正義だからだ!!」

 悪魔に対して言い放つ!

「ダ、ダメだ!!……ダメだ、アーちゃん!!」

止めようとする楯無キドラを、

「やらせて下さい、管理官。」

 広尾ミサキが訴えた。

「あの子の夢は『ヒーロー』なんです。」

 両目から涙を溢れさせる母親ミサキ。

「アイトマンっーー……

 マッハクラッシュー!!」

 目に見えない速さのパンチを何発も叩き込む。同室の友人と考えた技だ。

 悪魔も応戦、速さに付いていっている。

(何だ?何なんだ、コイツは?!)

 マッハクラッシュを受ける手が痛い。

(私が『痛い』だと?!)

 一撃一撃が重く、ダメージを受ける。

 一方のアイトマンは、痛みを感じない。何故か喋ることはできるが、痛みも恐怖も、アイトマンの方には感じない。

❝小癪な!❞

 後方へ飛び退き、態勢を整える悪魔。

 もとより格闘を得意とはしない。

 右手を伸ばし、魔法光弾を放とうとした。

(!!)

 それを見たアイトマン、閃いた。

「アイトマン、ビーム!!」

 腰に両手を当てて胸を張るポーズ、

 胸に大きくSではなく頭文字の『A』のマークがある、そこから、

 悪魔の光弾を瞬時にかき消すほどの、

 光の光線が発射された!

❝ぐわーっ!❞

 悪魔を直撃!

 ……

 まだ倒せはしなかったが、

 かなりのダメージ、膝を付いている。

 そして、悪魔の戦闘モードが解けた。

 普通のクサカの姿に戻る。

 ……アイトマンは動かない。

 代わりに、

「我が武に利あり!」

 猛然と悪魔に接近する白装束の剣士!

 悪魔は後方上空に飛び上がるが、

 地を蹴り、湖西マシロが居合の構えのまま、悪魔の間合いに入る。

 マシロの髪が白髪に変わった。

「明鏡止水、白の一太刀!」

 悪魔を斬り払う!

❝ぐわー!❞

 ……

❝……何てな。❞

 瞬間移動で逃げられてしまった。

「ライチ!ヘリを出せ!」

 東郷ヒトミと共に後ろにいた扇ライチ、突然呼ばれて驚いていたが、すぐに空いているスペースへと駆け出し、

 異能力で地下倉庫のヘリを出現させた。

 UH60J。乗員は5人。直径20mのスペースがあれば置ける。発着はもちろん、もっと広いスペースが必要。

 操縦は扇ライチ、残る4人は楯無キドラ、楯無良器、多妻木アサヒ、広尾ミサキ。

 ヘリの飛行には許可が必要だが、もちろん許可などない。扇ライチの異能力に『無事故』も入っているので即座に飛ばした。

 移動先はもう決まっていた。

 悪魔がどこに瞬間移動したかは分からない。それは今は関係ない。

 数分で屋上ヘリポートに着いた。

 警察病院の屋上だ。

 廊下を走る。

 看護師と遭遇しなかった。しても管理官に注意できるかは分からないが、注意しに立ち塞がったら、ぶっ飛ばされていただろう。

 最奥の病室に着いた。

 呼吸器をしている広尾アイト少年の周囲に、医師と看護師が集まっていた。

 医師をゆっくりと退けて、多妻木アサヒを側に付かせる。

 ラ〜♪ファ〜♪……とは流石に歌わず、心の中で唱え、アサヒの治癒能力がアイト少年に向けられた。

 反対側には楯無キドラ。彼女も治癒能力『林』を使える。

 呼吸器を外した。

 看護師も下げて、母親を側に付かせる。

「……キーちゃん、僕、ビームが撃てたよ……」 

 苦しそうだが、嬉しそうに話すアイト。

「ああ、見てたよ、アーちゃん……

 凄かった!みんなが救われた!」

 手を握りしめ、管理官が、妻が笑顔を返す。

 握る手が、か細い。でもその小さな手の薬指には、結婚指輪がはめられている。それを包む手の薬指にも、同じデザインの指輪が光っていた。

 その間も、治癒能力で生命力を注ぎ込む。

「アーちゃん……司令官に……ママにお礼を言わないと、」

 右手側をしっかり握っているのは母親。涙をこらえ、笑顔を作ろうとしている。

 その隣で、多妻木アサヒが治癒、直接触れず、生命エネルギーを送り込む。

「……ママ……ずっと…ずっと……ありがと」 

「アイトは、ホントに正義のヒーローだったよ!」

 涙をこらえ切れない、溢れてしまう。

(ダ、ダメだ!……)

 言いたいが、言葉に出来ない。

 生命力を注ぎ込んでいるから、残りの生命力が見えてしまう。

 弱々しく、ニッコりとアイトが笑った。

 ……その笑顔のまま、

 アイトは息を引き取った。

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