第23話 2人の少年

 管理官に連絡をしたのは1人の医師だった。

 楯無管理官が自ら確認に来た。

 ここは、特別な警察病院。異能力者が多く通院し、入院している。

「異能力者の少年が2人いる。」

 9歳と7歳の少年。

 有力なのは、身寄りのない年上の少年の方。

 『塚井 蒼汰(ソウタ)』。

 人形を生きているかのように、自在に操るという『遠隔操作』の異能力者(トリッカー)。

 特筆すべきは、カメラの無い人形でも、見えない位置から操作できる。人形の視界を共有できるという力。

「偵察要員として使えると思います。」

 事前にチェックをしに来ていた部下から報告を受けた。

 ただし、天涯孤独、少し性格に問題ありだと知らされた。

(普通の子供だ。)

 管理官から見れば、至ってまとも、少し擦れているだけの普通の子供。

「おっぱい揉んでいい?」

 最初の対面で、人形を操りながら、人形で喋り、人形で触ろうとしてきた。

「好きなだけ揉め。」

 平然と返すと、全く遠慮せず、人形劇のパペットを遠隔操作し、まさぐるように胸を触った。

「おおっ?!柔らけぇ?!」

(これは問題だ!)

 楯無キドラが人形を叩いた。

「イテっ!」

 人形が痛がる。

 即座に近くのベッドにいた本体、塚井ソウタの側に行き、同じように頭を小突いた。

「な、何だよ?!好きなだけ揉めって言ったの、そっちだろ!」

 睨むソウタ。

「どっちが痛かった?人形叩かれたのと、自分の頭と?」

 真顔で尋ねる管理官。その顔にビビる少年。

「大事なことだ。正直に言いなさい。」

 少し沈黙があった後、

「同じくらい痛かった……」

 反省を含む言葉が返ってきた。

(これはダメだ……)

 少し失望してから、

 少年の手を直接握り、

「スマン、確認したかっただけだ。」

 優しい顔に戻り、

「ほれ、好きなだけ揉め。」

 少年の手を自分の側に直接当てた。

「おおっ?!柔らけぇ?!」

 仲直りは出来たが、

「人形で触った時と、どっちが柔らかい?」

「……うーん……両方同じくらいかな。」

(やはり、ダメだ……)

 心で再び拒絶した。

(偵察要員として使える少年?

 偵察人形が攻撃されたら、この少年がダメージを受けてしまうではないか!)

 採用計画の見直しを即決した。

 ……

 しかし、

 中止はしなかった。できなかった。

「補助金が必要です。」

 担当医師に言われていた。

 ソウタ少年は難病患者。歩行は何とか出来るが、常に点滴を付けたまま点滴と移動、外出もほとんど出来ない状態だった。

 治療費がかかる難病なのに、身寄りがいない。補助金を得るために、候補生から外せなかった。

 幸い、遠隔操作の異能力(トリック)を使う時の体への負担は少なかった。建前として必要な訓練ができた。

 そして何と、人形へ受けたダメージを自身へ食らわない術を、ソウタは訓練でモノにしてしまった。ダメージ直後(または直前)に、感覚を自身の本体に戻せば大丈夫、それを習得し、人形戦隊『ファントム』として、自身は病院のベッドにいるままで、行動可能になった。

 一度に1体しか動かせないが、管理官の実戦投入許可も下りた。

 もっと化けたのが、年下のもう1人の少年。

 『広尾 愛斗(ひろお あいと)』。

 体を少し動かすだけでも大変な、レアな難病を患う7歳。異能力を持っていた。

 『念動力』。精神力で物体を動かす異能力が、ほんの少し使える少年だった。

 医師の計らいでソウタ少年と同室、ワンセットにされ、補助金対象となった。

 彼の母親『広尾 ミサキ』が、非戦闘員として異能力者チームに所属したことも補助金が下りた1理由。『テレパス』、離れた人間に言葉を伝える異能力(トリック)。それが母ミサキにあった。

 広尾アイトは形だけの候補。誰も実戦参加できるとは思っていない。治療に莫大な費用がかかる難病患者、だから補助金枠にねじ込んだ。

 塚井ソウタが順調に育ってくれたことで、経理部もしぶしぶ了承した案件。

 大きく変わるきっかけは、ソウタのトイレ。

 朝のヒーロー番組を、並んだベッドで2人見ていたソウタとアイト。

 ソウタがトイレに立った。

 看護師はテレビの間は静かだからと、席を外している。もちろん、常に側にいる訳でもない。

 次の番組が始まる。チャンネルが違う。ソウタは戻って来ない。1人だとトイレに時間がかかる。

 リモコンを念動力で操作しようとするアイト。それすらも難しいほどに、アイトの念動力は弱かった。

 リモコンが床に落ちてしまった。

 チャンネルを変えられない。番組が始まってしまう……焦るアイト、

 テレビに直接念じると、

 何と、リモコン無しでチャンネル変更できた。

 そこから、アイトの異能力は開花した。

(できる!)

 思うことが何より大事だった。

 大きな「知らせ」として、管理官へ報告が来た出来事が起きた。

「アイト君が、玩具で鉄パイプを粉砕した。」

 金属も使われている、玩具の合体ロボット。30cm足らずのそのロボット人形を、ソウタほど巧みではないが、アイトは動かせるようになっていた。

 空も飛べる合体ロボット。宙に浮かせることも可能。そして、

 ロボットのパンチを空いているベッドに炸裂させると、

 ?!

 太い鉄パイプがグシャリと潰れた。ベッドに1トンの鉄球が落ちたような光景、たった一撃のロボットパンチでベッドを大破した。

 後日の測定で、ロボット玩具より遥かに硬い鉄塊を、ロボットで粉々にして見せたアイト。

 彼の異能力(トリック)は念動力ではなく、

 『具現化』。強い思いを現実化する凄い力だった。

 その後、楯無管理官が怒る。

 管理官を通さず、関係者がアイトと勝手に採用契約を結んだ。

 白紙撤回しようとしたが、

 アイト本人がヒーローになることを望んでいた。

 ……すでに、余命宣告は知らされていた。楯無キドラは撤回をやめた。出来なかった。

「何かしたいこと、他にある?」

「……うーん、」

 少し考え、

「……管理官と結婚したい!」

 真顔で告白を受けた。

「君は未成年だ。」

 真剣に返事をする楯無キドラ。

「……だから、

 結婚には君のお母さんの許可がいるんだ。」

 傍らの広尾ミサキを見た管理官。

 母親は頷いた。

(この人は本気だ。)

 だから、本気で頷いた。

 ……そして、結婚が決まった。婚約指輪が贈られた。


「何て呼び合おうか?」

「うーん……キーちゃん!」

「じゃあ私は……アーちゃんって呼ぶね。」

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