第25話 カウントダウン

 696(ムクロ)団の本部を壊滅させた数日後、

『あと100です。』

 楯無管理官の元へ、クサカからのメッセージが届いた。

 たった一行。

 しかし、焦りを覚える楯無キドラ。

「モトカ!過去の報告書を遡れ!

 累計が『566』になるモノを探せ!」

 秘書官に叫ぶような指示を出した。

「は、はい!」

 慌てて過去の資料に目を通す、秘書官『須山モトカ』。

 パラパラとページをめくって、次の資料へと移る。速読よりも速い。

 『完全記憶能力』で、全て記憶しているのだ。

 最新から過去へと遡る。記憶しつつ、記憶済の中の様々な数値を足して行く、彼女以外には不可能な作業。

「……いや、いい!」

 楯無管理官が止めた。

「スマン……別のコトを頼む。」

 指示の変更。

 何も聞かず、手を、思考を止めたモトカ。

 管理官の顔は険しいままだ。

(クサカがわざわざ知らせてきたのだ!)

 もう、

 何のカウントダウンか分かった所で手遅れだ。

 そう判断した。

 ……そして、

 改めて、2つの指示を秘書官に出した。

 ……その後、

 衆議院が解散し、

 国立競技場が、改修工事に入った。


 衆議院選挙の立候補者の演説、

 国立競技場の急ピッチ工事、

 その間、表立っては何も起きていない。

 警察庁特命係の出動も、クサカがらみの事件は無かった。

 そして日曜日、衆議院選挙の日、

 ……事件は起こった。


 選挙速報、議員の当確中継の最中、

 千代田△区で当選した議員が殺された。

 特命係、楯無キドラのチームに出動要請、普通の殺人事件ではない。

 出動招集でチームが集まる中、第2の殺人、

 今度は渋谷◯区で当確の議員が殺られた。

(早すぎる!間に合わない?!)

 唇を噛む、楯無キドラ。

 続いて世田谷□区、さらに4件目は豊島▲区、

(スマン……みんな……スマン……黄川田……)

「名前を呼ばれた者は、警察庁の正面入口で戦闘待機!」

 管理官が指示を変えた。

 現場へは向かわない?

 その間に、新宿▽区で5件目が起きた。

 突然現れた謎の男に、心臓をえぐり出されて議員のみが殺され、謎の男は姿を消す、全ヶ所同じ手口だった。

 チームが正面入口に集結して間もなく、

 謎の男が現れた。

 黒の司祭服、舞踏会の仮面、20代、身長は170前後と高くない。格好が趣味とすれば、あとは普通、普通の若者だ。

 明らかに普通で無い点は、ジャグリングをしている。

 4つの塊を御手玉のようにジャグリングしている、それが議員たちの抜かれた心臓だった。

「やあ、ご無沙汰です、楯無管理官。」

 目が隠れる仮面のまま、クサカが笑った。

「いや、直接会うのは初めてですね、

 もう一度『始めまして』と言うべきかな?」

 普通ではない異常を感じる、普通の若者に、

 カラスが飛んで来て、クサカの右肩に止まった。

(遅かったか……)

 悔しがり、しかし、戦闘態勢に移ろうとした時だった。

 クサカが光った。

「バカ!ヤメロ!」

 管理官の叫びも虚しく、

❝始めまして、楯無管理官。❞

 クサカの口から、三度の『始めまして』が聞こえてきた。

 銀行強盗犯の病室で『始めまして』、強盗犯の体を借りての会話。これは銀行でも会話をしていたと否定された。

 今、正面入口で『始めまして』、これは直接会話したのが初めてだという挨拶。

 では、三度目の『始めまして』は?

❝貴方が戦闘に移ろうと急ぐから、クサカ君が私に体を預けてしまいました。❞

 さっきまで右肩のカラスだった何者かの意識、本当に『始めまして』だ。

❝読み合いの答え合わせ、やりたかったみたいですよ、クサカ君は。❞

 クサカの顔で、謎の相手が笑った。

「もう手遅れだよ、クサカ。

 ……だが、こちらも色々聞きたいんでな、

 質問をさせてもらおうか。」

 いつもの強気に比べると弱い。カウントダウン……『あと100』はもう終わっている。そう気づいたのだ。

 その管理官に、

❝ではまず、こちらの質問、『私』は誰でしょう?❞

 体はクサカの何者かが訊いてきた。

「『悪魔』だろ、貴様は。」

 睨みつける管理官、それもいつもより弱い。

❝ピンポーン!……いつ気づきました?❞

「696(ムクロ)団のクサカと名乗った時だ!いつかこうなると予測していた!」

❝おやおや、そんなに前からですか?❞

 パチパチと拍手するクサカの姿の悪魔。

 本当に悪魔召喚が成功してしまったのかと、異能力チームの全員が驚いている。

「696の『9』を逆さにすれば『666』

 9を逆さで『ク・サカ』だ。」

❝素晴らしい!!❞

 悪魔の拍手が強くなる。

❝ですが、❞

 拍手が止まった。

❝あれは安直でしたねえ……5人の議員の『名前』です。❞

 心臓を抜かれて殺された5人の議員。

 千代田区 青島 龍介

 渋谷区  朱山 燕雀

 世田谷区 白石 虎蔵

 豊島区  玄田 武夫

 新宿区  黄川田 麟太郎

 新宿を中央として、

 東に『青(島)龍(介)』

 南に『朱(山)(燕)雀』

 西に『白(石)虎(蔵)』

 北に『玄(田)武(夫)』

 その中央に『黄(川田)麟(太郎)』

❝四聖獣、いや、麒麟(黄麟)を含めた五聖獣を呼び出す言霊、見え見えでした。❞

 分かりやすいほど、あるいは繰り返すほど言霊は強くなる。

 ただ、悪魔に見つかる言霊(トリック)ではない。見抜いたのはクサカだ。精神が入れ替わった今も、クサカの知識と思考を共有してるのだ。

❝改修された国立競技場で聖獣召喚を行うつもりだったのでしょう?❞

 国立競技場は新宿区にある。

❝ああ、とぼけてもムダですよ。❞

 悪魔が司祭服の胸元を開いた。

 ?!

 心臓が埋め込まれている。

❝召喚に立ち会うはずだった中心人物、黄川田麟太郎の心臓です。❞

 その心臓から黄川田の心を読んだという。

❝四方の聖獣を召喚し、その力を中央の麒麟に集める召喚、私が代わりに行い、『麒麟』の力を戴きます。❞

 そのために、心臓を奪ったのだ。

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