第21話 正義の味方

 千葉県知事邸に、ゆっくりと迫るミノタウロスのような怪物。両手に長く鋭い爪、銃弾を弾く皮膚、2mを超す巨体。

「ファントム1号、出動!」

 SITの後ろから、何か飛び出して来た。

 戦隊ヒーローのような、ゴーグルに覆面のマスクマン……の顔を持つ何か?

 体はない?

 強いていうなら、クラゲのようなヒラヒラの体?

「何だ?ドローンか?」

 確かに、巨大ドローンか、巨大テルテル坊主かにも見える。空中をフワりと浮いて、魔獣へと近づいていく。

「失礼な、俺は『ファントム1号』戦隊ヒーローだ!」

 覆面マスクの口が開いて喋った。腹話術人形のようでもあり、人間のようでもある。

「ファントム1号、例の作戦でいくわよ!」

 後ろのSITの列の先頭に、いつの間にか女性が立っていた。

 30代半ばのメガネの女性、警察の制服を着て、近距離だがインカムで指示を出している。

「OK、司令官!」

 ファントム1号が答えた。

 司令官と呼ばれた女性、楯無管理官のチームのメンバー、チーム最高齢、1児の母だ。

「ザコは引っ込んでろ!」

 ミノタウロスもどき、かなり不機嫌だ。戦闘に自信あり、相応の相手を期待していた。

「俺の必殺技を食らっても、同じコトが言えるか?!」

 突っ込んでいくテルテル1号、おっと、ファントム1号。この謎の味方が、変身の異能力者(トリッカー)かどうか、この後すぐに分かる。

「今よ!」

 メガネの女性司令官の合図で、


 チュドーン!!


 ファントム1号は自爆した?!

 ……煙に包まれた。

「……どう?倒せた?」

 誰にでもなく、司令官が尋ねる。

 すぐに煙が晴れ、

「ザコは引っ込んでろ!

 フン!同じコトが言えたぞ!

 さあ、真打ちを出せ!」

 ほぼ無傷の魔獣が立っていた。

「くそー!ファントム1号の仇!」

 またSITの後ろから、ほぼ同じ物体が現れた。額に『2』と書いてある。

「ダメよ、2号!貴方では無理よ!」

 止める司令官。

 そもそも、いきなり自爆したのに「仇」と言うのもどうかと思うが、

 この後、さらにおかしくなっていく。

「ああ……ファントムは5号までしかいない…

 このままではアイツを倒せない……」

 司令官が落胆し、両膝を付いた。

「誰か……誰か、助けてーーっ!!」

 大声で叫ぶ女司令官。棒読みではないが、相当に白々しい。

(何だ、この茶番は?)

 ミノタウロスもどき、この間にじっとしていたのは、悪の鑑である。

「待てぇーーーぃ!」

 見知らぬ声が響いた。

 キョロキョロと見回してから、

「あそこよ!」

 近くの3階建ての屋根の上に、

 ラ◯ダーとウル◯ラマンを足したような覆面タイツの男がポーズを取って立っていた。

(今度のは胴体がある……良かった……)などとは思わない魔獣。

 怒り心頭、我慢の限界だ。

 下にいるSITの列へ突撃しようとしたのを、

「悪党、私が相手だ!」

 飛び上がり、空中一回転して、SITと司令官の前に着地。またもポーズを取った。

 その身のこなしだけは素早いと認識、

「少しはやるのか?貴様は?」

 相手をする気になった魔獣だが、

(ダメ!……ダメ!ダメ!)

 着地ポーズのまま動かないマスクマンの後ろで、両手で『Xバツ』の字を作って首を降る司令官。魔獣にダメ出しをしてる。

「名を名乗れ!名を名乗れ!よ!」

 敵に台詞を指示する司令官。

「ふざけるなアァーーー!!」

 ミノタウロスもどきの怒り!

「貴様、何者だ?!」

 代わりに、空中に浮いているファントム2号が尋ねると、

「私は正義の味方、

 『アイトマン』だ!!」

 今日一番の、渾身のポーズを決めた。

 構わず突進する魔獣、

「アイトマンっーー、パーンチ!!」

 ?!

 自分よりデカい魔獣を、右ストレート一発で10 数m弾き飛ばした。

(何だ……と……?!)

 驚く魔獣。

 起き上がったが、もう目の前にアイトマンが来ていた。

「アイトマンっーー……」

 目に見えない速さのパンチを何発もボディに叩き込まれ、またも倒れる魔獣。

「……えーと……連打!」

 技名を思いつくより速く、技が入ってしまった。

「イマイチだな、そのネーミング。」

「えーと……じゃあどうしよう?」

 浮かんでいるファントムと会話するアイトマン。

「アイトマン、ガトリング!」

「ガトリン?」

「……じゃあ、アイトマン、マッハクラッシュ!」

「おおっ!いいね、アイトマンマッハクラッシュ!」

 よろめきつつ立ち上がり、長爪で攻撃してきた魔獣だが、

 簡単にかわされ、

「アイトマン、スマーッシュ!!」

 脳天へ一撃を食らい、地面に倒れ、人間の姿に戻ってしまった。

「フィニッシュ!!」

 右手を上げて、勝利の決めポーズ。

「きゃ~♡アイトマン、カッコいい!!」

 司令官の黄色い声援が飛んだ。

 初めて見る仲間を、呆れつつ、そして強さに驚きつつ、立ち尽くすSIT。

 何だ、コイツらは?

 しかし……強かった。

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