第11話 華麗なる剣士

 千代田区霞が関、有名な警視庁……の隣にある警察庁……その一階ロビー。

 女性警官たちがざわついている。手が空いている者たちが見に来ている。

 美形の剣士が座っている。

 姿勢が美しい。

 全てが白の和装。若い侍のよう。

 侍…剣士…そう、帯刀して警察庁のロビーにいる。許可がある。警察官だ。

 顔立ちも美しい。年齢は21。黒髪をポニーテールにして束ねている。

 そう、女性剣士だ。

 5m以内には誰も近づかない。声もかけない。この美しい世界観を崩さない暗黙のルールがあるかのよう。

 が、その5m先から、スマホで撮影しようとした女性警官がいた。

 シャッターを押そうとして、

 横から出た左手に、スマホを鷲掴みにされた。

 綺麗な指、女性の手だ。薬指に指輪が光っている……が、

 その美しい手の主の、心まで美しいとは限らない。

「警察官を撮影してどうする気だ?」

 声の主の顔を見て、硬直する女性警官。隣の友人まで硬直している。

「げっ?!態度L?!!」

 彼女たちの後ろで、思わず声に出してしまった警官がいた。

 こちらも女性2人組だったが、

 楯無管理官が声に振り向くや、

(私は言ってません!!)

 今後の友情がどうなろうと、隣の警官は素早く一歩、失言の友人から離れた。

 その大失言の女性警官当人は、蛇に睨まれた蛙、メドゥーサに睨まれた蛙のように、固まっていた。

「態度4Lだ。」

 メドゥーサが一言。

「態度『4L』と言い直したら、赦してやる。」

「た、た、態度4L様!!」

 勇気を振り絞って言葉にした蛙。

「行ってよし。」

「はっ!!」

 敬礼をして脱兎のごとく去っていった。

 そしてもう1人、

 警察官が顔バレして良いことなど1つもないと小言を受け、

「今回は見逃してやる。」

 すでに彼女の握力で、スマホもROMも粉々になっていたが、

(命があって良かったね……)

 友人と安堵しながら去って行った。

 自分の鑑賞用に撮影したとしても、知人に見せる→送ってとせがまれる→……簡単に広まってしまう危険はあるのだ。

「マシロ。」

「はい!管理官!」

 若い女剣士が立ち上がった。彼女もやはり、楯無管理官の部下だった。

『湖西(こにし) マシロ』

 腰の刀は本物、そして、チームのエースの1人。

「騒ぎになってしまった。帰ろう。」

「よろしいのですか?」

「奴らが現れるかとも思ったのだがな。」

❝セコい手など使わず、警察庁に直接乗り込んで来い!❞

 立体駐車場での戦闘の最後、そう伝えた。もちろん素直に従うとは思っていない。

 しかし、遊び心はある奴と見た。もしやと思って部下を待機させていたが、

「お前が見世物になっているだけのようだ。」

「私は構いませんが。」

 真面目でストイックな剣士のようだ。

 噂をすれば、何とやら、

 敵は現れた。

 2mの大男。四角い箱を背負っている。

 ラガーマンのように猛然と警察庁へ突っ込んで来て、

 建物の周囲に張られた見えない壁、結界に弾かれた。

 見た目からして人間じゃない。実際は異能力で変身した人間なのだが、動く岩石、岩石人間が単独で現れた。

 警備で配置されていた警察官が発砲した。許可は出ている。

 その近距離からの銃弾を弾く岩石人間。

「下がって!一般の方々の避難を!」

 建物内から走って出て来た女剣士が、警備の警察官に指示を出す。

 自分は岩石人間へと一直線、向こうも女剣士を認識して突っ込んで来る。

「ば、爆弾を背負ってます!」

 魔物の背中を確認できた警官が、背負った箱にカウントダウンのタイマーがあると気付いた。

 女剣士が戦闘モードに入った。

 湖西マシロ、異能力は『斬撃剣』!。

 銃弾を軽々弾いた岩石男を、袈裟斬りに両断した。

「我が武に利あり!」

 決めゼリフを吐く女剣士マシロ。

 背中の箱を固定していた紐を何なく斬ると、

(あと12秒?!)

 箱のタイマーは”0012“となっていた。

「管理官!」

 後方へパス。雪上を走るソリのように、みかん箱ほどの爆弾が綺麗に滑っていく。

 外に出て来た管理官へ、パスが通った。 

 片足で踏みつけるようなトラップ。

 タイマーのカウントは“0010”→“0009”

「フン。」

 片足で踏みつけたまま、楯無管理官は何もしない。波止場で格好つけている船乗りのように片足上げたポーズを続ける。

 ”0007“→”0006“→”0096“??

 ”0096“→”0696“?!

 直後、爆弾は爆発した。

 ……

 煙も出ない。爆発音も低め。

 だが、ここに楯無キドラがいなかったら、警察庁の前で多数の死傷者が出ていただろう。

 箱の周囲に結界を張った。彼女の異能力『風林火山』の『山』で、箱とほぼ同じサイズで爆弾を囲った。

「0696で爆発?……ふざけた奴だ。」

 696団からのメッセージだ。


 湖西マシロという戦力を知られた。

 だが、まだ楯無チームが圧倒している……?

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