第6話 危機管理

「クソ……あの態度4L女め!」

 警察庁長官の怒りは収まらない。たった今退室していった管理官を罵倒している。

「今回はお咎め無しだ。ただし、やり過ぎないように。」

 長官室への呼び出し、組織に属する者なら、それだけで効果あるものなのだが、

「なら、わざわざ呼び出すな。」

 と一言返し、とっとと出て行ってしまった。

 警察庁長官に警視総監、官房長官、与党の有力議員と錚々たる顔ぶれが揃っていたのだが、

 楯無キドラ管理官には効果無かった。

「ふざけた小娘だ!」

 自分たちの半分程度、半分以下しか生きてない若造の無礼。腹わたが煮えくり返る。

「キドラ……喜怒哀楽の『哀』が欠けた女?

 怒りを喜び、楽しんでいる危険人物では無いのかね?」

 彼女を危険視する声は、もちろん少なくない。

「毒をもって毒を制する……というヤツですよ。」

 異能力に対抗できるのは異能力だけ。それが事実だから、彼女の存在を認めざるを得ない。

「あの態度4L……態度のデカさも、彼女を形成する必須事項だと言う話です。」

 与党の有力議員『黄川田 麟太郎(きかわだ りんたろう)』、彼は楯無管理官の肯定派、そして

「本当に、その……『悪魔降臨』なることが現実に起こり得るのですか?」

 官房長官に尋ねられた黄川田議員は、悪魔降臨に詳しく、異能力の歴史にも精通している識者でもある。

「大災害に備えるのと同じことです。」

 万が一の為に、対策が必要なのだと諭す。

「現に、異能力犯罪は急増しています。」

 そう、そして、楯無管理官チームにしか対応できないという結論に至った。

「態度、口癖、名前、呼び名……あらゆる行動が『言霊(ことだま)』として生きてくるそうです。」

 トレーニングと似ている。日々の行動に取り込むことで、少しずつ、確実に異能力が育つのだという、ここでの『言霊』はそれを意味している。

 だから、彼女たち、楯無キドラのチームは強い。

「しかし……悪魔ですか? ピンと来ませんな?黄川田先生。」

 この黄川田議員も、このメンツから見れば10歳も20歳も若い。しかし、有力議員ならば平気でへりくだれる、そういう人種の集まりだ。

「大怪獣だとでも、イメージして下さい。」

 そう説明したこの議員も、悪魔など見たこともない。

 しかし、あると思っている。警戒をしている。

 いくつもの警告が、予言として存在しているのだ。


 一方の楯無キドラ管理官。

 長官室を出た足で、そのまま地下へと向かった。エレベーターで秘書官と合流。

「面倒な連中だ。」

 秘書官にボヤく。

「あちらもそう思っていますよ、きっと」

 この秘書官。25歳。才女、ちょっとオタクの雰囲気のあるメガネ女史。

「もっと面倒な連中を相手にするのが仕事だ。あの程度の老害、軽くあしらわなくてはだな。」

「はい。」

 秘書官の名は『須山 モトカ』。楯無良器(リョウきゅん)以外で、この態度4L女にズバズバ言える、数少ない存在の1人だ。

「……お前みたく、異能力を無害なことに使う連中ばかりなら、私など必要なくなるのだがな。」

「最近の作品が全然読めてません。休暇を下さい。」

「古い漫画を読み返していろ。」

 須山モトカの異能力は、『完全記憶能力』。見たモノを全て記憶してしまう能力。

 彼女は高校卒業までに、古本屋で何十万という漫画を立ち読みした。それらを全て覚えている。脳内に漫画を数十万冊持っている。オタク気質全開のメガネ才女だ。

「3次元の男性には興味ありません。」この一言で管理官に即決採用され、今も楯無家に同居している。弟(リョウきゅん♡)の側に置いても安全と見られている1人だ。

 エレベーターが地下に着いた。

 警察庁の人間でも、極一部しか知らない地下の地下に着いた。

 ここから目的地へ専用車で移動する。楯無管理官の行動には制限がある。普通の外出は難しい。

 異能力犯罪対策の要、楯無キドラは国家に欠かせない。厳重に護られてもいるのだ。

「ただの監視だ、こんなもの。」

 態度4L管理官なら、そう言い返すだろうが。

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