第52話 ここ、急所なんで

 それから中ボスの居場所に到達するまでには、2回モンスターとの遭遇があった。

 最初の一回では闇宮先生が鎧通しの一種である「穿弾」を披露し、次にタマがそれをコピーした。

「鞭打」については元から動画越しに習得していたので、これでタマは鎧通しを四種類全てマスターした形になる。


 中ボスがいる部屋の前には重厚な扉があり、闇宮先生曰くそれは「頑張って押し開けないと先に進めない『力試しの扉』だ」とのことだったが……説明したそばから闇宮先生は重力操作を用い、指一本触れすらせず扉を開けてしまった。


「着きましたね」


「そ、そうですね……」


 扉を開けた向こう側には、翼の生えた鬼(?)とでも形容すべきような見た目の長身のモンスターと、その両脇に赤と青の炎の妖精のようなモンスターの計3体がいた。


「ボスなのに複数体いるんですね……」


「複数体というか……これは『取り巻きを先に倒さないと本体にダメージが通らないタイプのボス』ですね。赤、青、本体の順で叩かないと攻撃を無効化されてしまうんですが、それを知らずに戦うと無駄に時間と労力をかける羽目になってしまいます」


 俺がポロッと口にした感想に、闇宮先生は補足を入れてくれた。


「じゃあせっかくですし、これ相手に別の技法を実演しますね」


 闇宮先生はそう続け、軽く腕まくりをする。


「この中ボス、なかなかに厄介なんですよね。取り巻きを倒してから5秒以内に本体の体力を削り切らないと、取り巻きが復活してしまいますし。その際ボスは全回復するので、そうなったら1からやり直しです。そんなのもう、やってられないですから……サクッと倒しちゃいましょう。ここ、急所なんで」


 からの、闇宮先生はそう言うと……打震と思われる一点収束する歪みの靄をボス本体めがけて飛ばした。


 ――赤い取り巻きに向かってではない。本体に向かってだ。


「えっ、それじゃダメージが……」


 と言いかけた俺だったが、その言葉は途中で止めざるを得なかった。

 というのも――ボス本体には大穴が空いたかと思うと、そのままドロップ品のカプセルへと姿を変えてしまったのだ。


「え……?」


 いや、話違うだろ。

「取り巻きを倒さないと本体にダメージが入らない」とは一体何だったのか。


「取り巻きすっ飛ばして本体に効く急所とかあったんですね……でしたら先に言ってくださいよ」


 思わず俺はそう口にしたが、それに対し闇宮先生は意味ありげに首を横に振った。


「いえ、そんな急所は無いですよ」


「……はい?」


 いや、今思いっきり「ここ、急所なんで」って言ってたじゃんか。


「え、じゃあさっきのは……?」


「ウチの奥義の一つです。喉に合氣を込めて『ここ、急所なんで』と言えば、攻撃した箇所が急所になるんですよね」


「な、るほど……?」


 うん、分からん。

 急所に"なる"だなんて概念、聞いたことも無いんだが。


 というか合氣って喉に込めるもんだったっけ。


 俺の頭の中では疑問が渦巻きまくった。

 その一方で……どうやらタマはそうではないみたいだった。


「にゃ(タマもやってみるにゃ)」


 何やらやる気になった様子のタマ。

 それはいいのだが……中ボスは今しがた倒されたので、試す相手がいなくなってしまったのではなかろうか。


 と思った俺だったが、心配はご無用なようだった。


「にゃにゃ、にゃにゃにゃんにゃ(ここ、ツボにゃんで)」


 そう鳴いたかと思うと……5秒くらいして、中ボスが復活してしまったのだ。


 しかも、最初に遭遇したのとは何やら様子が違う。

 その中ボスは全身から黒紫の稲妻を迸らせていて、取り巻きの炎の色も金と銀になっていた。


「えっと……?」


 何が起きているのか、全く頭がついて来ない俺。


「えっ……うっっそでしょ……」


 そんな俺とは対照的に、闇宮先生は何やら慄いている様子だった。

 えーと、どっちか解説を頼む。


「あの、タマちゃん……今、ダンジョンに急所を作る要領でツボを作って、そこから刺激を入れましたね……?」


「にゃあ(そうにゃ)」


「しかも、その作り物のツボ越しにダンジョンの経絡を乱したことで、リスポーンを司る機構を過剰に活性化させ、上位種のモンスターを呼び出した……?」


「にゃ〜ん! (まさにそれにゃ!)」


「い、いやぁ……応用力化け物じゃないですか!」


 やり取りを聞く中で、ようやく俺にもタマのしたことがどれくらいエグいことなのか理解できてきた。


 うん、本来無いはずの急所を作るのも相当意味不明だが、ダンジョン相手だと尚更意味不明が過ぎるな。

 急所どころか神経すら無いだろうに。

 模倣能力もさることながら、「思と念による技の抽象化」をいささか極めすぎではないだろうか。


 :【赤】ダンジョンのwwwwwwツボwwwwww ¥10,000

 :【橙】流石に草 ¥7,800

 :【赤】東洋医学はジーザス過ぎるぜ! $140 (訳:タマ)

 :↑こ れ を 東 洋 医 学 で く く る な

 :【赤】ついて行けねえ笑笑 ¥12,000


「にゃあ(ここからが本番にゃ)」


「いや、どう考えてもここからは消化試合ですよ⁉︎」


「にゃにゃ、にゃあにゃにゃんにゃ(ここ、急所にゃんで)」


 コメント欄が絶句の嵐の中、タマはそんなことお構いもなしに本家と同じ「ここ、急所なんで」を発動し、自分で発生させた中ボスを自分で倒した。

 本当はこここそ驚くべきところのはずなのに……事前準備の方がえげつなさ過ぎて、なんかもう心が麻痺しちゃってるな。

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