第36話 発明品紹介! 「ニャの秘宝」

 翌々日の昼下がり。

 俺は水原さんと一緒に動画を撮影するため、撮影開始場所に移動していた。


 やってきたのは、前回一緒に攻略したのとはまた別の、静岡県内にある危険度Cダンジョン――の、側にある公園。

 今回の撮影の趣旨はナミさんに頼まれてた若返り薬の紹介なのだが、この人選と撮影場所には、ちゃんとそれぞれ理由が存在する。


 まず撮影場所に関しては、今回紹介するタマの発明品の一部・・がここくらいしか撮影に適さないからだ。

 今回「タマが発明した」として紹介するのは、実は若返り薬だけではない。

 それだけ紹介すると「ナミさんにとって都合が良すぎる」と邪推されかねないということで、今回タマは他に三つ無関係の発明をして、若返り薬を「その中の一つに過ぎない」という立ち位置にすることにしたのだ。


 うち二つはダンジョン内で有用な品なのだが、残りの一つはそうでもないため、「ダンジョン内で有用ではない品を紹介後速やかにダンジョンに移動できる場所」ということで、この場所が選定されたのである。


 そして撮影相手に水原さんを選んだのは、「ナミさんの事務所と無関係で、かつそこそこ戦闘力のある人材」だからだ。

 ネルさんとコラボすることも考えたが、ネルさんはナミさんの先輩なので、ちょっと「内輪で口裏を合わせた感」が強くなってしまうからな。

 かと言って、俺が単独で紹介するとなると、今度は誰が薬を飲むのかという問題が発生してしまう。

 どちらの問題も回避できるちょうどいい人の伝手が水原さんしかいなかったため、企業案件でもない中申し訳ないが、無理を言って協力してもらうこととなったのだ。


 ちなみに昨日その相談をした結果、「若返り薬以外の三つの発明品を、にゃ〜る購入者に抽選で当たる当選品とする」という話になったため、結果論としてこの動画も企業案件となることになったが。


 水原さん到着後、諸々のセッティングを済ますと、早速俺は生配信を開始した。


「どうもー、『育ちすぎたタマ』チャンネルへようこそ。こちらのかわいいもふもふがタマで、私が飼い主の哲也です。今回はタマがつい先程いろいろ発明したので……緊急で動画を回しています」


 ちょっとソワソワしている感じの声色を演出しつつ、俺は冒頭の挨拶をした。


「発明品はダンジョンに関係あるもの、無いもの両方ありますので、ダンジョン付近の公園で撮影を開始させていただいてます。また、一部の発明品を試していただくために、本動画では水原さんにご協力いただいております。水原さん、どうぞ!」


「は〜い、ご紹介に預かりました水原です。皆さんお久しぶりですね。本日も試供品を使わせていただく時以外は副音声の同時通訳を務めさせていただきます、よろしくお願いします」


 :ダンジョン破壊とか色々おめ!

 :また水原さんキタ━(゚∀゚)━!

 :は、発明品……?

 :怖い怖い怖いw

 :こりゃまた世界を揺るがすことになりそうだな!(訳:タマ)


 予告すらしていない配信にもかかわらず、視聴者は続々と集まり……コメントもいつもの速度で流れ始めた。

 それじゃ、一つ目の品の紹介に入るか。


「まず最初は、『招霊の石』です。こちらは死者の魂を呼び覚まし、一時的に霊体として現世に降臨させることができます」


 そう言って俺は、見た目は何の変哲もない石ころを見せつつ、最初の発明品を紹介した。

 今説明した効果については、事前にタマから聞いた通りだ。

 これから配信上で誰かの霊を呼び、デモンストレーションを行うのだが……問題は誰を呼ぶかだな。


 俺としては今は亡き両親とか呼んでみたいところだが、それだと視聴者的に「誰?」となってしまうだろうし。

 何よりそういう私的利用は動画外でいくらでもできる。

 今回は、誰もが知っている有名人とかを招霊した方が良いだろう。


 視聴者層的にはそうだな……あっ。

 今は「フランシス」のファンもたくさん見てるだろうし、あの人にするか。


「では今回は試しにサッチさんを降臨させて、ちょっとベースを弾いてもらいましょうか」


 今回の招霊対象に決めたのは、「フランシス」の元メンバーで少し前にお亡くなりになってしまったベース担当者だ。


 石を握り込み、霊よ降りてこいと念じると、目の前に青白い半透明のイケオジがベースを持った状態で出現した。

 半透明のイケオジはベースを構えると……有名な曲である「信念を貫け!」のベースラインを演奏し始めた。


 アンプも無いのになんでちゃんと音が鳴るのか……というツッコミはさておき、コメント欄はというと。


 :しょ、招霊の石⁉(訳:タマ)

 :サ……サッチじゃないか!(訳:タマ)

 :感動だ! まさかまたこの神の演奏を聞けるとは!(訳:タマ)

 :ブラボー! 哲也さん、最高の霊の人選だよ!(訳:タマ)

 :タマちゃん、素晴らしいアイテムを作ってくれてありがとう!(訳:タマ)


 案の定、海外勢のコメントが殺到していた。


 一曲分の演奏が終わると、俺はこの石についてこう説明を補足した。


「残念ながら、たとえ凄腕の探索者を降霊させたとしても戦闘をさせることはできませんが……会話したり、ある程度パフォーマンスをさせたりすることは可能です。それだけでもかなり夢はありますけどね」


 まあ、これは本題の品ではないので、この辺で説明をおしまいにしてと。

 次こそがメインディッシュの紹介だ。


「それでは二個目の発明品に参ります。それは……若返りの薬です。こちらは『飲んだ者の強さに比例した年数分、外見年齢を若返らせる』ことができる効果があります。持続時間は飲んだ量に比例しますね。俺やタマが飲むとどうなるか分かったもんじゃないので、今回は水原さんにこの薬を試していただきます」


 俺は瓶に入れた赤紫色の薬を取り出して見せつつ、薬効を説明した。


「それは素晴らしいお薬ですね! どうなるか楽しみです!」


 ワクワクしてる感を出してくれる水原さん。


 :若返りの薬……だと?

 :ただでさえかわいい水原さんの、更に若い頃が⁉︎

 :wktk

 :これもタマちゃんGJ


 今度は日本勢のコメントが加速した。


「じゃ、行きます!」


 満を持して、薬を飲み干す水原さん。

 すると……水原さんの見た目が少し幼く、あどけない感じになった。


「もう効果でてますか?」


「はい」


「ちょっと鏡で見てみます! わあ……まるで新入社員の頃みたいです……!」


 感無量なご様子の水原さん。

 若返り量はだいたいナミさんの半分くらいか……Cランクだとそんな感じになるんだな。


 :おおお!

 :いつにも増してかわいい!

 :これは神すぎる

 :これ欲しい……でも効果は強さに比例なのよね

 :今から探索者目指そうかな!


 コメントの反応は上々で、中には薬効目当てで探索者を志望する人まで出てきだす始末だった。

 確かにこの薬は一般販売予定だが……まだその告知もしていないのに、「こういう薬がある」ってだけで探索者になるモチベーションに繋がるとは相当だな。


「わあ……これは一生使い続けたいレベルです! でも、こんな薬効ならさぞかし材料も貴重でしょうに、私に試供していただいて良かったんですか?」


「大丈夫ですよ。そもそも材料は全然貴重じゃないですし。水道水に向かってタマが『ニャ』ってやれば完成します」


「『ニャ』ってやれば……ですか⁉」


 製法までは伝えていなかったので、今それを聞いた水原さんは驚きのあまり固まってしまった。


「ち、ちなみにじゃあ招霊の石は……?」


「そちらもそこらへんの石に『ニャ』ってやっただけですね」


「……」


 :「ニャ」ってやるwww

 :説明皆無に等しくて草

 :世の魔道具師と錬金術師が泣いてますよ……

 :じゃあこれ気軽に量産可能なんか……

 :流石にデタラメすぎて草


 さてと、これの紹介にあまり長時間かけるのも良くないな。

 若返り薬が本命っぽく見えたらアウトなわけで。


 ということで、そろそろ三つ目の発明品紹介に入るか。


「水原さん、感動中のところすみませんが、次の紹介に入りたいのでダンジョンに向かいましょう」


「あ……はい! 失礼しました」


 公園を出てゲートを通り、危険度Cダンジョンに足を踏み入れる。

 そして最初のモンスターが出てくるところまで歩くと、俺は3つ目の発明品を懐から取り出した。

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