第26話 いざ、案件の生配信!

 危険度Cダンジョンにて。

 ゲートに探索者証をかざして中に入ると、早速俺は浮遊カメラのスイッチをオンにし、それからゲラゲラ動画アプリの「配信開始」ボタンを押した。


「どうもー、『育ちすぎたタマ』チャンネルへようこそ。こちらのかわいいもふもふがタマで、私が飼い主の哲也です」


 :平日にタマちゃんキタ━(゚∀゚)━!

 :漆黒企業からの解放おめ!

 :俺も倒産を願っとくぜ!

 :OMG……こりゃ「育ちすぎた」なんてレベルじゃねえぜ(訳:タマ)


 挨拶をする間にも、いつも通り怒涛のコメントが流れてくる。


 昨日トゥイッターで退職とその経緯について(守秘義務違反にならない範囲で)軽く説明していたからか、コメントにはちらほらブラック企業と縁を切ったことへの祝福が混じっていた。

 あと、それに混じって時々「(訳:タマ)」とついた、初見さんっぽいコメントもちらほら見かける。


 海外からの視聴者がコメントしてくれてて、タマが俺のために翻訳して表示してくれているということなのだろうか。

 契約が決まった後、水原さんが海外向けの企業公式アカウントで今回の配信について告知してくれてたのだが、早くもその効果が出てくれているみたいだな。


「本日はなんと……まだ三本目の動画だというのに、早くも企業案件をいただくことができました! というわけで、今回も素敵なゲストをご用意しております。水原さん、どうぞ!」


「はい! 私、まつもとペットフード株式会社国際事業部の水原と申します。本日は弊社主力商品『MEOWミャオにゃ〜る』の魅力をタマちゃんに広めていただきたく、こちらのチャンネルにお邪魔させていただいております。基本的には英語の副音声を担当しておりますので、タマちゃんににゃ〜るをあげる際くらいしか配信には映らないかと思いますが、どうぞよろしくお願いします」


 続けて俺はこれが案件動画であること、そして案件の提供元の社員が同行してくれていることを伝えた。

 世の配信者には案件を案件と感じさせない高等テクニックで自然に動画を見せる天才もいるみたいだが、あいにく俺にそんな技量はないので、ここはむしろド直球に行くことにした。


 まあ、猫関連の商品の紹介なのでこれで配信が荒れる心配とかはあまり無いだろう。

 これがVPNの紹介とかだったら「金のために関係ないものを見せるな」的な批判もあったかもしれないが。


 :案件おめ!

 :もう案件は草 さすがタマちゃん!

 :にゃ〜る公式から来ました(訳:タマ)

 :水原さんクッソ美人で草

 :えっ、危険度Cダンジョンに入れてる…? この人も探索者なん

 :正味今からアイドルやっても通用するだろ

 :むしろもっと映って!


 俺の予想は的中して、視聴者たちはこれが案件動画であるという事実を暖かく受け入れてくれた。

 中にはそのことすら祝ってくれてる人までいる。


 あと、意外にも水原さんがいきなり人気だ。

 確かに、顔立ちの整った方だとは思っていたが……それがこうも配信にプラスの影響を及ぼすとはな。


 さて、そしたら……もっと映ってなどとコメントする人もいるくらいだし、本格的な攻略に入る前に一回水原さんの戦闘スタイルでも見せてもらうとするかな。

 そういう意図を抜きにしても、ダンジョンという命の危険がある空間にいる以上は、一応同行者の実力も把握しておきたいし。

 タマがいる以上は奇襲のリスクとかも限りなく低いっちゃ低いだろうが、同行者が自力でそれに対抗できそうであればより安心感が増すからな。


「水原さん、『にゃ〜るをあげる時以外は映らない』と宣言されたところ申し訳ないですが……一旦ご自身の戦い方を見せてもらってもいいでしょうか?」


「あ、私は全然大丈夫ですが……いいんですか?」


「はい。一応一回見ておきたいなと思いまして」


「分かりました!」


 頼んでみると、水原さんはすぐOKしてくれた。

 それから少し進むと、早速イノシシのような見た目をしたモンスターが一匹出現した。


「じゃ、やってみますね」


 水原さんはそう宣言すると……右手から轟々と燃え盛る炎を出現させた。

 え……それ熱くないの?


 若干面食らっているうちにも、水原さんは右手の炎を球状に変形させた。

 そして、ピッチャーのように構えると……大きく踏み込みつつ右腕を後ろに引き、溜めた力を一気に解放するが如く炎の弾を投げた。


 メジャーリーガーのフォーシームを彷彿とさせるようなその豪速炎弾は、イノシシが反応する間も与えず直撃し、丸焼きにして姿を変えさせた。


「まあ、こんな感じですね……。ブランク長いんで少し不安でしたけど、一応昔と比べてそこまで実力は落ちてないみたいです」


 投げ終わった後、水原さんはそう自身の戦闘の所感を述べた。


「おお、凄い投球じゃないですか。まるでサイ・ヤング賞投手ですね!」


 野球大好き人間としては見過ごせない綺麗な投球に、思わず俺はワクワクしてそう言った。


「まあ、一応高校生の時は野球部に所属してました……。でも、この球速は炎魔法だから出せるのであって、ボール持ってこれは無理ですね」


 なるほど、それはそうか。

 しかし、浅い場所とはいえ危険度Cの魔物を一撃で単独撃破できるなら、Cランク探索者の中ではそこそこ上位なんだろうな。

 これならだいぶ安心だ。


 :凄えww

 :ただかわいいだけじゃなかったww

 :感想がサイ・ヤング賞w

 :哲也氏野球好きなんか なんか一気に親近感


 視聴者たちからも好評なようだ。


「じゃ、私はこれにて」


「すみません、本業の同時通訳もあるのにありがとうございました」


 水原さんはこれにて本来の仕事に戻ることにしたようだ。

 更にもう少し進むと、今度はまた二足歩行の牛(という表現でいいのか?)みたいな魔物が二体ほど出現した。


 次こそタマの番だな。


「よし、じゃあタマ、あいつらやっちゃってくれ」


「にゃ(了解にゃ)」


 俺が指示を出すと……タマは右の前足を上げた。

 あれ、いつも攻撃の時って左の前足上げるよな?


 と思っていると――なんとタマはその右足を轟々と燃え盛らせ始めた。


 あーまたコイツすぐ人の技を……。

 って、なんかその炎、青白くないか?

 いったい何度になってんだそれ。


 ていうか……サイズもおかしいだろ。

 なんだそのバランスボールみたいな直径の炎弾は。


「にゃ(じゃ、いくにゃ)」


 タマそう宣言し、軽くひょいと足を振り下ろした。


「ギャオオオオオォォォン!」


 それにより、飛んでった炎弾は二足歩行の牛のうち片方に命中し……火だるまになった牛は吹き飛ばされ、もう一体の牛にぶつかって高音の炎を飛び火させた。

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