夢現の果てに

名代

序幕1

「…」


雨が降り続く中、私は傘を差さずに立っていた。

時間は夜の10時頃、中学1年の子供がこんな夜遅くに外に出ていたのであれば誰かしらが心配して何かしらの事案になる筈だ。


「…」


…私にも家族は居るが誰も私の事は心配していないだろう。

あそこに私の居場所はない、それは何処に居ても同じだろうと思いながら地面に視線を移す。この場所はとある廃墟の屋上、よく放課後誰もいないのをいい事に溜まり場にしていた場所。

唯一の自分の安らぎのある場所で人生を終えるためにこうして私は夜遅くに来たのだ。


「…はぁ」


溜め息を吐きながら視線を前に戻す。

視界は雨により殆どが黒く、いつもの様な綺麗さは無かったがこれから自分が行う事を考えれば今更どうでもいいのだろう。

モヤモヤとあの時こうしておけば良かったなんて考えながらも、結局それが無意味だと悟る自分に呆れ再び視界を下に戻す。


「ーーっ」


此処からあと一歩踏み出すだけで全てが変わるというのに、その一歩が踏み出せない。

膝を上げようとしても、まるで靴底が接着剤に止められたかのように張り付き力を込めてもただ足が震えるだけだった。


漫画のキャラやドラマの俳優のように華麗に飛んで見せたかったが、現実はそう甘くはなく、極度の緊張のせいか普段よりも鼓動が煩くずぶ濡れにも関わらず全身から冷や汗を滲み出る様な感覚に包まれる。

この人生に絶望している様に見えて本心ではどこかでやり直せるんじゃないかと期待しているのかもしれないと考えが頭に過ったが、今更戻ったところで何も変わらないと自分を言い包ませながら震える手同士を合わせ胸元に抱き寄せる。


ただ一歩前に出るだけで何故こんなに時間が掛かるのかと焦りににた感情が頭に沸き始める。

本で見た内容で真実味は無いが、電車に飛び込む人たちは何も考えるまでも無く気付けは電車に吸い込まれるように歩いていたと書いてある。もしそれが本当であれば私の本心はやはり死にたくは無いのかもしれない。

…いや、これはあくまで電車の話で飛び降りの際にはまた違うのかもしれない。


息がだんだん荒くなってきているのを感じながら私の思考はこの飛び降りが失敗した時の事を考え始めている。

家族からはより一層腫れ物のように扱われ、クラスでも同じで結局悪化するばかりで何の改善も無いのだろう。それだけは考えるまでもなく確信できる。


「…」

「…はぁ」


再びため息が出る。

此処から飛び降りると決めていたのに今更何を迷っているのだろうか、そう思った瞬間に体の震えはピタリと止んだ。

結局あーだこーだ考えている事で悲劇のヒロインを演じたかっただけなのだろう。


嘘の様に動きを取り戻した足で躊躇していた一歩を踏み出す。

まるで階段を降りる時にもう一段あって足を踏み外しかけた時の様な浮遊感に包まれながら視界が全て上に流れ、物理法則か何か知らないが体の上下がひっくり頭が下を向いた。


これで全てが終わる。

これで駄目だったら次はどうしようか…


数秒しかない落下時間の間にそんな事を考えていると


「ようやく見つけたわ」


ポツリと誰かがそう呟き、続きを耳が聞き取る前に私の意識は闇の中へと落ちていった。





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