第二十四話

 会長との話し合いの結果、告白は予定通り学園祭最終日のキャンプファイヤーにて行われることになった。

 フォークダンスを踊り終えた後、会長から右京に告白するという流れだ。

 会長は「今回は一人で頑張る!」と息巻いていたため、俺の出る幕はないだろう。

 それから右京と志保も生徒会室にやってきたのだが、会長のあの慌て具合を見ているとそもそもフォークダンスに誘えるのかも怪しい。

 今は学園祭が始まって既に2時間が経過していた。

 俺は一人、何をするでもなくただボーッと階段に座っている。

 カップルで来ている人も大勢いて、それを見るたびに胸が締め付けられたかのような気分になった。

 ハァ、と深いため息を吐くと、背後から肩を叩かれた。


 「し、翔くん。探しましたよ、どうしたんですか?」


 そこにはいつの間にか志保がいて、心配そうな顔で俺を見下ろしていた。

 俺は「なんでもない」と誤魔化して立ち上がった。

 

 「それよりどうしたんだ? 何か用か?」


 志保の方から話しかけてくること事態が珍しいことなので、俺は少しばかり動揺していた。

 志保はいつもの倍くらい顔を紅潮させ、こねこねと指を絡めている。


 「あ、あの……かなって……」

 「……すまん。よく聞こえなかった。なんて?」


 聞き返すと、志保は不安そうな震えた声で。


 「が、学園祭。一緒に回ってくれないかなって……」


 ……本当に、今日の志保はどうしたのだろう。

 普段の彼女ならこんなことは絶対に言わない。

 俺が黙り込んで考えていると……。


 「ほ、ほら、生徒会の仕事も二人でやった方が早いですし……。クラスの出し物だって生徒会は免除されるから、時間もあるかなって……」


 学園祭中の生徒会の仕事は、単に校内を見回って校則違反を取り締まるくらいだから一人でもできる内容なのだが……。

 でもまあ志保から誘ってくることなんて珍しいし、特に断る理由もなかったので俺はあっさりと承諾した。

 その後、俺は志保としばらくの間 校内を回った。

 やはり志保といる時間はリラックスできて、俺にとって心地がいいものだった。

 メイド喫茶やたこ焼き、お化け屋敷など……学園祭ならではの出し物をしているクラスも多々あった。

 俺は学園祭で賑わっている風景を見渡す。


 「……」


 ……こんな状況だからか考えてしまう。

 もし俺が会長と両思いで、恋人関係であったならば……学園祭を一緒に回ることもできたのだろうか。


 「……ッ」


 その時、頬に湿り気を感じた。

 何気なく触れてみると、俺の頬は言い訳もできないほどグッショリと濡れていた。

 その出処でどころ辿たどってみると、俺の両目であることに気が付いた。

 泣いていたのだ、いつの間にか。

 必死でめようとするもそれは叶わず、さらにボロボロと涙がこぼれてしまう。

 なんでだよ……何やってんだよ俺……。


 「し、翔くん? どうしたんですか?」


 異変に気が付いた志保がハンカチを差し出してくれるが、俺はそれどころじゃなかった。

 人目も構わず大粒の涙を流し続け、嗚咽おえつしていた。

 志保は俺を人気ひとけのない階段の踊り場まで連れて行くと、俺の頬を優しく拭いてくれた。

 その優しさが今は辛かった。

 志保は優しく頭を撫でてくれた。


 「お、おい、志保、どうしたんだ……? 今日のお前はなんて言うか……」

 「な、何か悲しいことがあったんですよね。分かります。朝から元気なかったですから」

 「……ッ」


 ……どうやら志保には初めから気付かれていたらしい。

 俺に話しかけてきたのも、つまりはそういうことなのだろう。

 俺は志保に頭を撫でられながら、思い切り泣いた。




 「翔くん、もう大丈夫?」


 目を開けると、そこには以前夢で見た少女がいた。

 名前を思い出そうとするが、やはり思い出せない。

 顔も確かに見たことがある。この状況にだって覚えがある。

 しかしこの少女が誰なのかはどうしても分からなかった。

 状況を確認すると、どうやら俺はこの少女に膝枕をされているらしい。

 なかなか返事をしない俺にしびれを切らしたのか、ムッとした表情の少女が顔を近づけてきた。

 その美貌に、またもドキリ、と心臓が跳ねてしまう。

 というか、これは何だ……? なぜ今になってこんなことを思い出す……?

 俺の返事がないからか、今度は心配そうな彼女の顔が近づいてきた。


 「ねえ翔くん、本当に大丈夫?」




 目が覚めると、そこには不安気な表情で俺を見下ろす志保の姿があった。

 後頭部の感触から、膝枕をされているのだろうと推測する。

 流石にいつまでもこの感触を堪能たんのうするのは良くないと思い、俺は慌てて身体を起こした。

 どうやら泣きつかれていつの間にか眠ってしまっていたらしい。

 恥ずかしさで顔が破裂しそうになる。

 今度、志保には何かお詫びしないとな……。

 思い切り泣いたことで気分もスッキリしたので俺はもう大丈夫なのだが、志保は心配そうな表情で顔を近づけてきた。


「し、翔くん、本当に大丈夫ですか……?」

「……ッ」


 ……その不安気な表情が、先ほど夢に出てきた少女に似ている気がした。

 しかし、俺はすぐにその考えを振り払った。

 志保の髪色は赤茶色で、あの夢の少女は黒髪だ。

 心配している時の表情は誰でもそう変わらないだろう。

 自分に言い聞かせ、俺は志保と再び学園祭を回った。

 そんな中でも、俺は夢での出来事を思い返していた。

 ……俺、あの子と何か約束したはずなんだけど、何だったけ……。



____________________



 最後まで読んでくださりありがとうございました!

 評価や★、コメントなどで応援していただけると嬉しいです(_ _)


 伏見ダイヤモンド

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る