第十話

 生徒会室にて。

 会長と俺の二人は生徒会の仕事を進めていた。

 ちなみに右京は来ていない。

 先程、今日は生徒会室には来ないとの連絡があったのだ。

 右京は会長が生徒会室にいる日にはこうして連絡を入れてくる。よほど会長と対面するのが嫌なのだろう。

 会長は自分が避けられていることにも気が付かず、鼻歌なんか歌いながらひたすらキーボードを叩き続けていた。

 会長はポンコツな上に感性は残念だが、仕事はすこぶるできるのでこの面においては随分と頼りにさせてもらっている。

 そうして二人して延々とキーボードを叩き続けていると、俺が生徒会室に来る前から作業していた会長は流石に疲れてきたのか、話しかけてきた。


 「そういえば翔くんってさ」

 「……はい?」


 なんだろう、と顔を上げると、会長はキーボードからは目を離さずに淡々と……。


 「翔くんってさ、好きな人いないの?」

 「ブッ……!?」


 吹いてしまった。思い切り吹いてしまった。

 

 「げえっほ、げほ……! な、なんですか急に!?」

 「いや、暇だし世間話しようと思っただけなんだけど……。ていうかそれよりその反応! なに右京くん、好きな人いるの!?」


 アナタですよアナタ___などとはもちろん言えない。

 隣で作業していた会長はいつの間にか顔を近づけてきて、興味津々といった様子で見つめてくる。至近距離にある想い人の美貌を前に顔が熱くなった。


 「……いますよ、一応」

 「へー! なんか意外だね!」

 「くっ……」


 俺に好きな人がいると知った上でなお、嫉妬すらしてくれないことに少しばかり悔しさを感じてしまう。全く意識されていないということを再確認させられているようだった。

 少しくらい嫉妬してくれたっていいだろうに……。


 「へえぇ。翔くんに好きな人かあ……」

 「……なんですか、その顔は」

 「べつにぃ?」


 ニマニマとからかうように口元を緩める会長にジト目を向けた。

 すると、会長は何か思い立ったように声を上げた。


 「そうだ翔くん! アタシ、良いこと思いついちゃった!」

 「そうですか、良かったですね。では俺は作業に戻るので」


 目をキラキラさせて聞いてほしそうに話を振ってくる会長を、俺は冷たくあしらった。

 どうせまた厄介事に巻き込まれるのだ。ここは聞かないのが吉だろう。


 「ちょっと、聞いてよ翔くん! これは本当に良い考えなんだってば!」


 ……どうせ「私が手伝ってあげる」とか言うのだろう。


 「私が翔くんの恋路を手伝ってあげるよ!」


 ほら、やっぱり。 


 「私も右京くんとの恋路を応援してもらってるわけだしさ! ここは私に任せて! できることなら何でもするよ!」


 アナタが右京のことを諦めてくれたら俺的には十分なお手伝いになるんですがね。


 「手伝うって、具体的には何してくれるんですか?」

 「え? ……うーん」会長は腕を組んで首を捻ると。


 「……………」


 その状態で黙り込んだ。……ないのかよ。


 「あの、会長……」

 「いや、ちょっと待って! 何かあるはずだから! 私にも何か手伝えることがあるはずだから!」


 そんなに必死になって考えるものでもないと思うのだが……。

 そうして再び腕を組み、思案顔をつくった会長。


 「…………………………」


 ……やっぱりないじゃないか。

 だんまりの会長に心の中でツッコんだ。


 「そ、それよりも! 翔くんの好きな人って誰なの!?」


 あ、無理やり話題買えやがった。


 「教えませんよ」


 ていうか、言えるわけがない。

 ただでさえ会長は右京のことが好きなのだ。

 今この気持ちを伝えようものなら、それは迷惑以外の何物でもない。

 もし伝えるとしたら、それは会長が右京のことを諦めたときだ。

 なかなか教えない俺を見て、会長は「むー」と頬を膨らませてうなった。

 そんな表情すら可愛いと感じてしまうあたり、俺は改めて会長のことが好きであるのだと自覚した。


 「それならアタシが当てるから、当たってたら答えてね!」

 「……当てる?」

 「うん!」


 会長は人差し指を立てると、ウインクしながら。


 「20の質問って知ってる?」


 ___20の質問。

 俺でもルールを知っているくらい、わりとメジャーなゲームだ。

 まず、出題者は1単語で表現可能なものを答えとして用意する。

 回答者は答えを導くための質問を合計20問まで行うことが出来る。

 質問は「はい」「いいえ」で回答可能な形式でなければならない。

 同じく出題者は必ず「はい」「いいえ」で回答をし、嘘をついてはならないといったルールだ。

 ちなみに質問の代わりに回答を行うこともできる。


 「お題は翔くんの好きな人! どう!? やってみようよ!」

 「……ふむ」


 会長から軽くゲームの説明を受けた俺は、顎に手を当て思案顔をつくった。

 正直、悪くない話だ。

 質問の数が20個あるとはいえ、それで好きな人を断定するのは難しい。

 ここらで漠然ばくぜんとした人物像を言ってしまえば、会長は「もしかしたら翔くんは私が好きなのかも! 好きなのかな!?」と少しくらい意識してくれるようになるかもしれない。

 まあここまで上手くはいかないだろうが、やってみる価値はあるだろう。

 突如到来したアピールチャンスだと考えればいいのだ。


 「やりましょう」


 ここらで多少なりとも勘づいてくれれば良い。

 俺のことも恋愛対象として意識してくれればなお良し。

 この時の俺は、そう楽観視していた。

 


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 伏見ダイヤモンド

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