第4話 回想

 難航すると思った伝説の魔女捜しだが、わりと早く目星を付けることが出来た。

 あやかしの森の噂を、あちこちで耳にしたからである。

 小さな森なのに何日もさまよって、気付くと入った場所に戻っていたなどの逸話に事欠かなかった。

 魔術による幻覚作用に違いない…伝説の魔女は魔法の知識は豊富でも、隠密に関してはド素人の様だ。

 何事もやり過ぎは良くない…居所を隠すつもりの手段で目立っては逆効果になってしまう。

 さりげないのが一番…見えているけど気にもならない程度が、隠密の醍醐味だと僕は思ってる。

 そんな訳でわりと簡単に伝説の魔女の居所は特定出来たのだが、問題は魔術による幻覚をどう掻い潜るかだ。

 僕の侵入に気付いて攻撃してくれればまだしも、逃げられると面倒なことになる。

 さりげないのが信条な僕だが、ここは最大限の隠密スキルを久しぶりに発揮させてもらおう。


 そして簀巻すまきになったおばあちゃん魔女が、僕の目の前に転がっている訳だ。

「なんなんじゃおぬしは~?年老いた魔女には優しくしなさいと言っとるじゃろが~」

「いきなり、全方位攻撃魔法をぶっ放して来た奴が言うセリフではありませんね」

「仕方ないじゃろ!森の周囲の結界にも引っ掛からず、わらわの最終防衛線を突破したヤツなんぞ始めてなんじゃぞ~」

 伝説の魔女が涙目だ。なんとなく罪悪感が増してきたので拘束を解くことにした。


「あ~助かった…で、おぬしは何者なんじゃ?」

 小柄で白髪の魔女が尋ねて来た。

「王国所属の冒険者パーティー【ロイヤルワラント】のメンバーで、斥候スカウトのベイカーといいます」

「そうか…わらわは魔女ウィッチのリンネじゃ」

「早速で申し訳ないんですが、王国軍の部隊が原因不明の疾病により全滅してしまいました。現在【ロイヤルワラント】のメンバーが調査及び原因究明のために現地に向かっておりますが、魔術師ウィザード回復者ヒーラーの2人から伝説の魔女様を捜し出し、連れて来て欲しいと頼まれてこちらに参りました」

「ふむ、症状はわかっておるのじゃろうか?」

「全身から血を噴き出して死んでいる、ということだけです」

「なるほどの…魔法の研究よりも行使が主な冒険者では荷が重いと判断したか、おぬしのパーティーの魔法使い共はわりと賢い様じゃの」

「はい、よく食べますが…養分が頭ではなく身体に行き渡っています」

「おぬし、仲間の事ディスってる?」

「いえいえ、料理人としては何でも美味しそうに食べてくれる彼女は、とても大切な人です」

「……なんか養豚業者が豚を大切にしてる感ありありじゃが、少食なわらわからすると羨ましい限りじゃな」

「ご同行いただければ、旅の間に立派に育てて見せますが…」

「婆さんを育ててどうする気じゃ?」

 伝説の魔女がドン引きしている。僕はババ専ではないし、取って食う気もないよ。


「まあ良い…何百年振りか忘れたが、外に出てみるとするのじゃ!わらわの魔法を平然と突破する、おぬしにも興味があるからの」

「ありがとうございます。では準備を手伝います」

「おう!頼むのじゃ。医療器具や薬草、伝染病の疑いも考えられるから…メディカルスライムも連れて行くのじゃ」

 なぜか浮かれている老魔女がどれを着て行くか悩んでいるようだが、僕には帽子も服もすべて黒なので全部同じにしか見えない。

 それから僕は、伝説の魔女の荷造りを徹夜で手伝い、【ロイヤルワラント】に追い付くべくリンネと共に現地に向けて旅立った。

 

 これが僕と伝説の魔女リンネとの最初の出会いである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る