初ライブハウスを堪能

今日の参加バンドは8組だった。

僕達は4番目の出番。

本当は実力も何も知れていないので最初の前座を割り当てられる所であり、僕達もそうなるだろうと覚悟していたのだが、ライブハウスのオーナーの計らいが運営者に働いたそうだ。


リハも演奏順で行われるので僕達のリハは4バンド目だ。

リハと言っても演奏するわけではなく、立ち位置の確認とマスキング、そして簡単に音を出して音調節するくらいだ。

リハの出番を待つ間に、ライブハウスのオーナーが話しがあるからVIPルームに行くようにとライブの運営者から伝言を伝えられ僕達は全員VIPルームへ向かった。



VIPルームに入ると知らないおじさんと話すちえさんがいた。

おそらくこのおじさんがライブハウスのオーナーだろう。

『おっ!来た来た。こっち座れ。』

ちえさんに呼ばれ隣のソファーに座る。

『こいつらが私の娘とその仲間達。よろしく頼むよ。』

ちえさんはオーナーに僕達を紹介する。

『ちえちゃんの娘とその仲間達。いやぁ胸が熱いね、期待してるよ!

僕はこの店のオーナーの「吉沢」って言います。』


吉沢さんはかつてちえさん達のバンドのファンだったらしい。

この店でちえさん達は数多くのライブを行っていたそうだ。

『ちえちゃん達には沢山稼がせてもらったからねぇ。』

『ちえちゃんからキミ達の音楽の録音を聴かせてもらっている。

さすがちえちゃんの娘とその仲間だ。実力は本物だね。

キミ達の活動は僕が全力でサポートするから何でも言ってくるんだよ。』


なにか見えないが、巨大な力が僕達の味方になってくれた感覚があった。

ちえさんの偉大さがすごく伝わり感謝した。

吉沢さんの計らいで僕達は前座ではなく、中盤あたりに演奏する事になったらしい。



次々とすごい人達が味方になっていき僕達を導く。

これも全て強運の元に生まれてきたあきちゃんの引き寄せなのかな?などと考えていた。

ちえさんはこの地ではバンド活動で超有名人だったのだ。

この界隈のバンドの世界ではちえさんは様々なところで顔が利く。


オーナーを交えて少し話をして僕達のリハの出番となりステージへ行く。

リハを終えてVIPルームへ戻るとscrambleのメンバーが全員揃っていた。

みんな観に来てくれたのだ。

オーナーも一緒に当時のライブの事やscrambleの事を色々聞かせてもらった。

この広いライブハウスでワンマンをして会場いっぱいに集客ができたのはscrambleだけだったらしい。

開演時間になりライブが始まった。

僕達は変わらずVIPルームで楽しく話していたのだが、他のバンドとも交流して来いと言われた。

確かにその通りだ。これからライブを繰り返していく時に対バンで一緒になる可能性の高い人達が沢山いるのだ。

仲良くしておかないと今後やりにくくなってしまう。

僕達はホールに降りる事にした。


『キミ達は本当に緊張しない子達だね。初ライブがこんなに大規模の対バンなのにノビノビしていてリラックスしてる。良いことだ。しっかり楽しんでおいでね!』

ちえさんが激励で送り出してくれ最高のテンションで僕達はホールへ降りて行った。


ホールで早速一組のバンドに会った。

7番目の演奏バンドだ。Anotherというバンドだったと思う。

『こんにちわっ。今日はよろしくお願いします♪』

あきちゃんが話しかける。

『おぉっ!期待の中学生バンド!!VIPルームから降りてきたぞ?何者だぁ?笑』

冗談混じりで気さくに話しかけてくれた。

『ママがここに顔が効くらしくてVIPルームにいるから話してたんです。』

あきちゃんがサラっと答えた言葉にAnotherの人達はびっくりしていた。


Anotherはこの界隈でバンド4年目らしくそこそこ有名でもあり実力もある。

このライブハウスでも演奏経験は多く、ベテランのバンドさんなのだ。

このライブハウスの事を世間話をしながら案内してもらった。

すごく話しやすくて面倒見も良い。

僕達も気に入ってもらって仲良くしてくれた。


他の参加バンドも紹介してあげると言われ楽屋に行こうと言われた。

ステージの裏に大きな楽屋と呼んでる参加バンドの控室があるのだ。


衣装やメイクを直したりするために壁が1面だけ鏡張りになっているので邪魔にならないように鏡の反対の壁側で話した。

複数バンドを紹介されたが、次々紹介されても覚えきれない。

みんな自分の出番や準備、集客などでも大忙しなのであまりじっくり話す時間はない。


僕はAnotherの人達ともう1バンド「空彩(そらいろ)」の人達とバーエリアで話す事にした。

空彩は本日のトリを務めるバンドで僕達と同じく珍しい女性ボーカルのバンド。

僕より10歳も年上の大ベテランだ。(23歳なのでそれほど歳をとってる訳ではない)

ボーカルが彩ちゃん(あやちゃん)だから空彩だそうだ。

今までのいろんな経験を語ってくれたりしたのでバンドの世界の事を沢山知れた。


気さくで話していても楽しいし何よりもすごく可愛がってくれる。

良い人達と知り合えてすごく嬉しかった。

話してる内に僕達の演奏時間が近くなってくる。

3組目のバンドが演奏しているのだ。

僕達は準備をしてバックヤードに移動した。


Anotherの人達がついてきてくれていろいろ勝手を教えてくれる。

バックヤードは簡単な控室になっていてステージに直結してる。

客席からは見えないがここはもうステージの延長なのだ。



歓声がダイレクトに聞こえ熱気と振動が伝わる。

僕はどんどんアドレナリンが出て出番が待ち遠しかった。

文化祭とは違い、本格的にバンドが好きなお客さんだけが集まるライブハウス。

広く大きなこのライブハウスは多くの人で埋まっている。

何人くらい来ているのだろうか?

僕達がチケットを売った人達はいるのだろうか?


『選曲は予定通りで行くよ。

みんな準備はいい?この会場に来てる人達をみんな、No Nameのファンにしちゃおう♪』

あきちゃんの一言で僕達のテンションは最高潮となり3番目のバンドと僕達は入れ替わりステージに入った。

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