2-1

 とんでもねえ爆乳の長身美女

 しかし、ロリコン&ショタコンの二刀流




 ◇ ◇ ◇




 ───ひとつ、言いたいことがある。


 今、現在進行形で俺の顔を覗き込み、きらきらとした目で俺の顔をじっと見つめ続ける、ほわほわとした雰囲気と話し方の女性。

 彼女の名前はキクと言い、どうやらナギの仲間らしい。

 そして話を聞く限りでは───ロリコン、ショタコンの2つを使いこなす、とんでもねえくらい最強の女だ。

 そんな彼女から見て、俺は確実にストライクゾーンど真ん中の逸材であるらしい。

 ぶっちゃけ、他人の性癖なんぞ知ったこっちゃないと思っているのだが、今は状況が違う。

 行動の是非は考えずとも、怖い。すごく怖い。

 前世は顔がお世辞にも良いとは言えなかったうえ、身長が190と、とてもじゃないが可愛がられたりするような見た目ではなかった。

 だからこそ、音声作品等々で癒しを求めたりしたのだが・・・今は、そんなかつての自分に喝を入れてやりたい。


「あ〜、かわいい〜・・・」


 恍惚とした声とともに、俺はキクさんの胸の中に抱き寄せられる。

 どうやら気に入られてしまったらしく、恐らく俺は、今から激しいスキンシップを受けると思われる。

 ・・・ただまあ、それ自体はいいのだ。

 女性に抱きつかれて悪い気はしないし、本来なら高校生男子の俺からすれば、むしろ嬉しいまである。

 だがしかし───痛いわけだ。

 鎧の出っ張ってる部分が体にくい込んで、それはもう痛い。

 さっきは怖いと思考したが、今はもう痛いが勝っている。

 自己証明のはじめてをこんなくだらないところで使いたくないし、魔法で抜けようにも集中ができない。

 こういうところで痛みに対する強さ痩せ我慢が出てくるのは、芯を丈夫に育ててくれた両親のお陰か。


「グレイア、大丈夫?」

「・・・たぶん」


 ティアは助け舟を出してくれたのだろうが、つい曖昧な表現で濁してしまった。

 かなりまずいが、そうなると・・・・・この地獄は、一体いつまで続くのだろうか。




 ─────2節:虚無は黒く銀に輝き




 まあ、大方は俺の予想した通りのことだった。

 俺の・・・というより、この体の容姿がどちゃくそに好みらしく、なんならもう抱き潰してしまいたいそうだ。

 ・・・なんというか、もう物理的には抱き潰されかけたのだが。それは言わない方がいいか。


「・・・・・」


 そんなことを言うものだから、ナギが仕事を放ってすっ飛んできたわけだが───ひどいなこれは。

 仲間だと言うのだから、少なくとも制御はできているのだと思っていた俺が馬鹿だった。

 はアレだな。

 制御できないタイプの変態だこれは。


「───ってことだから。グレイア、君さえ気にしなければ監視は変えないけど・・・どう?」

「・・・スキンシップ自体は気にしないから、とにかく鎧を脱いでほしい。肉にめり込むんだよハグされると」


 10分くらいの間、ずっと脇腹と首のあたりと背中に金属がくい込んでいて、それはもうめちゃめちゃ痛かった。

 ティアの助け舟に乗らなかった俺の落ち度ではあるが、それはそれとして気づけよと思ってしまう。

 そのため、俺はわりかしイラつきながらナギの提案に言葉を返した。


「だってさ。よかったね、彼が寛容なタイプで」

「嫌われたかと思った〜・・・」


 寛容───か。

 いやまあ、自分の欲望に従えば拒否する理由がないわけで。

 俺だって今はまだ、頭の中は一端の男子高校生だ。

 恐らく12歳くらいの子供がいる手前、あまり下品な言葉は使いたくないものの、性癖に突き刺さる人間が自分を───いや、正確には自分が使っている身体だが、それを気に入ったとなれば、少しばかりでも心の内は盛り上がるもの。

 先程はイラつきながら、なんて思考はしたが、男というのは単純なものなので、気分自体はぶっちゃけ良好なのだ。


「まあ、いいや〜。ナギくんからのお叱りも受けたことだし、本題にはいろうかな〜」


 俺の要求通り、鎧をカチャカチャと脱ぎ捨てながら、キクさんは特徴的な口調のまま話し始めた。


「私がナギくんから引き受けた仕事は主にふたつあるの〜。ひとつは、議会のおじいちゃんから引き受けた仕事で、きみ達の監視だね〜」


 そういえば、この前も議会がどうのこうのという話を聞いた気がするな。

 議会は政治に強く絡んでいるみたいだし、この国の政治体制は議会王政だったりするのだろうか?


「ふたつめは・・・そうだね〜。簡単に言えば、きみ達の戦闘能力を測ったりすることかな〜」


 それでここか。

 昨日も使った、アリーナみたいな場所。


「戦闘能力を測るのには魔力駆動のダミー人形を使うんだけど、まあ、それが強いんだよねぇ〜」

「───補足を入れるなら、うちの一般の兵士で10人分くらい」

「は?」


 いや、冗談だろ。

 そんな聞くだけで強いであろう代物を、喧嘩すら数える程しかしたことのない、フィジカルよわよわ人間に使う必要がどこにあるんだ。

 失礼だが、まじで何も考えてないんじゃないかこの人。


「ごめんね。ほんとは僕かキクがレッスンをするつもりだったんだけど、余計な心配をしてる議会がそれを許さなくて」


 ああ、ちゃんと理由はあったのか。

 それはそれとして、初っ端から理不尽なことだな・・・

 いや、理不尽そのものは何度もあったか。

 最初の、あと地獄絵図に比べれば、今の状況は多少はマシと言えるかもしれないが───それにしても、依然としてクソッタレな状況にあることには変わりない。

 あの時だって、どうやって乗り切ったかと言えば、この体の元の人格が遺したであろう記憶と、その場の雰囲気を頼りにしたノリだったし。


「・・・だから、代わりと言ってはなんだけど〜。グレイアくんがピンチになったら、すぐに助けに入ってあげる〜」

「一応・・・と言っては怒られるかもしれないけど、僕らは戦闘のプロフェッショナルだ。そのあたりは安心してくれていい」


 それなら・・・いいのか。

 たぶん、初見の死にゲーよろしく2桁じゃくだらないくらいは助けに入ってもらわなきゃならないと思うのだが───まあ、もとは一般人だと言う事実を知っているのなら、その辺は許容範囲なのだろう。


「・・・マスター。ひとつ提案が」


 ふたりが言葉に区切りをつけると、今度はニアが俺に話しかけてきた。

 俺は体を少しニアの方に向け、その内容に耳を傾ける。


「今回の戦闘にあたっては、私の創造主───もとい、虚無の神が用意した基礎戦闘資料のインプット及び、私の自己証明による脳内からのサポートを受けることを推奨します」


 要は、トレーニング等々の諸々を挟まなくても、普通に戦えるレベルにしてくれる・・・ということだろうか。

 実際はニアの言うことを実行してみないとわからないものの、アレがわざわざ用意してくれているものが、そうそう微妙な代物であるわけがない。

 少なくとも、期待はしていいはずだ。


「・・・・・」


 しかし、心配事はあった。

 戦闘能力を測ろうと言うのに、俺がここでパワーアップをしてしまえば、何か不都合が発生してしまうのではないかと。

 そんなことはないだろうと思ってはいるものの、どうしても安心出来る情報が欲しくなってしまう。


「・・・気にしなくても、僕らはここで待ってるから。強くなれるんなら良いんじゃない?」


 俺がちらりとナギの方に目線を向けると、彼は笑いながらそう言った。

 まあ、べつに何も言われないのなら良いのかと、俺はそう判断し───再びニアの方に視線を向ける。


「マスター、手を」


 向けた視線を同意と見なしたのか、ニアは両手を俺の目の前に差し出してきた。

 何も言われないので、握ればいいのか、置けばいいのかがわからないが───まあ、わざわざ聞くのも何か違う気がするので、俺は左手を彼女の手のひらの上にそっと置く。

 そうすると、彼女は俺の左手を両手でぎゅっと握り、目を瞑って何かよくわからない力を込めはじめた。


「では、まずは基礎戦闘資料から」


 なんだか不思議な感覚がする。

 頭の中に何かを流し込まれているような、はたまた、強引に詰め込まれているような。

 恐らくはその資料とやらを、俺の脳みそに直でぶち込んでいるのだろう。


「・・・・・ふーっ」


 どうして触れる場所が手なんだろうという疑問はさておき、ニアが目を開けたので、資料とやらを俺の頭の中にぶち込む作業は終わったのだと思われる。


「ではマスター、次を」


 間髪入れずに次をやるらしい。

 ため息のように息を吐いていたし、何か負担がかかっていそうな雰囲気だが・・・大丈夫なのだろうか。


「すぐに済みますので、そのまま動かないでいてくださいね」

「・・・わかった」


 すると次の瞬間、ニアの体からぶわっと何かが放出されたかと思うと、放出されたは俺の体に入り込んできた。

 驚いたのと眩しかったのが合わさって、咄嗟に目をつぶってしまったが───ニア自身はどうなっているのだろうと気になった俺は、恐る恐る目を開ける。


「・・・?」


 しかし、そこに彼女は居ない。

 ということは、まさか。


『マスター、私は脳内からのサポートだと言ったはずですが』


 これは・・・すごいな。

 少し前に彼女が使ったような通信魔法(?)とはまた違う、頭の内側から音が鳴っている感覚。

 これでASMRまがいのことをされたら、独特の感覚すぎて凄いことになりそうだ。


『・・・ともかくです。これからの私は、必要があればこうしてマスターの脳内からサポートをしていく流れとなります』

「なるほど」

『一応聞いておきますが、何か不快感などは?』

「無い。むしろ逆だな」

『了解・・・把握しました』


 どうやら、これで終わりらしい。

 あとは自分の力でやれ、ということだろう。

 残念ながら、神様が親切すぎて達人レベルの実力を授けてくれた・・・なんてことはない。


「終わった?」

「ああ、そうらしい」

「それじゃあその・・・資料?ってのは、どんな感じなの?」

「・・・大雑把に言うなら、体を自由に動かせるようにするためのものって感じだ。達人レベルの身のこなしが身についたわけでもないっぽいし」

「これはあくまで僕の感想だけど。君に軽々しくチート能力を授けないあたり、君の担当は暗に「楽しめ」って伝えたいみたいだね」

「・・・そうだといいが」


 神なんてものは裏が見えなくて当然の存在だ。

 俺がお気に入りの玩具だとするなら、考えることなんてせいぜい、新しい物が手に入った時の子供心よろしく「長持ちしたらいいなあ」的なことだろう。

 というか、この予想すら、人間というちっぽけな生物が想像した単なる妄想に過ぎない。

 もしかしたら、万が一にでも、億が一にでも、アレが俺たちと似通った感性を持っている可能性が無くはないが───事実が如何にせよ、その答え以上の考えは「おこがましい」というヤツだ。


「それじゃあ、もう始めてもいいってこと?」

「もちろん」


 俺はそう答えながら、屈伸運動を初めとした、いつぶりかの準備運動をやりはじめた。

 今から行うのは、とんでもなく久しぶりの運動なのだ。

 この後に影響するかはさておき、準備運動なんてものは、やっておくに越したことはない。


「それじゃあ、あそこに居る人形が見える?」

「ああ」

「そこそこの衝撃を与えると起動して、急所に攻撃を与えると落ちるから」


 好きな位置で起動しろ、ということか。

 石でも投げればいい感じの場所で起動できるが、相手が物とはいえ、石を投げるのははばかられると───いや、よく考えれば、これから傷つける物に対して遠慮もクソもないな。

 普通に石を投げて起動することにしよう。

 ちゃんと当たるかはさておき、楽だし。


「それじゃ、頑張って」

「頑張って〜!」


 一通り話した後、ふたりはどこかへ歩いていった。

 恐らく、上の観客席みたいな所に行くのだろう。


「グレイア、あまり無理しちゃ駄目だよ」

「心配してくれてありがと。でも、大丈夫だ」


 ティアが心配してくれている。

 だが、俺は今すごくテンションが上がっていて、まったくそれどころではない。

 怪我をするかもしれないだとか、そんな些細なことを考えてる場合じゃないと、俺の心は判断している。

 長い目で見るより、今この場の快楽を、楽しみを求めて。


「・・・ふう」


 必死にニヤけ面を抑えているものの、それももう限界だ。

 物騒なことというのは、こんなにも好奇心を刺激するものなのかと思い───まるで初めて戦闘モノの作品に触れた時のような、そんな感覚がしている。

 久しぶりの遊びだ。

 楽しまなくては。


「いけるか、ニア」

『準備はできてます』


 ニアも準備万端らしい。

 何をサポートしてくれるかはわからなが、できる限りは自力でやりたいな。


「・・・よし。始めよう」


 俺はそう呟き、足元にあった石を持つ。

 いくつかの魔法を準備し、左手を胸に添えた時───ニアが戦闘開始を判断したのか、俺の脳内でアナウンスをした。


『───状況把握。戦闘の補助を開始します』




 ◇ ◇ ◇






 ええまあ、今回も間がわりと開きましたね。

 特段忙しかったということはなく、単に案が思い浮かばなかっただけでした。

 あとなんか、妙に筆が進まなかったり。

 ・・・てことで、余計な修行パートはgdるから要らんやろと判断した私によって、虚無の神がすげえ過保護になってしまいました。

 どうせレール敷くなら満足いくまでやるわ・・・的なテンションで神様がレールを敷いた結果、たぶんこれ以降もご都合展開は続くことでしょう。

 それが終わりを迎えるのは恐らく、私の想像力が成長した頃でしょうか。

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