異世界BB弾無双

@funya3

第1話 その男鯖田鯨人(さばだげいと)

「シャバダくーん」

 部長が呼んでいる。

 俺は、自分の名前には誇りをもっているが、いい加減名前弄りには食傷気味である。

 鯖田(さばだ)という姓なら、今の部長のように♪シャバダーシャバダーシャバダーと某コーヒーメーカーのCM のように音をいじったり、学生時代だったら「さば折り」と言って相撲の技を仕掛けてくる奴、鯖威張る(サバイバル)と言って、タフな奴だろうと言われることもあった。鯖アレルギーなんてのもあったな。私自身はサバは大好きである。

 下の名前のほうは、同性愛者と言って「怖ーい」と明らかにコンプライアンス違反の奴、某ライトノベルの「ゲ○ト」にちなんで自衛隊が異世界に行ったらしいよと言う奴、「凄い芸当(げいとう)だったらしいね」と言う奴。声優のク○ラさんにちなんで「オロチ○さーん」と言う奴。「クジラが立った。クジラが立った」と言う奴。まあ立っているが、勃っていると言われたときは閉口した。

 両親は鯖田と言う姓から「サバがクジラになる」と大きな人間になれと素晴らしい意味を持たせてくれた。

「この書類なんだがね。書式はこれで良かったかね」おいおい、そこからかい。ノートパソコンの画面を見せて訊いてくる。そろそろ覚えましょうか。

「そこは、新しいファイルを開いて下さい」

……。

 昼休みになると同僚の「秋田慶子(あきたけいこ)」が話しかけてきた。

「課長またサバゲーにつれて行って下さいよー」と馴れ馴れしい。

「こんなおじさんと話していると、要らん噂がたつぞー」

「もー課長だったら大丈夫ですよー」とほっぺたをプクーと膨らませている。整っている顔で変顔すんじゃねーよ。あざとい奴だな。しかし、心の声は外に出ない、俺は内向的な男なのだ。

「女子一人だと行きにくいんですよ」

「まあ怖いのかもしれないな、そういう若者もいるかもしれない。しかし戦略を真剣に練ったりする真面目なおじさん、若い女の子もいるだろう」

「課長のうちが私のマンションと近いから、車で送り迎えしてほしいんですよ」

「まあな、モデルガンを持って移動は車がいいよな」俺は職質を受けたとき大丈夫なように、プラスチックを多用したモデルを選び、カラーリングもピンクで有名なネコのキャラクター「キッチンちゃん」のイラストを描いている。因みに海外では実銃に「キッチンちゃん」のイラストを描く女性兵士もいるらしい。

 そして車はクラ○ンエステ○トハイルーフ仕様ルーフキャリア付きで、長距離を荷物マシマシで動くにはバッチリである。サブバッテリーも用意して屋根にはシートタイプの薄型ソーラーと走行充電も付けている。

 これは内緒であるが身長155センチの秋田慶子は車の中で泊まることもある。静かにエアコンをツケッパでも大丈夫なようにしてあるしFF ヒーターも完備している。カーテンもリアテントもついて着替えも身体を拭くこともできる。車の近くで私はソロキャンプであるが。

 ……。

 そんな俺が宝くじの高額当選するとは、驚きだった。俺は自治体主催の宝くじを連番10枚、バラで10枚買うことに決めている。スクラ○チとかには浮気しないことに決めている。今回10億当たった。心臓バクバクであった。

 急に辞めるとか言うと、疑われると思い、少しライフワークバランスを見直すとか言ってみた。俺はもともと一人っ子で実家暮らしだったが、小さな会社を経営していた父は母と一緒に北関東の母方の田舎に引っ込んでしまったため1年ほど一人暮らしになった。土地の税金は父が納めているし、遺言には俺と母に相続すると書いているらしい。因みに母は俺にと書いている。ともあれ、土地の相続税は安心になったので父に手紙を書いておいた。

「そろそろ鯨人も結婚しなさいよ。いつも来てくれる慶子ちゃんはどうなの」と母はよく冗談を言っていた。

「慶子ちゃんは会社でも人気なんだよ、俺なんかが相手できるような子じゃないんだ」慶子ちゃんはまだ24歳だったはず、5月10日の誕生日にエアガンをプレゼントしたから分かっている。

 ……。

 10月頃に夏休みを取った俺は北関東にある老舗のサバゲーショップがやっているフィールドにやって来ていた。俺はこの店が好きだった。結構メンテとか良心的だしカードも使え、邪道かもしれないが工場(こうば)のでかくて天井も高く、よくテレビドラマで拉致された刑事が転がされるような屋内フィールドも併設されている。コンクリートのうえに緑のフェルトのようなシートが敷いてあり、障害物がおいてあるのだ。

 更衣室で着替えてもいいのだが、車のリアテントがあるので着替えてから、慶子と軍用の背嚢に銃を持ち担いで砂利の広い駐車場を音を立てないように歩きだそうとした。

「こんな重い装備を持つ必要ありますかね」

 慶子が結構大きな声を出したので、俺はハンドサインで静かにするように言った。

「サバイバルに役に立つツールが入っているんだ。災害など非常時に役立つし何より異世界転移にあったとき有用だ」声を低くして俺は答えた。慶子は呆れたような顔をしている。

「ロッカーに入れるんだからいいだろう」

 その時何か景色が歪み、そのあと夕方のような暗さになった。空を見るとなぜか南のほうに夕焼けが見えた。

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