自由をご所望の王女殿下と幼馴染な専属従者の亡命(駆け落ち)スローライフ

砂乃一希

俺と殿下の願い

俺ことアルバート=カルヴァンは古くから王家を守る一族に生まれた。

王族が6歳になると一族の中から年齢が近い最も優秀な者が1名だけ選抜され生涯をかけ守り続ける。

それが我が祖国ブロードベント王家の古くから続く伝統だ。

一族に生まれた者は全員幼い頃から訓練を受け選抜された者はたった1人で主君の護衛騎士と執事を兼任するほど精鋭揃いの名家であり貴族籍を持つとあまりにも権力が集中してしまうため無位無官が定められている化け物集団、それがカルヴァン家である。

そんな中、俺はカルヴァン史上最高傑作と呼ばれ幼い時から厳しい訓練を課され他の同年代の子供と比べても明らかに厳しい訓練に俺の心は壊れて何も感じなくなっていった。

そして俺が6歳になり専属従者に選ばれ第二王女殿下と出会ったとき俺の人生に光が差したんだ。


「あなたがわたしの専属従者さん?」


美しい黒髪に整った目鼻、ぷっくりとした瑞々しい唇。

これから主君となる少女に一瞬で目を奪われた。

まさに物語の中から出てきたような美しさに思わず息を呑む。


「も、申し遅れました。アルバート=カルヴァンでございます。本日から貴女様の専属従者として仕えさせていただきます」

「わたしはソフィア=ブロードベントっていうの。今日からよろしくね。アルバート」

「っ!!……よろしくお願い致します。ソフィア殿下」


ただでさえ一目惚れのような状態だったのに満面の笑みを向けられるともうダメだった。

その日から俺はたとえ全てを敵に回したとしてもソフィア殿下を守り抜くことを心に誓った。


◇◆◇


〜12年後〜


ブロードベント城の一室にて。


「はぁ……王女という身分なんてなかったら良かったのに……」

「またそんなことをおっしゃられますと陛下に怒られますよ」


ソフィア殿下に仕え始めて早10数年。

殿下は傾国の美女と呼ばれるほど美しくなられた。

容姿だけでなく才能にも溢れ努力を惜しまないそのお姿は殿下の専属従者としてとても誇らしく思う。


「あら、お父様には内緒にしておいてください。でも、王女で良かったって思えることが一つだけあるんです」

「王女の地位の恩恵が一つだけだなんて殿下らしいですね」


ソフィア殿下の感性は割と庶民寄りだ。

豪華で高級な物より素朴な物を好む。

小さい頃平民の格好をしてこっそり城を抜け出し街のおじさん達と仲良くなって焼き鳥をもらい美味しそうに食べだしたときは本気で肝を冷やした。

今もたまにやってるけど………


「ふふ、そうかもしれませんね。知りたいですか?」

「お聞かせくださるのであれば」


俺のその言葉を聞くと殿下は無邪気な笑顔でそっと俺に近づき耳打ちしてくる。


「アルバートと出会えた。それだけが私が王女で良かったと唯一思えることなんだよ?」


っ!?

殿下は俺の昔からの恋心を知ってか知らずかすぐにからかってくる。

主君に対し文句など言うつもりはないが心臓に悪すぎるのでやめてほしい。


「そのお言葉何よりも嬉しく存じます。私も殿下にお仕えすることができてとても幸せです」

「ありがとうございます。さて今日も公務頑張りましょう」

「承知致しました」


その日もいつものように殿下と共に公務に勤しみあっという間に日が沈んでゆく。

そして公務が終わり夜が更けた頃に俺は殿下の部屋に呼び出された。


「失礼します」

「いらっしゃいアルバート。こんな時間に呼び出してしまってごめんなさい」

「いえ、私は殿下の専属従者ですのでいつでも呼んでいただいて構いません。それよりも夜遅くに部屋に男と二人きりというのは世間体がよろしくないかと」

「あら、それは気をつけなくてはいけませんね」


俺に笑顔を向けた殿下は月に照らされとても美しいがどこか悲しげに見える。

何かあったのだろうか?

殿下の不安を見抜き取り除けないなんてまだまだ俺も未熟だな……


「ねぇアルバート。私、考えたことがあるんです。私とあなたが二人とも平民で自由に生きれたらって」

「………」

「分かっているんです……そんなことは望んではいけないって。国のために生きる……それが王族に生まれた私の役目だから……」

「……」

「それでも……どうしても心のどこかで望んでしまうんです。この国や城から逃げ出してただの一人の女の子として生きれたら……どんなに楽しいんだろうって」


あぁそうか。

殿下だって一人の人間だ。

いくら普段大人びていてどんなに優秀だったとしても一人の女の子であることに変わりはないんだ。


「私は……もっと自由に生きてみたいです」

「……」

「なーんて冗談ですよっ!今日の公務で疲れてついふざけたくなっちゃったんです。ごめんなさい」


殿下は冗談だと言っているが俺はそうは感じなかった。

あの言葉には確かに殿下の本音が混じっている。

俺は殿下は王女であるほうが幸せだと思っていた。

何不自由無い生活や安全で豪華な日常。

それでも……殿下がここまで王女であることを負担に感じているならば俺のするべきことは一つだけだ。


「でしたら殿下……いっそのこと逃げ出してしまいませんか?」


今までずっと隠し持ってきた俺の願いを口に出す。


「……!王国に仕えるあなたがそんなことを言うと国家反逆罪で殺されてしまいますよ?」

「私の忠誠は王国ではなく全てソフィア殿下に捧げております。私は殿下の専属従者として国益よりも殿下の幸福を最優先いたします」

「……あなたの身を危険に晒すわけにはいきません。困らせてしまいすみませんでした。下がってください」


いつもなら下がれと言われたらすぐにでも下がる。

でも!

今は絶対に退くことはできない!


「どうしたのですか?下がってくだ…」

「本当のことを言ってくれ!実現不可能でもいい!君が一番望むことを!俺は……絶対にそれを叶えてみせる!」


この口調もそうだが王族の言葉を遮るなんて不敬罪そのものだ。

だが別に死刑になっても良い。

それでも俺は自分の命をなげうってでも殿下の願いを……幸福を実現させたいんだ。


「!?殿下!?」 


殿下の頬を涙が伝う。

その涙を見て一気に頭が冷えた。

本人も意図しないものだったらしく拭っても次から次へと涙が溢れて止まらない。


「本当に……本当に望んでもいいのですか……?」

「もちろんでございます。殿下の願いをお聞かせください」

「私は……私は!ここから逃げ出したい……!誰も私達を知らない場所で穏やかにアルバートと一緒に生きたい……!」


ああ……俺はその言葉をずっと待っていた。

望んではいけないと幼い頃に押し殺した願いだった。


「覚悟は……おありですか?」


亡命したとなればもうこの国には戻ってこれないだろう。

名前を捨てる必要もあるかもしれない。


「当然です」

「では私にお命じください」


ソフィア殿下は溢れた涙を拭い、俺に命じる。


「ソフィア=ブロードベントがアルバート=カルヴァンに最後の命を出します!あなたも生きて私をこの国から連れ去りなさい!」

「お任せください。このアルバート。必ずや殿下の命を遂行いたします」


たとえカルヴァン家と戦うことになっても俺は殿下の願いを叶えてみせる。


────────

これから毎日更新していきます。


☆をください……!


今後もこの作品をよろしくお願いします。

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