第33話 学内で大きな派閥だが弱いという矛盾

 修学旅行という息抜きが終わって、PS(パワードスーツ)学園は騒がしくなった。


「PSの練習機、ぜんぜん確保できない」

「はあっ……。ぶっつけ本番かよ!?」


 わずかな休憩時間ですら、チームの打ち合わせ。


 どの科も自分の評価につながり、いては卒業後の進路にも……。


 校内予選で戦うのは、PS科。

 けれど、1年で専用機を持っているのは、俺ぐらいだ。

 大企業がスポンサーになるか、軍の支援を受ける必要があるから。


 分かりやすいのが、『インフィニット』のテストパイロットをしている早登はやと


 どうすればいいのか? と言うと――


「PS競技会で上位に入れば、俺も専用機や、卒業後の内定をもらえるのに……」


 服を買いに行くための服がない。


 モブ男子の嘆きが、全てを示す。


 決戦兵器のPSは、練習用ですら貴重。

 まともに予約するのは、困難を極める。


 だから、先輩が絶対的な部活に入り、1年は下積みで捨てる。

 自分のコネを活かす。


 あるいは――


「俺、お前のサポートに徹するから!」


 PS科で腕に自信がなければ、有力な生徒に従う。

 卒業後も、口添えを願うわけだ。


 身の程を知っている、と言うべきか……。


 これだって、立派な生存戦略だ。


 食堂のボックス席に座っている俺にも、チラチラと視線。

 敵に回したら怖いが、コバンザメをするには、うってつけだからな!


 けれど、PSに性別は関係なく、キャロリーヌ達がいれば、対戦相手に事欠かない。


 アリスたちと親しくなり、口説きたい。


 そう願っている男子も多いだろう。


 女子も色目を使うものの、キャロたちの剣幕に怯えて、遠巻きだ。



「お前が、1年1組の和真かずまだな?」


 男子の声で、俺は食事をやめた。


「そうですが?」


 制服のプレートから、3年と分かった。


「次の校内予選に備え、俺たちのチームに入らないか? 今なら――」

「そういうの、間に合っているんで……」


 ムッとした男子は、脅す。


「いいか? 俺たちのチームは、この学園で一番の勢力があるんだぜ? いくらお前と専用機が強くても、1人、1機だけじゃ戦えない。こっちは補給や整備も一通り押さえているんだぞ? 先輩に従うことを覚えろ。来年、再来年には、お前が後輩を使える立場になるからよ!」


「俺は、参謀本部の特務少佐です。今の発言は、聞き捨てならないですね? 憲兵に内部監査をさせても?」


 少し後ずさった男子は、震える声で突っ込む。


「う、嘘をつくんじゃねえ――」

「今はそちらの身分証を持っていないため、先輩が参謀本部に問い合わせても、構いませんよ?」


 ビビった男子は、冗談だと誤魔化し、足早に去っていった。


 一緒のテーブル席にいた早登が、嘆息する。


「お前にかかれば、この学園で幅を利かせているラグビー部の奴も形無しだな?」


「こちとら、もう実戦経験がある軍人さんだ。俺が退けば、もっと面倒なことになる」


 定食のスープを飲んだ。


「ラグビー部は、多いのか?」


「それもあるけど、ガタイが良くて、声が大きい。あと、上下関係が厳しく、結束力もある」


 分かりやすい説明に、息を吐いた。


「なるほど……」


 同じテーブルにいた男子も、会話に加わる。


「校内の予選は、有望な後輩を取り込むか、潰している」

「PS競技会の出場はめったになく、出ても初戦敗退だけどな?」


 典型的な内弁慶と……。


「訓練はしているんだろ? あの言い方だと、校内では困らんだろうし」


 俺の疑問に、早登が解説する。


「パイロットというのは、『俺ならできる!』という気質でなければ、務まらないんだよ」


「まあ、そうだな……」


 相槌を打った俺に、早登は苦笑。


「昔の騎士みたいに1対1で戦うか、相手を蹴散らせるPSだと、その個性を潰すだけさ! 歩兵じゃなくて、戦闘機のパイロットだから」


「ああ……。決められた手順に従う分野なら、精強だろうが。ソロで戦える決戦兵器で『周りと足並みをそろえる』『先輩の指示を待つ』は、逆効果だな」


 さっきのやり取りで、学内の覇権を握ることが最優先と分かったし。


 体制ができれば、それを変える奴も粛清の対象だ。

 あいつらは、自分で『弱いPS乗り』になっているわけか……。


 首肯した早登は、フォローする。


「卒業後に頼れる派閥ではあるよ! それを目当てに入った奴も多い」


 とはいえ、こいつの表情を見る限り、良いポジションではなさそうだ。

 

 全部、PSが悪いのさ……。



 ふと気になり、尋ねてみる。


「そういえば、お前らは部活に入ったのか? ここ、強制じゃないだろ」


「俺はテストパイロットで、それどころじゃない」

「テニス部! 女子がいるからな!」

「料理部。……いつでも、美味い飯を食える」

「囲碁将棋部。お金を使わないし、意外に交遊関係が広がる」


 色々と考えているなあ、と感心していたら、1人が尋ねてくる。


「お前はさしずめ、ハーレム部か?」

「ないわ、そんなもの!」


「誰かを選んだら、残りを紹介してくれー!」

「本命は?」

「うるさい!」


 女子メンバーがいなくても、落ち着けない……。

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