第31話 一難去ってまた一難

 紅いPS(パワードスーツ)の動画が終わった。


「見てもらった通り、『インフィニット』は試験機だよ! スラリとしたフォルムで、典型的なスピードタイプ」


 アリスの説明に、キャロリーヌが突っ込む。


「だけど、和真かずまの『シルバー・ブレイズ』と比べて、何と言うか……」


 言葉にならないようで、もどかしい様子。


 そこに、梨依奈りいなが続ける。


「柔軟に動いている感じね? これ、両足にメインスラスターがあるの!?」


 ニヤリとしたアリスは、うなずいた。


「うん! 背中の細長いスラスターと左右のバインダーにも……。おまけに、可変式だ」


 頭を左右に振った梨依奈は、ため息を吐く。


「パイロットの負担もそうだけど、整備の手間を考えたくないわ……」


 何度も頷いたアリスは、同意する。


「あっちは、アぺイリアの整備チームで人海戦術だ! ボクたちの参考にはならない」


 俺も、会話に加わる。


「あんなウィンウィンの機体で、制御しきれるのか?」


 こちらを見たアリスは、あっさりと答える。


「高い知能を持つAIを搭載していて、パイロットの負担が少ないんだよ! 悪く言えば、ボクたち『ラファーム』に依存する状態からの脱却を目指しているのさ」


「言われれば、ラファームのコピーによってPSが動く以上、その前提が崩れたら終わりか……。でも、単なるシェア争いじゃないか?」


 肩をすくめたアリスは、首肯した。


「そうとも、言う……。自分で判断するAIがいて、上手くやれるのか? 実験的な設計で、まともに動くのか? と問題が山積みだけど」


 ここで、シェリーが発言する。


「あ! その早登はやとくんですけど……。クラスの対戦は棄権するようです。理由は、『インフィニット』の調子が悪いから」

 

 全員が、一斉に息を吐いた。


「俺たちも棄権するか? あいつと戦えないのなら、専用機を消耗させて、データを取らせるだけだ」


 キャロリーヌと梨依奈は、自分の意見を述べる。


「そうですね! 他のクラスメイトと戦う価値はないでしょう。私は出ますけど」

「やることが多いから、仕事は少ないほうが助かるわ」


 俺も、結論を述べる。


「じゃあ、俺は出ない! 校内予選で勝ち上がれば、どうせ早登と当たるし。無理に戦いたい相手でもない」


 何とも、拍子抜け。


 けれども、シェリーが淡々と指摘する。


「和真は、かなりマークされています。早登くんに限らず、連戦になるほど厳しいでしょう」


「むしろ、注目されない理由がないからな……。嬉しくないけど」



 ◇



「科目を分担して、準備しよう!」

「俺は、英語をやるから――」


 テストが近づき、1年1組は慌ただしい。


 クラスメイトの早登からは、対戦を辞退したことを謝られた。

 阿由実あゆみについても。


 俺と早登は、険悪ではないものの、ライバル関係だ。

 近いうちに校内予選で上を目指すことから、馴れ合いはせず。


 放課後には、グループの会話が聞こえる。


「過去問、先輩にもらった!」

「ありがと! 自分が担当したのは、なるはやで!」


 高校ではあるものの、自分の仕事に関するタスクをこなしつつの学業。

 教養科目だけでも、中学とは段違いの広さ。


 それだけに、要領よく動かないと赤点をとりかねない……。


 俺は、チートみたいなアリスとシェリーいるから、情報戦で困らない。

 実際のところ、赤点を回避すれば、それでいい話。


 PS科なら、校内ランクを上げつつ、PS競技会への出場と上位入賞。


 それぞれの専門分野で実績を上げなければ、卒業後がヤバい。



 気晴らしに、年間のスケジュールを見たら――


「え? 行軍訓練もあるのか……」


 重そうな荷物を背負った兵士の格好をした生徒が、ゾロゾロと歩いている画像。


 共通か、これ。


 考えていたら、キャロリーヌの声。


「その後に、観光地での旅行もありますね? あめむちですか……」


「キャロか……。来年もやるのはちょっと……。あ、2年からはPSを使うの!?」


 何ともまあ……。


「ここに歩兵科はないし、PSを扱う学園で行軍が上手くなっても……。彼らの苦労も知っておかないとギクシャクするから、なのでしょう」


「だろうな」



 学生寮で延長しての勉強が認められ、一夜漬けをする奴らも。


 悲喜こもごものテスト期間が終わり、地獄のような行軍訓練も終わった。

 足の裏がめくれて、痛みが続く。


 すぐに観光地へ行けるため、今度はその話題で持ち切り。


 俺たちは最優秀のクラスで、南国リゾートで比較的良い部屋に……。


 最初のハードルを乗り越えたご褒美ゆえ、自由時間が多く、男女別の部屋で泊まる程度。

 引率の教師も、異性の部屋へ突撃することを除いて、うるさく言わない。


 同じクラスの奴らとも、ようやく話す機会を得た。


 すると、男子だけの部屋で、定番の話題。


「お前ら、狙っている女子はいるか?」


 それを皮切りに、ポツポツと名前を挙げていく。


 俺の番になったから、適当に誤魔化す。


「一番話しているのは、キャロかな? 中学から一緒だし……」


 ところが、早登は俺のほうを見ながら、宣言する。


「俺も、キャロリーヌさんだ! ただし、本気でな?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る