第15話 賭けは成立した

 PS(パワードスーツ)が固定され、あるいは、中の駆動系を剥き出しに。

 チュイインッと、金属同士の甲高い音と光。


 SFTA(スペースフォース・トレーニング・アカデミー)の整備ハンガーだ。

 安全のために防護をしている女子は、トコトコと歩き、汚れた器具を置いた。


 先ほどまで弄っていたのは、このPS学園で話題を集めている『シルバー・ブレイズ』。


 巻き込みなどの事故防止でツナギを着ているが、女のボディラインだ。

 赤紫の瞳で、前髪ぱっつんの薄い赤髪ロングをまとめている。


 彼女は、難しい顔で端末を見ている梨依奈りいなのところへ近寄る。


「しかし、この機体はかなわんわー! どんだけ尖った仕様なんや……」

「お疲れ様です、令夢れいむ先輩」


 ニカッとした令夢は、片手を振った。


「別に、ええって! ウチも、PS学園の秘蔵に触れるチャンスは見逃せんからなあ……」


 整備科1年の令夢は、PS科1年のマルティナの親友。

 それゆえ、専用機『ファントム・ブルー』の主任整備士を務めている。


 マルティナの頼みで、今は和真かずまの入試対策に付き合っているのだ。


「この『シルバー・ブレイズ』はな? 高機動を突き詰めた到達点や! 相手の攻撃に当たらず、こちらは相手の装甲を貫通するだけの攻撃をすればいい。シンプルや! アホみたいにシンプル」


「理想は、そうですが……」


 眉をひそめた梨依奈に、令夢が笑う。


「まあ、そやな! 慣性制御があっても、これに乗れるパイロットはそうおらんわ! 敵と味方のどちらを殺すのか、ほんま分からん!」


「今のPSの祖となった機体……。先輩のセリフでいえば、高機動の代表作でしょうか?」


「たぶんな? もっとも、パイロットを選びすぎる機体は、コスパ重視の今は好まれん! ぶっちゃけ、安い量産機を作りまくって、誰でも乗りこなせるほうがマシや! 浪漫はあるけどな?」


 不機嫌になった梨依奈に、令夢がフォローした。


 改めて、ハンガーに固定された『シルバー・ブレイズ』のほうを向く。


 今は約2mの巨体を縮めて、パイロットが背中を預けるシートと手足が見えるだけ。


「和真の入試……。たぶん、その1対多のバトルになると思うで? ウチの情報網だけじゃなく、学園中のうわさになっとる」


「本当ですか!?」


「せや……。それも、シミュじゃなく、実機によるフィールド演習の形でな?」



 ◇



 PS学園の生徒会室。

 その中央テーブルでは、上座の生徒会長が険しい顔だ。


 いつもより低い声で、確認する。


「ビンセルン君は……和真くんが入学できないだけでは不足だと?」


「ええ! シルバーソードの俺が戦うのに、相手はそもそもPS適性ゼロで、先日の襲撃でも虚偽の報告をした奴じゃないですか!」


 そう言い切った男子は、マルティナと同じで、制服にシルバーソードの印。

 彼女のような凄味を感じられず、ひたすらにチャラい。


 生徒会長の風美香ふみかは、PS科2年のビンセルンを見た。


「統合参謀本部は、和真くんの戦果そのものを否定していません。議事録が残るのよ? 発言には注意しなさい」


「おっと……。でも、それが事実なら、10機や20機のPSぐらい、軽くいなせるでしょ? 違います?」


 学園のトップが集まっている場で、沈黙が支配した。


 それを見たビンセルンは、話を続ける。


「別に、俺はいいんですよ? 『その和真が吹かしている』と考える奴は多いし。対戦する相手がいなければ、問答無用で『シルバー・ブレイズ』を没収するだけ……。それこそ、シルバーソードたる俺の愛機として――」

『生理的に無理!』


 いきなり、アリスの声でツッコミが入った。


 聞き覚えのある風美香はため息を吐き、まだ知らない面々は周りを見る。


「ビンセルンくん? 『シルバー・ブレイズ』には生体認証があるし、仮に外せても、統合参謀本部の許可が必要です! また学園の地下に封印するのが、関の山よ?」


「まいったな……。じゃ、どうします? 俺は対価がなければ、ゼロの相手なんぞしたくないし、他の生徒だって同様! 教職員も、伝説のエースパイロットの系譜とそれを模したPSの相手は御免被るでしょう?」


 余裕たっぷりの表情から、学園の理事会と話がついているか、その方針。

 このままでは、和真の対戦相手が見つからず、不戦敗だ。


 耐えかねたのか、マルティナが口を開いた。


「でしたら、同じシルバーソードのわたくしが、対価を払いますわ!」


「ほう? ……なら、彼が負けた場合は――」

「専用機『ファントム・ブルー』を引き渡せと?」


 首を横に振ったビンセルンは、嘲笑う。


「君のために調整され、パートナーとしてのきずながある『ファントム・ブルー』を奪うほど、非道ではない! シルバーソードの連携で、1週間の合宿を行いたい……。ただし、俺の命令にとする」


 その意味を理解したマルティナは、膝の上でこぶしを握りしめた。


「……構いません」


「そうかそうか! では――」

「待ちなさい! あなたが負けた場合は……シルバーソードを返上した後で自主退学をしてもらいます」


 腹に据えかねた風美香が、冷たい声で宣言した。


 全員の視線を集めたビンセルンは、退くに退けず。


「い、いいだろう! その代わり、こちらの人選と装備は、俺の一存でやらせてもらうぞ?」

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