第6話 PS学園への誘い

 武志たけしがフロンティア行きに……。


 中学の連中は、俺から距離を置くようになった。


 クラスメイトの梨依奈りいなとキャロリーヌはどちらも気を遣い、イジメや陰謀につながらないよう、周りを牽制。


 この2人がいなければ、どう転んでいたやら……。


 完全に武志の自爆だったが、周りは感情が追いついていない雰囲気。

 他の奴らの視点では、俺が罠にハメたと見えるだろうし。

 報復で濡れ衣を着せても、おかしくない。


 ともあれ、伝説のエースパイロットをコケにした奴は、開拓地から戻れず。

 稼働しているPS(パワードスーツ)も、こちらの使い古しで動くかどうかの代物だとか……。


 俺も、他人事じゃない。

 そろそろ、中学卒業に伴う、進路発表だ!


 周りの連中は、武志ほどのストレートではないにせよ、俺がフロンティアか、似たような未来だと思っているだろう。


 このニューアースでPSを使えないことは、移民船団で言えば、お荷物。

 下手すれば、船から放り出されるぐらいの……。


 ちなみに、その進路は、担任がクラスで発表する。


 うん。

 プライバシーが欠片もない方式だけど、その流儀で進むんだわ。

 同じ船で役割をハッキリさせ、自分の才能を活かすと……。


 本人の希望もあるが、適性や内申点でほぼ決まる!

 入試は、特別なケースだけ。



「よし! 全員の進路が仮決めになったから、発表するぞ?」


 担任の宣言で、クラスは騒がしくなった。


 パンパンと手を叩いた担任が、静かになった後で、自分の端末を操作する。


「じゃあ、1番から――」


 進学する高校と専攻する科、理由が告げられていく。

 その度に、悲喜こもごも。


 ガッツポーズをする奴もいれば、見るからに気落ちする奴も。



「じゃあ、梨依奈! お前はオリジナルの珠音たまね梨依奈と同じように、PS開発でオファーが多い」


 どよめく教室。


 それに構わず、担任は話を続ける。


「SFTAを始めとして、選び放題だぞ? 良かったな!」


 ふわふわした感じの梨依奈は、ジッと聞いた後で、首肯する。


「はい……。見学は可能ですか?」


「ああ! そこら辺は、最後にまとめて教えるから!」


 SFTAは、スペースフォース・トレーニング・アカデミーの略だ。

 宇宙軍養成学園。

 このニューアースで、最高峰のハイスクールだ。


 平たく言えば、地球にあった士官学校。

 様々な科があり、即戦力を養成。


 エスエフティーエーは呼びにくく、PS学園が通称。

 他の科もあるのに、存在すら認めないわけだ。



 自分のオリジナル。

 あるいは、ルーツとなる移民船団での役割と、その所属が、かつての国と同じ。

 だが、どこの高校に入るのか? で大きな差がつく。


 俺たちは中学生だが、モラトリアムの時間は与えられず。

 悩まなくて済む一方で、レールを外れることも難しい。



「キャロリーヌも、SFTAだ! 言うまでもなく、PS科」

「頑張ります!」


 元気のいい返事に、担任は頷いた。


 さらに、付け加える。


「お前なら、シルバーソードを狙えるだろう。しっかりな?」

「はい!」

 

 かつてのシルバーソード隊は、称号に。

 エースパイロットに勲章よろしく、シルバーソードのマーク。

 PS乗りの精鋭だ。


 このニューアースを守る役割だけではなく、象徴としての広報も。

 悪く言えば、芸能人。

 噂では、実力で選ばれた奴と、コネや容姿によるお飾りの奴がいるそうだが……。



「で、和真かずまは――」


 どうせ、ヘビーキャルの高校だろ?


 女子が全くいない男子校のうえ、かつての地球にあった底辺校のように暴力と年功序列だけが幅を利かせている――


「お前も、SFTAだ!」

「はあっ!? い、いえ。すみません……」


 思わず、ツッコミを入れてしまった。


「え?」

「何でだよ?」

「うそ……」


 クラスメイトも、同じように疑問の声。


 担任は気にせず、片手を振る。


 困惑した声で、説明。


「ああ、いい! 俺も、心底驚いたからな……。ただ、科の表示がない」


 何を言っているんだ、お前?

 専攻が不明なままで進学先が決まったら、怖すぎるんだけど?


 おずおずと質問。


「ど、どうすれば?」


「えーと……。『一度、SFTAへ来い』とあるが……」

「あの! でしたら、私の見学と一緒にすれば!」


 挙手をしながら、キャロリーヌが提案した。


 慌てて、可愛らしい声が追随する。


「わ、私も! 同じSFTAです!」


 梨依奈だ……。


 大きく頷いた担任は、すぐに返す。


「じゃあ、お前たちに任せたぞ? いやー、俺のクラスから3人もPS学園とはなあ!」


 ウキウキしている。

 どうやら、次の査定が楽しみらしい。


 こっちは、どこに入るのか不明なままで、ニューアースの最高学府……というかPSのトップエースが集まっている場所へ行かされるってのに。



 見学の申し込みを説明した後で、担任は真面目な顔に。


「その年で将来が決まって、色々と言いたいだろう……。繰り返すが、このニューアースで人類はまだ余裕がない。『センスや適性がなくてもチャレンジさせるべき』と思うが……。今は、各々ができる分野で頑張って欲しい!」


 言葉を切った担任は、改めて告げる。


「自分がやりたいことじゃないと思えても、実はそれが天職という可能性もあるんだ! 少なくとも、ニューアースの統合政府が信頼しているコンピュータ群による適性判断だ。もちろん、俺たちも意見を述べている」


 コンピュータ群とは、月面コロニーから移民船団を運営してきたAIのこと。

 合議制らしく、お互いに監視している……という話だ。


 今は大地を歩く身分だが、俺たちの先祖はそのAIのおかげでこの星まで辿り着き、テラフォーミングを行った。

 生身の人間がいると、仲違いや痴情のもつれで自滅しかねないから……。


 その功績により、一種の宗教。

 政府の意思決定にも、大きく関与している。


 俺たちの進路についても、ご覧の通り。


 武志をフロンティアに飛ばしたことだけは、評価できるけどな?

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