第2話 移民船団を守ったエースパイロット

平良たいら少佐! メインシップに敵の駆逐艦が多数! 救援を求む!』


 平良和真かずま

 それが、俺の名前だ。


 宇宙にいるようなコックピットで操縦桿を握り、返事をする。


「3分もたせろ、今行く! ……抜けるぞ?」

『どうぞ!』


 両足のフットバーを押し込みつつ、両手の動きで、視界が変わっていく。


 星々のプラネタリウムの中に、人工的なシルエットの群れ。

 地球を脱出する移民船団だ。

 それに対し、小さな虫が集まったような影。


 いや、それらは機械的なロボットだ。


「この期に及んで、まだピンチとは……チイイッ!」


 感覚だけで狙いをつけての射撃。

 ビームの閃光が通り過ぎたマシンクリーガーは、次々に爆散する。

 しかし、数が多い。


『ウワアアアッ!』

『くそっ! 小さすぎる!』


 味方の悲鳴と、消えていくシグナル。

 それを支援せず、メインシップに取りついた駆逐艦に集中。


 ブリッジらしき艦橋を撃ち抜く。

 後部のエンジン部分を狙う。

 その合間に、敵艦からの対空射撃や、2mほどの人型ロボットも処理する。


「ええいっ! 何だ、このサイズ差は!?」


 俺が乗っているシルバー・ブレイズを始めとするヘビーキャルは、全高15mだ。


 普通に考えれば、こちらが有利。

 けれど、ビームの出力などの技術は、宇宙人どもが圧倒的に上だ。

 アリや蜂が群がるように、地球は瞬く間に占領されていった。

 ……少し違うな?


 かつての植民地支配とは異なり、頭部と思われる部位でモノアイを光らせる奴らは人類を殺害するだけ。


 硬い装甲に身を包み、ライフル弾もろくに通じず。

 全高2mで、屋内の通路にも入ってきた。

 おまけに、ビーム兵器が標準装備。

 その出力は、主力戦車すら撃ち抜くほど……。



 連中のオーバーテクノロジーを狙い、各国はつまらない駆け引きを続けた。

 いわゆる、戦後処理。


「初動を間違えたことにより、敵の制圧と分析が間に合わないまま、マシンクリーガーの本隊が到着……」


 言いながらも、条件反射のように敵を撃ち抜き、蹴り飛ばし、切り裂く。



 軌道上からの攻撃により、各国の首都は壊滅。

 続いて、軍事基地も。

 熱源や人の数、電波により、ターゲットを決めたのだろう。


 人類に組織的な抵抗が不可能になったら、今度は地上へ降下。

 SFアニメに出てきそうな2mの巨人どもは空を自由に飛び回り、大きなジャンプで駆け抜けた。


 空路と地上の物流を寸断され、あとは各個撃破。

 残ったのは、皮肉にも月面コロニーの俺たちだけ……。


 シートに固定されている宇宙服を着たままで、独白。


「海のど真ん中にあるリグや島には、まだ人が残っているかもしれんがな?」


 いても、本当に生きているだけ。


 文明の利器である電子部品や動力は、もう作れず。

 通信するべき相手もいない。

 医療品どころか、他の島や陸地へ行く船も、いずれ壊れるだろう。


 マシンクリーガーに見つからないか興味を持たれずとも、家庭や学校で子供を教育する余裕はない。

 となれば、今の文明を維持できるのは数世代。


「人類は中世……いや、縄文時代に逆戻りだ! とにかく産めよ増やせよで、そこにモラルや知識は不要だ」


 常に怯えて地下や僻地に隠れている生活では、学ぶ意欲も湧かないだろう。

 これは北米のように、隠れ住めるだけの土地がある国でも同じこと。


「それでなくても、色々な意味で格差が酷かった……。もはや、地上には猿と変わらない未来しか残っていない!」


 コロニーだって、ギリギリの生活だ。

 用を足した物体すら濾過しての完全循環。


 まだ各国の首脳部が機能していた頃には、偉そうに、我々を受け入れろ! こいつらを叩き出せ! と威勢のいい通信があった。

 今となっては、懐かしい。


 言うまでもなく、途中から泣き落としに……。


「宇宙に上がれるロケットは、VIPや金持ちから満員だったな?」


 ゲームのように、接近してきたマシンクリーガーを斬り捨てた。


 そのロケットも撃墜され、昼の花火になったわけだが……。



 地上のマスドライバー施設からは、宇宙に上がれたシャトルもあった。

 けれど、衛星軌道の敵艦隊によって、どんどん撃破。


 この月面コロニーでも、地球の人々を救うべきだ! と主張して、ヘビーキャルなどで向かった部隊もいた。

 そして、お約束のように返り討ち。


 こちらへの支援要請は、月面コロニーを守るために無視。


 連中は、衛星軌道上の人々と運命を共にした。

 本望だろう。


 ともあれ、コロニーで移民船団が組織され、人類の種を残すために旅立った。

 ある意味では滅ぶのだが、致し方ない。



『メインシップより平良少佐へ! 助かった! 君もそろそろ帰還したまえ! 今、ヘビーキャル用のハッチを開ける――』

「すまない! 俺は月面コロニーで、珠音たまね博士を回収する! そちらのマスドライバーを使い、合流する予定だ。俺の部隊を収容してくれ!」


 あいつを……。

 珠音梨依奈りいなを置いていくわけには……。


『わ、分かった! こちらは速度を落とさず、地球圏を離脱する。早めに頼む!』

「了解! シルバーソード隊は只今をもって解散する! 各機はメインシップか、最寄りの母艦へ帰還しろ!」


『『『了解!』』』


 まだ生き残っていたヘビーキャルは、俺に別れを告げつつ、開かれたハッチへ消えていく。


『平良少佐! 俺も――』

「お前がいなくなったら、誰が指揮を執るんだ? すぐに戻ってくる!」


 言うが早いか、受け取った移動ユニットにより、月面コロニーを目指す。

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