第2階層

 勢いづいて札束で殴った机が大きく跳ねる。


 村人たちが、おおっと言う感嘆の声と共にパチパチと拍手する。

 領主様もやりますね。などと言っている。

 もういいよ武器で。


 というか、やってくれるなダンジョンさん!

 こんなモノを出されたら気になって壊せないじゃないか!

 前世の物とは材質は違うが、武器なだけあり、かなり丈夫で偽造が不可能。


 この短期間にこれだけおちるという事は、そこそこの数も期待出来る。


 これ、普通に紙幣として使えるんじゃないか?

 別に国単位で使う訳じゃない、この村だけの通貨とすれば問題ない。

 この時代、自領で独自通貨と言うのも珍しくない。


 それにここは特殊な土地柄の為、オレが自由に裁量出来る権限を国から貰っている。


 これを通貨に換えられれば、色々、出来なかった事にも手が出せる。

 さらにだ、いざという時の武器にもなる。

 モンスター被害で何度も全滅した事があるほど危険な立地。


 モンスターとの戦闘は予測してしかるべき状況なのだ。


 リーチは無くとも素手よりはマシ、すぐに取り出せる上、そこそこの威力もある。

 思いっきり頬をはたけば、首の骨ぐらいはゴキッと言うかもしれない。

 専用の訓練を積むのもありだろう。


 ダンジョンからのドロップという不確定要素に頼るのは問題かもしれないが、一定数でも確保できたら試験的に運用しても良いだろう。

 ダメなら回収して王国貨幣に交換すれば良い。

 それが出来ないほど流通した場合は……それこそ、コレを真似た紙幣の印刷所を作れば良い。


 俄然、ダンジョンに興味が湧いたオレは、護衛を引き連れてそこへ向かう。


 見た感じ、普通の洞窟としか思えないほどみすぼらしい。

 王都の近くにあったダンジョンに入った事があるが、そこは、壁はつるつるで地下だと言うのに松明が必要ないほど明るかった。

 が、ここは土がむき出しで、まさしく洞穴、としか形容できない。


 いくつかの分岐があり、その先に部屋があるだけで、迷路と言うほど複雑でもない。


 足元に注意しながら進んでも、30分もかからず奥まで簡単に辿り着く。

 最後の部屋は多少広くて丈夫そうな作りにはなっているが、ボスモンスターは護衛が瞬殺できるほど弱かった。

 なかなか精巧に作られた日本円、これの精製に力を使いすぎて他に手が回せなかったのかもしれない。


「旦那! 宝箱が出やしたぜ!」

「まあどうせ、紙切れなんでしょうがね」

「いや待ってくれ! なんか円盤みたいなものが……」


 ボスモンスターからおちた宝箱を護衛の一人が開く。

 中を覗き込むと、鈍色に輝く円盤が1枚入っていた。

 それを手で持った瞬間、突然、虹色に光り輝く。


 驚いたオレは思わず、それを地面に放り投げてしまう。

 地面に転がった円盤の上に何かが薄っすらと現れ始める。

 それは人型のようなシルエットを作り出し……

 

「なっ、なぜここに、コイツが!」


 円盤の上に出て来たのは、前世で見た立体映像のような物で、それは、オレのなじみの深い人物、いや、人物と言うのは少し微妙だが。

 そこに現れたものは、オレが前世で長年やっていたオンラインゲーム、その中の登場人物。

 自由にカスタマイズできるオリジナルキャラクター、身長等、全てを最小にして作った女性型のモデル。


 人と言うにはデフォルメすぎて、アニメと言うには立体的すぎる3Dモデル。


 それが、その円盤の上に立っている。

 キラキラと輝く台座に、少し透き通った立体映像。

 懐かしいそのキャラクターは、まるで媚びるようなモーションアクションをしながら、


『壊さないで』


 という、アニメ調イラストの吹き出しを頭の上に出現させる。

 それは、ゲーム内でスタンプと呼ばれる、チャットの代わりに用いられたイラストだった。

 文字も日本語で記載されている。


 く、クソッ、可愛いじゃないか。


「旦那、危険ですぜ!」

「何か頭の上に出てる……! もしかして魔法の攻撃!?」


 魔法の攻撃……確かにそうかもしれない、オレのハートに莫大なダメージを与えやがった。

 コレを攻撃するなんて……オレには出来ない。

 なんてものを……出しやがるんだ、ダンジョンさん。


 シクシクと泣くようなモーションアクションをする、そのキャラクター。


 さすがにコレでは、オレの護衛達も手を出すのを躊躇している。

 しかし……ここまでやるかダンジョンさん。

 壊されないようにする為に必至だな。


 そのうち、


『お腹すいた』


 と言うアニメキャラのスタンプを出して、こちらをチラチラ見るモーションアクションを起こす。

 おいおい、さすがに食べられてやるほどお人好しじゃないぞ。

 いくら可愛いって言っても限度が…………くっ、そうだ、これならどうだ?


 オレは持って来ていた弁当箱より、焼き肉を取り出してそのキャラクターの前に差し出してみる。


 すると、首を傾げた後、大きく口を開く。

 うゎ、真っ暗や。

 本来ある口内はなく、開いた口の中はブラックホールみたいになっている。


 これ、指突っ込んだら吸い込まれたりしないよね?

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