第29話 ドラゴン肉祭り
「なぁミケラ……ドラゴンの体なんて持ち帰る必要あったのか?」
ドラゴンの討伐を終えた後の事。
俺達に待っていたのはドラゴンの死体を運搬する仕事だった。
レオナの乗り物に乗せるのは現実的では無かったので、俺のギガントドールで持ち抱え、拠点の近くまで歩く事に。
「いつもはロウヒが黄金の沼に沈めて持って帰っているんだ。そして、ドラゴンの討伐があった日にはロウヒお手製のドラゴン料理が振舞われる」
「ドラゴン料理??これ食べれるのか」
「存外美味いぞ。この僕様が保証する」
ミケラの高笑いに合わせ、ラファやレオナも顔を縦に振り始めた。
なんなら、ラファに至ってはよだれを垂らしてる始末だ。
「しかもね、お祭りみたいになるの。ロウヒちゃんの料理を【ドールカルト】のお友達皆が食べて、家とかお外とかで食べ歩いたり話たり!!」
「へぇ、結構規模のデカい事するんだな。料理の配膳とか後片付けとかは大変そうだけど」
「安心すると良いぞダンテ。そこら辺は僕様もメイドに任せておけ」
「えぇ……流石にそれは悪いんじゃないのか?」
いくらS級傀儡を持つ日常生活のサポートに関してはピカイチのロレンだって、あの拠点全部を掃除するのは無理があるだろ。
と言うかそんなもん頼めないよ。
そんな事を思っていると、レオナがポンと俺の肩に手を乗せる。
「ダンテ氏、気持ちは分かる。なんなら、ここに居る全員が一度はそう思い彼女の手伝いを試みた事さえある」
「まぁ、そりゃそうだよな。んで、どうなったんだよ」
「一人でした方が速いからさっさと寝ろと言われてしまってね」
「えぇ……」
そんな談笑をしながら道を歩く。
そうしている内に、【ドールカルト】の拠点に繋がる門が見えて来た。
その門の前で、俺達に手を振る人影が二つ。
「お~い皆。お疲れ様~!!」
「皆様無事で安心でごぜ~ます」
声を聞く感じ、あの人影はロウヒとロレンの二人だな。
「ロレン氏がまた盛大な音楽を……熱烈な歓迎と言った所だね」
「当り前だろう。この僕様が帰って来たのだ、盛大に受け入れてくれなければな!!」
「そう言う問題か?」
「あ、ロウヒちゃんが珍しい服着てるよ~」
言葉の投げ合いをしながら門の前に向かうと、そこにはエプロンを身に纏い、髪の毛を結ってまとめているロウヒの姿が見えて来た。
あの魔女の姿とはだいぶ印象が違うな。
「それではロウヒ様、私達も準備をするでごぜ~ますよ」
「そうだね。皆がドラゴン討伐頑張ってくれたし、私も腕をふるおうじゃないの」
◇
「うんうん!!美味しい!!」
「これこれラファ氏。そんなに急いで食べなくても料理は逃げないさ」
「その食べ方だと絶対喉詰まらせるから。もっとゆっくり食べろゆっくり」
時間が少し経ち、夜になった。
拠点内のボルテージは最高潮に上がり切っていた。
料理を食べながら道を歩く人。
酒を飲み踊る人。
皆楽しそうだ。
村ではここまで盛大な催しなんて無かったし、結構新鮮な気持ちだな。
「美味しい物が食べれる時はガツガツ行かないと駄目だよ。アレもこれも食べられる時間なんてそうそう無いんだから」
因みに俺はレオナとラファの二人と一緒に行動していた。
ロウヒとロレンは言わずもがな裏方の仕事があり、ミケラはロレンに付き添っているらしい。
にしてもアレだな。
自分よりはるかに年上の女性が天真爛漫な様子で飯食ってるのを見るのは、なんか変な感じだ。
「なぁレオナ」
「どうしたんだい?」
「俺、ラファが酒飲みたいって言い始めたら確実に止めに入る自信がある」
「気持ちは分かるとも。まぁ、彼女の年齢的には何の問題も無いのだけど」
二人でそんな会話をしていると、ラファが「どうしたの?」と言いながら振り向いた。
口一杯に食べかすを付けている彼女を見ながら、俺達は二人そろって「なんでもない」と返事した。
「お、皆お揃いだね」
「大いに楽しんでいる様で結構だ!!僕様の民であるなら祭り事は楽しまなければな!!」
「ミケラ様は何もしてねぇでごぜ~ましょう?」
後からロウヒ達の声が聞えてくる。
なんでも、配膳やら料理やらが全て終わったらしい。
「ラファ様。口元に食べかすが付いているでごぜ~ますよ」
「え?!ロレンちゃんそれホント??」
「ダンテは酒飲めるか?これは僕様一押しの一品なんだが」
「そんなにいい酒貰って良いのか?村に居た頃は金が無くてさぁ、こういうの飲むのにちょっと憧れてた所あったんだよ」
「そう言えば、ロウヒ氏は今日何してたんだい?」
「ん~詳しい事は言えないかな。ちょっとした情報収集とだけ」
合流を果たし、ワイワイガヤガヤと色んな雑談をしているさなか、ロウヒがニマニマと笑いながら黄金の容器を取り出す。
「じゃじゃ~ん。今日頑張った4人の為に特別な料理作ってきたんだ」
「特別?」
「そうそう。普段は私一人で食べてるからね」
そう言いながらロウヒが容器を蓋を開く。
その瞬間、鼻を突きさすような異臭が辺りに巻き起こった。
「ロウヒちゃん……これ何なの?」
「味は0点、栄養素は1万点。魔女の料理の中では最高傑作と呼ばれるドラゴンの臓物煮込みだよ」
満面の笑みでなんて物出してやがる。
さっきまであんなに楽しそうだったラファが凄い形相でロウヒの事睨んでるし。
ミケラとロレンに至ってはドン引きしてるじゃね~か。
「昔の魔女達はこれを食べれるかどうかで一人前を認める儀式とかやってたらしいよ。しかも、臓物煮込みを食べた次の日にはアイディアが次々と湧き上がるんだって。私が傀儡人形を始めて作った時もこれを食べたっけ」
ロウヒはロウヒで完全に解説モードに入ってるし。
でも、昔の魔女達の習わしに深くまつわる食べ物なんだな。
ちょっと……興味出てきたな。
「おいダンテ。何でスプーンを構えてる?」
「もしかして、ロウヒちゃんのその料理たべるの?!」
「絶対にやめておいた方が良いでごぜ~ますよ」
大丈夫だって。
ロウヒも食べてるって言ってたし、人体に影響は無いだろ。
行ける行ける。
「おいレオナ。お前もなぜダンテに続いてる?」
「トモダチも口を揃えて駄目って言ってるから!!」
「お二方とも無言なのが怖さに拍車をかけてるでごぜ~ますね」
制止の声を振り切って、俺とレオナはスプーンを構える。
互いに無言だが、レオナの顔を見れば何となく考えている事は分かる。
俺達みたいなタイプは一度興味が出たら止められないんだ。
「これを食べる事で異界の神秘に近づく事が出来るかもしれない」
「これを食べれば先人たちの生活の一部を体験できる」
俺とレオナはそれだけ言うと互いに顔を見合わせ、思いっきりドラゴンの臓物煮込みを口に入れた。
「み゛」
「がッ」
口の中に広がる、この世の物とは思えない豊富な苦味。
想像以上に体が拒否反応を起こす味を前に、俺とレオナはもだえ苦しむ事になるのだった。
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