第8話 ようこそ、我らが【ドールカルト】へ
「ロウヒが魔王から貰ったスキルって、人も保管出来るのか?」
「定員1名だけどね。今度ダンテ君も入ってみる?」
「い、いや。俺は遠慮しとこうかな~」
「歴史的価値のある物が沢山みられるけど、それでも?」
じぃっとロウヒの瞳が近づいて来る。
い、いやいやいや。
普通に考えてあの中に入るのは怖いし嫌だろ。
でも……普通に気になるなぁ!!
ロウヒが集めた道具ってだけでも歴史的価値があるだろうし。
出来る事なら解説聞きながら直に触ってみたい。
「それで、ウチに勧誘するのはダンテ氏だけで良いのかい?」
そんな悠長な事してる場合じゃ無いだろと言いたげな目でレオナと呼ばれていた女性が話に割り込んで来た。
そうだよ、こんな事してる場合じゃ無い。
さっさとここから逃げねぇと。
「そだよ~。だからいつものアレお願い」
「うむ、任された。ダンテ氏、出来るだけ私の近くへ」
「お、おう」
レオナにせかされ、俺は彼女の隣へ移動した。
彼女は背負っていた棺桶を先ほどのロウヒと同じように地面に置く。
そして、レオナの右手で銀色の指輪がキラリと輝いた。
指先からまたもや紫色の糸の様な物が伸びて棺桶に絡みつく。
「さて、ロウヒ氏によって丸裸にされた諸君。そして、これから同胞となるダンテ氏。しかと刮目すると良い。これから披露するのは我々【ドールカルト】の可能性であり、私が積み上げた研究の結晶にして異界の神秘であるのだから」
ドールカルト?
異界の神秘?
聞きなれない言葉が羅列する。
ロウヒを除いた誰もが困惑を顔に浮べる中、カシャリと眼鏡をいじったレオナは棺桶に向かって叫ぶ。
「スキル解放。S級傀儡アーミードール」
バコン!!と音をたて、棺桶の扉が勢い良く開いた。
そこから現れたのは、見た事の無い妙な服装をした女性の人形。
茶色と緑色、ほかにも山などで見る自然の色をごちゃまぜに配置した奇妙な柄の服。
あんな服着てたら、森ではぐれた時に見つけるのが難しそうだな。
だけど、その服装以上に見慣れない物を人形は握っていた。
持ち手のついた真っ黒な筒?
あれはいったい何なんだ?
「武装変更【回転式空中飛行物体】」
そんな俺の思考を置き去りにしてレオナは動き出す。
彼女の声に合わせて、アーミードールの手に持っていた黒い筒が膨張を始めた。
その物体は俺とロウヒとレオナの三人を包む。
「な、なんだ?!小屋にでも変化するのか?」
「それはちょっと違うんだなダンテ氏」
ドッと変な感覚が俺を襲う。
気が付けば、周囲の景色が一変していた。
さっきまで外に居た俺達は、どういう訳だかアーミードールが作った『何か』の中に居た。
その上、俺はその空間でいつの間にか変な椅子に座らされている。
「これは乗り物なのだよ。ダンテ氏の言葉を借りるなら、空を飛ぶ小屋と言った所かな?」
隣の椅子にはレオナが座っていた。
彼女が右手から伸びる紫の糸をグイッと動かす。
今までに聞いた事の無い音が耳に響く。
それに合わせて妙な浮遊感が俺を襲った。
「ちょ、これどうなって?!」
「ダンテ君。窓見ると良いよ」
「窓?」
俺の後ろに座っているであろうロウヒに声を掛けられて、俺はようやくこの空間に窓がある事に気づいた。
窓から外の様子を確認する。
そして俺は自分の目を疑った。
悔しそうな顔でこっちを見つめるアッシュ達が小さくなっていく。
これ、俺達が地面から遠ざかってるよな?
もしかして本当に空を飛んでいるのか?!
「よ~し逃げるよ!私はちょっと疲れたから寝るね」
「ルートはいつもので良いのかい?」
「はいは~い。それでよろしく」
ロウヒからその言葉を聞いたレオナは、また紫の糸を動かした。
そして、彼女の作った乗り物が前に進み始める。
よほど疲れていたのか、ロウヒは寝息を立てて速爆睡した。
そんな奇妙な空間の中、俺は空を飛んだという初めての体験に心を躍らせている。
「ロウヒが売る人形はこんな事まで出来るのかよ」
「まぁ、アーミードールに関しては私が進化させた所もあるのだけどね」
「進化??」
「まぁ、その話は追々だ。今情報を詰め込んだりしたら、ダンテ氏の脳が爆発してしまう」
レオナはニヒヒと笑い声を上げながら俺を見つめる。
結構、怖い冗談言うタイプの子なんだな。
「おっと済まない。自己紹介がまだだったね」
「そんな事言ってる場合じゃなかったからな。俺はダンテ・ワイセンテだ」
「私の名前はレオナ・エストタウン。気軽にレオナと呼んでくれたまえ」
「これからよろしくな」
「うむ」
月明かりが照らす夜の空。
願っても届く事の無いその場所で、俺は正式に彼女達の仲間入りを果たした。
「さて、寝てしまったロウヒ氏の代わりに私が代表して君を歓迎しよう。ようこそ、我らが【ドールカルト】へ」
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