第2話 棺桶背負った自称旅商人の女
「お疲れ様でした」
「お、おおおお疲れ様でした!!」
ギルドは皆が寝静まった深夜に閉める決まりがある。
俺達ギルドの職員は、夜の偵察を受け持った冒険者と顔を合わせてから家に帰る必要があるのだ。
今晩は女の冒険者が担当するらしいのだが……この子本当に冒険者か?
さっきから目に見えるレベルでビビリまくってるじゃないか。
それに年も結構幼く見える。
それなりの装備を貰ってはいるようだが……
「見ない顔だな。最近冒険者になったのか?」
「ヒ、ヒャイ!!きょ、今日冒険者になったばっかりで……正直戦うのとか血とか苦手で……エヘヘ」
「嫌じゃなかったのか?」
「い、いえ!!いえいえいえいえ!!とんでもない!!確かに今も怖くて足が震えていますが、きっとこれも女神様からの試練です。だ、だから頑張って乗り越えます」
そう言った彼女の顔は、まだ恐怖が抜けていない様に感じていた。
こんなにビビリな子を採用するとなると、よっぽど強力なスキルを持っているのだろう。
いっそのこと、俺のスキルと彼女のスキルを交換できるなら良かったのに。
女神様ってのは何を考えているのやら。
「ダ、ダンテさんはこの後何を?」
「明日は休みだからな、寝ずに本を読もうと思ってるよ」
「あぁ、本って歴史書の事ですよね。確か魔王の存在がどうのこうのって」
「貧乏人の趣味と笑われるかもしれんが、これが面白くてな」
そう苦笑いした後、俺は彼女と別れた。
いつになっても煮えきらないものだ。
一冊一冊が安いからと言って歴史に思いを馳せることを貧乏人の趣味とレッテルを貼られるのは。
ロマンを知らないやつに文句なんか言われたくないものだ。
『かつてこの世に存在したと言われる魔王。その正体は、女神様と同じ他人にスキルを与える力をもった一匹の山羊だった』
ってお決まりの語り文句も、この村じゃ知ってるのは俺だけだ。
それどころか、毎朝聞いてる聖書に何故『女神様以外の存在からスキルをもらい受けるなんて罰当たりな事はしない様に』って忠告があるのかすらも知らないのだろう。
この村の連中……かつて魔王からスキルをもらい受け、人類の裏切り者となった人間が7人も居た事なんか知ったら泡拭いて倒れるだろうなぁ。
確かそう……七背って呼ばれてるんだっけか。
「にしても夜はやっぱり寒いなぁ」
「ね~。こんな中で野宿したら凍えちゃうよ~」
「それはそう……って!!うぁぁ!!!誰だアンタ!!」
しれっと俺の隣に知らない人が居る。
なんか背中に棺桶背負ってる女……いや、なんで棺桶を?
「驚かせちゃってごめんね~。私、旅商人なの」
「旅商人?」
「そそ。この村に来たのは良かったんだけど、どこにも泊まれる所が無くてさぁ」
「まぁ、小さな村だしな」
「野宿する用の寝袋は有るの。でも、こんな夜中に私が一人寂しく町の外で寝るのは可哀そうでしょ」
「は、はぁ」
なんだこの人。
めっちゃグイグイ来るんだけど。
「どの建物も大体明かりが消えててさ。もう頼れるのは君ぐらいしかいないんだよね」
「それって……俺の家に泊めて欲しいって事ですか?」
「そう!!私、絶対に迷惑かけないから。なんなら寝てる私にエッチな事しても怒らないからね」
「しねーよそんな事!!!」
駄目だこの人。
思わず叫んじまったよ。
この村には居ないタイプの女性。
王都に住んでる様な女は皆こんな感じなのか?
それとも商人だからこんなにグイグイ来るのか?
「分かりましたよ。俺の家に泊まってください」
「良いの?!嬉しいなぁ、君は優しい人なんだね」
「いや……そんな事ないですよ」
単純にほっとけないんだよ!!
こちとら帰ったら歴史書読もうって思ってるんだ。
ここでアンタの事置いて行ったら、この後どうなったか気になってそれどころじゃなくなるでしょうが。
「あ、そうだ。これも何かの縁だし自己紹介しよう」
彼女はそう言うと、クルンと体を翻して俺の顔をじっと見つめた。
「私の名前はロウヒだよ。よろしくね」
「俺はダンテだよろしく頼む」
あれ、ロウヒって名前どこかで聞いた覚えがある様な。
えっと確か……
そうだ、歴史書に書いていた魔王からスキルを受け取った7人の裏切り者、七背の内の一人。
その中の一人に、ロウヒって名前の魔女が居たはずだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます