第2話 "mirror AI" と 王

 さて、王室には、全国民の血縁関係や生活様式や行動パターンなどのビッグデータを基に、その国で最も極悪非道な人物を割り出す “mirror AI” という人工知能があった。王は定期的に、mirror AIを起動させ、国の存亡の危機に関わる危険因子を、早急に発見し、人目につかないように悪の芽を摘んでいた。


 王子が15歳の誕生日を迎えた年のことだ。王様がいつものように、mirror AIを起動させ、こう問いかけた。


「mirror AIよ、この国を脅かす存在となる悪人は、誰だ。答えよ。」


「はい王様、それは、この国の王子カイザー様です。カイザー様はやがて独裁者となり、王室も国民も欺き、この国を亡ぼすことになるでしょう――――。」


「なんということだ…。第一継承者であるカイザーが…。」

王様はわなわなと震え、考えを巡らせた。


「やむを得ん。これしか方法はない…。あぁ、神よ、この無慈悲をお許しください。この国を守るためには致し方ないのです―――。」


***


 カイザーは月に一度、森に趣味の狩りに出かけていた。残虐なカイザーにとって狩りは生き物を殺しても大義名分がたつ、最高の「遊び」だった。今日の狩りはいつもと違い、王子専属の付き人ではなく、王様の重臣が付き人についた。森の奥のいつもの狩場に着き、カイザーと重臣が二人きりになったその時―――――、


 ドドーンッッッ‐‐‐!!

 重臣はカイザーに向けて、発砲したのだ。狩り中の事故と見せかけての暗殺だった。


 ―――しかし実際には、銃弾はカイザーにかすりもせず、重臣は数人の屈強な男に取り押さえられていた。頭の切れるカイザーは身の危険を事前に察知し、ボディーガードを雇い、森で待機させていたのだ。


「さて、重臣よ、これは誰の差し金だ?クククッ。聞くまでもないか。父上だな?粗方、私の本性に怖気つき、国の継承者として相応しくないとの結論か?実の息子に手をかけるとは、この国の王も大したものだ。」

いつものように、ニヤリと笑うカイザー。

 

 重臣は、王からの特命に失敗し、自害しようとした―――が、カイザーはそれを止めた。


「おいおい、勝手に死なれては困る。お前は城に帰り、王子を殺したと王に伝えよ。証拠に、第一継承者しか持たぬこの指輪を持って行け。間違っても自害などするなよ。おまえのすべての親族の命は私の手の内にあると思え。お前のことは一生、この私が監視しているからな。行けっ!!」

末代まで恨むといわんばかりに、ギラリとした目で不気味に笑った。


 重臣は王子に言われた通りに王に報告し、また国外に逃れた王子をmirrorAIが探知することもなく、王は重臣の報告を信じた。お妃さまは、熊に襲われて遺体もないと告げられたが、信じられないと部屋に籠ってしまった。

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